第10話 陸自の場合

【陸上自衛隊】

 隊員数約15万人と、自衛隊の中でも最大の人数を誇る組織で、ほぼ全国に拠点を構えている。

 海上・航空自衛隊と違い、陸上自衛隊ではほとんどが基地ではなく、駐屯地として扱われる。

 駐屯地と基地の違いだが、簡単に言えば『移動できるか、出来ないか』の違いであり、基地となっている海上自衛隊の港湾や航空自衛隊の空港といった施設は、すぐに代替出来ない、または代替不可能な施設で、移動も出来ないか、すぐに出来ない。

 対して陸上自衛隊の場合、極論であるが、普通科等がどこかの山中に拠点を構えて、「ここを駐屯地とする」と宣言すれば、駐屯地とする事が出来るのである。

 ”仮に”の話であるが、もし陸上・海上・航空自衛隊がライトノベル等で流行っている”異世界”に行く必要に迫られた場合、条件にもよるのであろうが、一番最初に出来る施設等は、陸上自衛隊の”駐屯地”だと思われ、続いて海上自衛隊の港湾、航空自衛隊の滑走路の順ではないかと予想される。

 それだけ陸上自衛隊には自由度があり、即応性も高く、また陸上自衛隊だけで全てが完結する、所謂『自己完結性』も海上・航空自衛隊と比べて高いのである。


○輸送艦いわしろ艦内 0825マルハチニィゴ


 朝食も終わり、いわしろの乗員は朝からせわしなく動き回っている。

 と言うのも、早朝に自衛艦隊司令部より、現在地にて機関停止し、エンジンや発電機等の重要部分の緊急点検を行うように5隻の艦に命令が下っているからであった。

 理由として、呉から出航し関門海峡付近を航行中の補給艦なかうみと、佐世保の艦艇のAISの情報が狂った状態になり、また、そのうち2隻の艦艇で主機もときが原因不明の故障を起こしている。

 AISとの関連は不明ではあるが、AISの情報が明らかにおかしい艦艇に対して、緊急点検が発令されたのである。

 通常であればAISや主機等それぞれを単独で点検を行うものだが、艦魂に艦載機や陸自装備の子供達の出現により、司令部が過敏に反応してしまい、過剰とも思える対応になってしまっている。

 そして、この“北方転地護衛艦隊”では、なかうみや佐世保から遅れること1時間後、5隻一斉にAISに不具合発生の為、司令部への報告と同時に点検となったのである。

 なお、なかうみの件は海上保安庁の、関門海峡海上交通センターにも『AISを切った』と通告し、急遽点検のために佐世保へ寄ることとなったのである。


 ここで“いわしろ”に同乗している陸上自衛隊の隊員達を見てみることにする。

 車両や大型装備の点検している者を除き特にする事もないため、普通科等の隊員達は、支給されている89式5.56mm小銃などの分解整備などを行っている。

「うえぇ!・・・はぁはぁ・・・俺、ぜってーこの船と相性わる・・・うぅ!!」

 男子トイレの個室に立てこもる3等陸曹の男性が、愚痴をこぼしながら胃の中の物もこぼす。

「おーい浜山!大丈夫か!?」

 外からノックと共に、少し年配の人物らしい声が聞こえる。

 浜山と呼ばれた3曹は、顔を上げ外の男性に返事する

「も、もう大丈夫です、分隊長!すみません、すぐ出ます!」 

 ゆっくり立ち上がろうとしてまた気分が悪くなる浜山に、外にいる分隊長が少し焦ったように声をかける。

「悪いが、外にいるお前の彼女の3尉さんと、もう1人美人の3尉さんと一緒に行って欲しい所があるんだ!」

「な、長浦3等海尉は彼女じゃなくてですね!単なる知り合いと言うか、友達といいますか・・・」

 長浦と浜山は岩代3佐が原因で知り合いとなり、それ以降交流を行っている。

 以前は、いわしろ乗員の数名と渡河器材小隊などの数名とで、出雲大社へ一緒に初詣に行ったりなどしている。

 そのため、周りからは付き合っていると思われているが、実際はそうでもない。

 ただ浜山は、自分でもはっきりしない気持ちに苛立ちを覚えていて、それを出さないように努めている。

「御託は良いから、さっさと出て来い!上官を待たせるな浜山!」

 そんな浜山の言葉を遮り、分隊長は浜山を急かす。

 慌てて水を流すと、急いで個室から出て分隊長の前に立つ。

「すみませんでした!それで、どちらに長浦3尉ともう1人の3尉さんがいらっしゃるのですか?」

「外に出てすぐだ。」

 それに対して返答した浜山に、「それから、ちょっといいか?」と手招きする分隊長。

 浜山が何事かと近付くと、分隊長から耳打ちされる。

「どっちが本命でも、別れるんならきっちりしろ?3尉さん達に刺されて入院なんてするなよ?頼むぞ?」

「ぶ、分隊長!私は長浦3尉とは友達ですし、もう1人の方は存じ上げていません!だから刺されませんよ!」

 慌てて敬礼し、トイレの外に出た浜山の目の前に、長浦ともう1人が立っている。

 酔いのため青くなっている顔を少しだけ赤くし、直ぐに不動の姿勢から10度の敬礼する浜山と、挙手敬礼で答礼する2人の3尉。

「浜山3曹、こちら御船3尉です。突然で申し訳ありませんが、これから私達に付き合っていただきます。」

外で会った時とは違う雰囲気の長浦に飲まれそうになりながら、浜山は先を歩く2人の3尉に遅れることがないように後ろをついていく。


○輸送艦いわしろ 士官室 0845


 海幕は今朝の会議で、昨夜に突如現れた陸自装備の彼等の事を、陸上自衛隊に対して、輸送艦”いわしろ”と護衛艦”とさ”の艦長から報告するよう下令した。

 追加として、必要があると各艦長が判断した場合、飛行隊の子供達に関してのみ、消極的にではあるが情報を開示する事が認められた。

 また万が一、先に陸自側に飛行隊の事が漏洩した場合は素直に認めても良いが、”艦魂”に関しては漏洩したとしても、極々一部の事例を除いて、絶対否認するようにも付け加えられている。

 そこで朝食後すぐ、”いわしろ“艦長の川原は、副長の小松と共に艦内での陸自最上位者である、第13旅団第13特科隊々長の1等陸佐である勝田へ、状況説明を一部伏せて行っている。

「・・・以上が、この時間までの状況説明です。」

 川原は、自身から見て右側に座る勝田を見やると、やや顔がこわばらせ、視線を鋭くして川原を睨みつけている。

 反対の左側に座る小松も、やや顔が強ばっているように見えるが、気が気ではない様子も見て取れる。

 川原はというと、勝田の視線を気にもしていないように、努めて冷静に、穏やかな声で対処している。

「何か、質問は御座いますか?勝田1佐?」

 丁寧に問いかける川原だったが、勝田は表情は変わらず、怒気だけは先ほどより増しているようである。

「川原艦長!?質問も何もそんな話、信じられる訳がない!もし本当だとしてもだ!なぜここに当の彼等がいない!」

 勝田は川原を睨みつけたまま、テーブルに右の拳を勢いよく叩きつける。

 小松は一瞬目をつぶり、川原はそれに動じることもなく、勝田を見ている。

「艦長!大丈夫ですか!?」

 音は外まで聞こえたらしく、外にいた人物が、慌てたような声で中の様子を確認しようとする。

「何でもない、大丈夫だ!私がテーブルにぶつかっただけだ!何かあったらすぐに呼ぶからそれまで気にするな!いいな!?」

 川原の声に「了解しました、艦長!」と、すぐに返答がある。

「いきなり会わせて、先程のような事があれば、何が起きるか分かりません。ですから、事前に説明させていただきました。勝田1佐がよろしければ、今すぐこちらに来ていただきますが?」

「今すぐ会わせて欲しいし話も聞きたい!でなければ、納得がいくわけがない!」

 腕を組んで、深くかけなおす勝田を見やってから小松にアイコンタクトを送る。

 小松は静かに立ち上がると、扉まで行って少しだけ開けると、外で待機していた人物に声をかけ連れてくるように伝えている。

 すると、外の人物も何事かを伝えて、離れたようである。

 小松は扉を閉めると、歩いて川原に近付き、耳元で何事かを囁いて、自分の席に座る。

「また、いつかのように隠し事ですか?」

 川原に冗談めかして言ってはいるが、勝田の眼光だけは鋭いままだ。

「これは陸上自衛隊そちらへお伝えしても問題ありません。大した事ではないのですが、AISの表示がおかしい状態になっておりますが、航行には支障はありません。ですが、5隻に停泊命令が出ていて、補給艦”なかうみ”がこちらに来ることになりました。今現在で14時間停泊している事になっていたり、佐世保の護衛艦達のAISが停波したり、主機が故障と、不可解な現象が起きています。横須賀も含め全基地で確認されていて、異常が確認された艦艇はAISの使用を停止して、主機の点検も行っています。ただこれらについては、今の所海自のみの現象です。」 

 艦隊の停泊は計画に無い完全に予定外で、かつ、いつまでになるか分からないものである。

 そのため、食料の積み増しの必要性から、呉にいる補給艦“なかうみ”が緊急出航に近い形でやむを得ず派遣することになったのだが、“なかうみ”にも異常が発生し佐世保に向かっている事は、まだここには伝わっていない。

 そして川原の説明を聞き、勝田は腕組みを外し、軽く前のめりになる。

「AISとは?」

「はい、艦艇、船舶の自動識別装置の事です。航空機のトランスポンダのようなものですね。こちらの詳細は必要でしょうか?」

「いや、いい。それよりも子供の方だ。情報が欲しい。」

 右手を数回小さく振り、川原の言葉にやや被せるように発言する勝田。

 小松は気分的には不愉快になりつつ、何事も無いように静かに座っている。

「分かりました。これからここに来てもらう子供は、我々の聞き取りに対し、13特科隊で第1中隊のFH-70と名乗っています。また、念のためにと射程や運用について、いくつかそれとなく数名で別々に聞くよう指示しました。結果、同じ内容で淀みなく回答したそうです。こちらが結果です。ただ、我々では真偽のほどが定かではありませんので、ご確認下さい。」

 川原がA4のコピー用紙を半分にしたような紙を差し出すと、勝田は受け取って一字一句見逃さぬように内容を確認していく。

「これは・・・本当に子供が答えたものなのか・・・?」

「勝田1佐、驚いているところ申し訳ありませんが、もう一つお伝えする事があります。」

 その言葉に勝田は、書類から視線を外して、川原を見やる。

「今度は?」

 不快感を込めて、川原に言葉を投げつける勝田。

「もう聞いてはいると思いますが、私からも報告します。“とさ”に乗艦されている5隊司令より、子供達の第1発見者として、うちの長浦・御船両名と共に、第4施設団第304施設隊渡河器材小隊の浜山陸斗3等陸曹にも事情聴取したいということで、我々の作業艇にて、現在向かってもらっています。」


○輸送艦いわしろ作業艇“いわしろ02” 日本海洋上 0833


 現在、北方転地護衛艦隊各艦の距離は離れている。

 理由としては、自衛艦隊司令部の判断で、別の異変が発生する可能性を恐れ、わざと空けさせている。

 しかし、佐世保と日本海沖との間は距離が離れていて、似たような症状が出ているのだから、この様な措置も無意味に感じる。

 しかし、今の司令部にそこまで細かい所を考えている余裕が、無いとも受け取れる。


 時間を戻して、艦長と13特科隊長が会談する前、”いわしろ”から、11m作業艇“いわしろ02”が、護衛艦“とさ”へとスピードを出して向かっている。

「陸自さん!?大丈夫か!?悪いけど、もうちょいだから、なんとか我慢してくれ!」

 作業艇を操船している海曹が、灰色のカポック(救命胴衣)を着用した浜山に声をかける。

 呼び掛けられた浜山は、艇のへりから顔を突き出して、こみ上げてくるものを必死にこらえている。

 横にいる長浦は心配そうに寄り添い、浜山の背中をさすっている。

「だ、大じょ・・・ぶ!・・・うっ!・・・大丈夫です!!うぐっ!!」

 顔を操縦する海曹に向けようと持ち上げかけ、すぐに海面と向き合う。

 既に”いわしろ”内で胃の中を空っぽにしているため、口から液体を少量、相当辛そうに吐き出している。

 隣で背中をさすっている長浦は時々、護衛艦”とさ”を見ながら浜山に声をかけている。

「浜山3曹!もうすぐ“とさ”に到着しますから、もう少し耐えて下さい!!」

 操船している海曹は、海面に向かって吐いている浜山を見て、もう1人乗船している海曹と、長浦に大声をかける。

「おい!船務士殿に水を渡してやってくれ!!長浦船務士!その水、彼に飲ませてやって下さい!!」

 もう1人の海曹からPETボトルを受け取ると、キャップを開けて浜山の右手に握らせる長浦。

 浜山はそれを受け取ると、少し水を含んで口の中をゆすぐと、海面に向かって吐き出す。

「海里!ちょっといい!?」

 呼ばれた長浦は、腰を浮かしかけて浜山をちらりと見やり、すぐに御船の方へ向かう。

「どうしたの、祥子?」

「海里、彼がなんで私達と一緒か、船務長から聞いてる?」

 長浦に理由を聞くと、その後ろにいる浜山に視線をやる御船。

「私も聞いてないよ?食堂で『至急3人で”とさ”に』としか聞いてないし、浜山3曹は全く聞いてないみたい。」

 御船は今回の件に一切関係無いはずの浜山と、一緒に“とさ”へと向かう事に対して、同乗している海曹達に聞かれないように会話する。

 “とさ”に到着すると、3人はすぐに移乗する。

 “いわしろ02”はそれを見届けると、180度回頭して”いわしろ”に向かって戻っていく。


○護衛艦とさ 艦長室 0852マルハチゴーニィ


 “とさ”に到着した3人はそのまま艦長室へと、出迎えた3尉に案内される。

 浜山はふらつく体をなんとか抑え、気丈に振る舞ってはいるが、顔は青いままである。

 先導していた3尉が艦長室に到着を告げると、長浦と御船を先に入室させ、浜山に待機を告げる。

 2分ほどして中から声がかかって、浜山が入室の挨拶をすると、先に入室していた御船の左側に誘導され、案内した3尉は入室せずにどこかへ歩いていく。

「私は艦長の高崎だ、よろしく浜山3曹。それから、こっちは君から見て右から、砲雷士の河内こうち、船務士の緒方、航海士の月野、気象士の立川だ。」

 高崎が、自分の横に並ぶ女性の幹部達を自分のそばから順番に紹介し、挨拶させる。

 全員、とさの部隊識別帽を左手に持ち不動の姿勢でいたが、高崎から休めと声がかかり、手を後ろに組み休めの姿勢をとる4人。

 長浦が視線を4人の肩と胸にさり気なくそれぞれに向けると、乙階級章とネームプレートが外されているのに気付く。

 御船も気付いているが、浜山はそれに全く気付く様子も無い。

 ただ、彼は陸上自衛官であるのだから、見慣れない海上自衛官の、しかも士官の作業服の些細な変化に気付かないのも肯ける。

 しかし、浜山はなんとも言えない、何かの雰囲気を感じているのか、さり気なくであるが、もう一度視線を4人に向けていく。

 高崎は立ち上がると、応接用のソファーに向かいながら浜山に話しかける。

「突然の招待申し訳ない。5隊司令が呼んだことになってるが、実は司令了解済みで俺が呼んだ。事情聴取させてもらう。長くなると思うから、浜山3曹は私の正面に“いわしろ”からの2人はその左隣にかけてくれ。」

 事情聴取と聞いて、身に覚えのない浜山は内心で首を傾げるが、高崎に促されるままに応接ソファーの前に立つ。

 高崎がソファーの定位置に座ると、一拍遅れてソファーに座る3人。

 座った事を確認すると後ろの人物達へ、3人にお茶を渡すように声をかける。

 すると、河内こうちが動き、500mlのPETボトルを持ってきて御船からテーブルに置いていく。

 河内こうちが浜山の前に置いた時、その手を見た浜山は、ゆっくりと河内こうちを見上げる。

「あの、何か?」

「い、いえ。何でもないです。失礼しました。」

 浜山を見下ろす形になっている河内こうちは、単に疑問に思って聞いただけなのだが、浜山は青かった顔が白くなっているように見え、すぐに高崎の方に向きなおる。

 すると扉がノックがされ、外から案内した3尉の声が聞こえる。

 浜山用に、酔い止めの薬を持ってきたようだ。

 それを緒方が受け取り、箱からシートを出して2錠分切り離すと、残りを3尉に返して浜山に渡しに行く。

「こちら、水無しでそのまま飲める酔い止め薬です。どうぞ。」

 浜山の左後ろから薬を差し出すと、彼は体を少しだけひねり、礼を言って右手で受け取り、すぐさま薬を口に入れ飲み込む。

 念のためにと、浜山はキャップを開けて少しお茶を飲み、流し込む。

「落ち着いたか?」

 浜山の様子を見ながら紅茶を飲んでいる高崎は、そう声をかけると、カップをソーサーに置く。

「はい、少し落ち着きました。お気遣いありがとうございます。」

 先程よりは、幾分顔色が戻っている浜山に、高崎は続ける。

「そうか。多分偽薬プラセボ効果だろうけど、良かったよ。それより、重要な事がある。聞いてくれ。」

 急に真剣な顔つきになり、PETボトルのキャップ閉めている浜山を見る。

 ボトルをテーブルに置いた浜山は、背筋を改めて延ばし直す。

「了解しました。どういった事でしょうか?」

「君は間違い探しは得意なようだが、どうだろうか?」

「えっ?間違い探し・・・ですか?そこまで得意というほどでもありませんが?」

 真剣な表情で聞かれた浜山は、多少面食らいながらも答える。

「そうなのか?入ってきた時から気付いていそうだったんだが・・・。私の気のせいだったかな?もし、何かに気付いたなら、何時でも直ぐに、何でも良いから報告してくれ。」

 そのやりとりを見ていた長浦は、若干そわそわと落ち着かない様子でいる。

 対照的に御船は長浦の太ももを右手で軽く叩き、視線を向けさせると軽く首を左右に振り、正面に向き直る。

「あの、それでしたら、よろしいでしょうか、艦長?」

 右手を拳の状態で挙げると高崎に訪ねる。

 高崎は許可すると、少しだけ前のめりになり、浜山の発言を聞き逃すまいとしている。

「上手く説明出来ないのですが、あちらの4人の方のうち、3人の方から違和感と言いますか、1人の方から違和感を感じないと言いますか・・・。どう説明したら良いか・・・申し訳ありません。」

 高崎は姿勢を崩さず、浜山に即座に質問する。

「違和感を感じる?具体的に答えられるか?」

「はい、違和感は河内こうち砲雷士、月野航海士、立川気象士から感じます。緒方船務士からは感じませんでした。ただ、具体的にとなると、説明が・・・」

「し辛いのか?それとも出来ないのか?」

「少し、し辛いです。その・・・これを言って、信じていただけるのか、という問題もあります。」

「信じるか信じないかは私が決める事だ。浜山陸斗3等陸曹、君はそのまま私に報告せよ。」

 浜山の返答に間を開けず質問し、最後は命令する形で会話をしめる高崎。

 浜山は少し間をおき、長浦の方を向く。

「長浦3尉。あの方の事、高崎艦長に報告してもよろしいですか?」

 長浦は高崎に1度うなずくと、浜山を見る。

「高崎艦長への報告に必要であれば、私が3佐へ事前に許可はとってありますので、大丈夫です。」

「3佐?長浦、誰かが絡んでるのか?」

「それについては、浜山3曹の説明に出て来ますので、彼の話を聞いていただけるでしょうか?」

 浜山は長浦の言葉に(事前に?)と疑問に思うが、高崎の待ちきれない様子と長浦に促され、すぐ頭の中で簡単に報告をまとめる。

「高崎艦長、報告させていただきます。以前、私は隣の長浦3尉と共に、そちらの3人の方と似たような3佐と”いわしろ”でお会いしたことがあります。」

 少し驚いたような顔をする高崎。

「ほう?陸自の君が何でまた“いわしろ”で?」

「以前行われた協同転地演習での事でしたが、夜間、今回のように船酔いで苦しんでいたところ、薬を飲むための水を頂いたのがきっかけです。その3佐は、昔の知り合いと雰囲気がそっくりだったんですが、こちらの3人の方も、3佐と昔の知り合いに似ているのです。」

「で、その3佐と、もう1人の知り合いというのは?」

「はい、輸送艦いわしろの艦魂である岩代3佐と、もう1人は『神様の見習い』です。」

 浜山の発言の直後、全員静まり返り艦長室には無機質な機械の低い音だけが聞こえるだけになった。

「か、神様の見習いだと!?そんなのからは聞いてないぞ!?と言うことは何か!?と、あっ、河内こうち、月野、立川が、浜山の言う、その3佐と同じ『神様の見習い』だって言うのか!?」

 やっとの思いで言葉を発した高崎は、4人に顔を向ける。

 4人も流石に想定外だったのか困惑しているようで、河内こうちはポーカーフェイスながらも高崎に向ける視線には困惑の色が混じっており、緒方と月野はお互いに向き合い、立川は驚きのあまり大きく目を見開いている。

 そして御船と、知っていたであろう長浦も驚きで浜山を見たまま固まっている。

「岩代3佐はご本人で“艦魂”だと仰っていて、神様の見習いでは無いと否定されています。しかし、普通の人からは感じないものを岩代3佐と、そちらのお三方から感じており、緒方船務士からは感じられません。」

 一旦区切って高崎の様子をうかがう浜山は、さらに続ける。

「艦長が最初に仰った間違い探しですが、答えが2つあると思われます。1つは普通の人を基準にした時、『3人の方々が我々と違う』と答えます。もう1つは、4人の中でという事であれば、『緒方船務士が違う』と答えさせていただきます。以上です、高崎艦長。」

 再び沈黙する艦長室内の8人。

 高崎は背中を背もたれに預け、瞑目する。

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