第13話 決闘
「なぜ、裏切った、スカイグレイ」
トマトレッドが詰め寄る。
「なあに、おれは最初から黒の帝国に忠誠を誓うスパイだったのさ。黒の帝国に忠誠を誓ってさえいれば、黒の帝国はちゃんと安息の場所を用意してくれる。命を賭してまで、光の者に従ったりはしない」
「くそっ」
二人の間で、剣と剣の間合いを間に挟んで、間ができる。
トマトレッドとしては、光の指導者を黒の帝国に知られた失態を取り戻さなければ、死んでも死にきれない。
一方、スカイグレイとしては、大功績だ。このまま、トマトレッドを倒して、任地に帰りたい。
悠然。二人の剣士の間に間があった。
そして、一閃。
トマトレッドの剣が、スカイグレイの体を真っ二つに引き裂いていった。トマトレッドの勝ちだ。トマトレッドの剣は、赤い血を垂らして、スカイグレイの死体の上にのしかかった。
「くそうっ、なんてことだ」
勝ったトマトレッドは、それでも犯した損失に落胆する。光の指導者の位置を黒の帝国に知られてしまったのだ。取り返しのつかない失敗だ。
「また、戦争が起こるわね。そして、大勢の人が死ぬの」
スターホワイトが淡々という。
トマトレッドとしては、感無量の思いでここを訪れたというのに、こんなことになってしまって、本当に立つ瀬がなかった。
「あら、話はこれで終わりじゃないわ。実は、わたしも黒の帝国のスパイなの」
そういって、クリームイエローがスカイグレイの持っていた剣を拾い上げた。
「こちら、黒の帝国第一師団第一小隊。今、光の指導者の位置を確認しました。位置は、104の304。至急、対処お願いします」
クリームイエローが黒の帝国に通信をとる。
そして、剣をトマトレッドに向かって構えた。
「いくらお前でも、容赦はしないぞ」
トマトレッドが再び、長い剣を持って構えた。
「今まで、あたしたちに気がつかないなんて、とんだお間抜けさんなんだよ」
「うるさい」
トマトレッドとクリームイエローが、それぞれの剣を持って対峙した。
一閃。
トマトレッドの剣がクリームイエローの胸に突き刺さっていた。
ぐったりと倒れるクリームイエロー。
生き残ったトマトレッドも、この追いつめられた状況に焦りを隠せない。
五人の光の仲間のうち、二人が裏切り者だったのだ。その被害は甚大だ。絶対に秘密にしておかなければいけないはずのスターホワイトの居場所を黒の帝国に知られてしまったのだ。
光の者たちが八十万人の死者を出してでも守りつづけたスターホワイトの居場所である。その情報の価値は計り知れなく大きかった。スターホワイトを巡って、再び光の者と黒の帝国で戦争が起ころうとしているのだ。戦争のきっかけを今、目の前でつくっているのだ。スターホワイトの居場所が黒の帝国に知られたのが自分の責任だと思うと、トマトレッドは蒼白になり、背中を滝のような汗が流れるのだった。
今、四人の仲間のうち、二人が死んだ。トマトレッド自らの手で引導を渡したのだ。トマトレッドはふと不安になる。四人の仲間のうち、二人がスパイだったのだ。だったら、残りの二人はどうだ。
トマトレッドはカーキーを見る。
すると、カーキーはクリームイエローの死体から剣を受けとっているところだった。
「おれがスパイだとお前は見抜けなかった」
カーキーがいった。
「おれが連絡すれば、今日中に一個師団がこの場所を攻撃にやってくるだろう」
カーキーはつづける。
「おれの潜入捜査は成功だった。これで光の者の希望は失われ、黒の帝国の覇権がますます確立されることだろう。今まで、苦労して味方のふりをしてきた甲斐があった」
カーキーは剣をトマトレッドの鼻先にむけ、ぐるりとトマトレッドの周りを歩く。
「こちら、カーキー。黒の帝国皇帝直属軍に告ぐ。光の指導者の位置は104の304だ。応援を頼む」
カーキーが自分の通信機で上官に通信をとる。
ぐしゃっと、カーキーが通信機をつぶした。
「これでおれの仕事も終わる。お前を殺し、光の指導者を殺し、そして、晴れて部隊に凱旋だ」
カーキーの剣は相変わらず、トマトレッドの鼻先に向けられている。
トマトレッドは肌で呼吸を感じとっていた。持っている剣は下段の位置にぴたりと止まったままだ。
「まさか、カーキーが黒の帝国のスパイだったなんてな。まるで気づかなかった。おれの失敗だ」
トマトレッドがいう。
「だが、このまま終わらせはしない。あんたを倒し、スターホワイトを守りきってみせる。戦いはまだ始まったばかりだ」
二人の剣が寸分の狂いもなく止まる。
刹那。
一瞬の隙が生じた。
一閃。
宙を惑うカーキーの剣を避け、トマトレッドの剣が深々とカーキーの体に突き刺さる。
「まさか、負けるとは」
カーキーが呟きながら倒れた。
勝ったのはトマトレッドだ。
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