第14話 未来をとりもどす代償
カーキーが倒れると、その剣をターコイズブルーが握った。
「嘘だろ」
トマトレッドが驚いた。
「悪いけど、わたしも黒の帝国のスパイなの」
ターコイズブルーが告白する。
げほっ、げほっ、とターコイズブルーが血を吐き出した。
「なぜ、なぜなんだ」
トマトレッドの悲痛の声が洩れる。
「あなたに会う一日前、黒の皇帝がわたしの前に現われて約束をした。トマトレッドのあとをつけ、光の指導者の居場所を突き止めたら、黒の帝国の貴族の地位を与えると。その話にわたしはのった。わたしは黒の皇帝の勅命を受けた黒の帝国のスパイだ。こうして、見事、光の指導者の居場所を突き止めた」
「なぜ、光の力を信じなかった。なぜ、黒の帝国などに力を貸したんだ」
「わたしは苦しかった。この苦しみをなくす方法は、黒の帝国の方が知っているとわたしは思った」
「確かに、それはそうだけれど」
トマトレッドがことばに詰まる。
何もかもが、原因は黒の幹部が仕かけた呪いにあるのだ。黒の幹部が呪いをかけた直後に、黒の皇帝がターコイズブルーのもとを訪れたことになる。何もかもが、原因はあの忌まわしき呪いのせいなのだ。
「だったら、勝負しろ。このわたしと。光の者の運命をかけて」
ターコイズブルーが大きく剣を振るった。
やむをえず、剣を構えてターコイズブルーに剣を向けるトマトレッド。
ターコイズブルーとトマトレッドの二人がお互いに剣を持ち合って、対峙していた。
お互いに真剣勝負だ。一部の隙も見せるわけにはいかない。
トマトレッドは、ここまで三人を斬り殺して、リズムに乗っていた。この調子で、ターコイズブルーも斬り殺してしまいそうな勢いだ。
一方、重たい剣を扱いきれずに、剣に振りまわされている感じのターコイズブルー。少し、その姿勢には不安が感じられる。
勝負は一瞬で決まる。
トマトレッドが勝つか、ターコイズブルーが勝つか。トマトレッドの肩には、光に従うものすべての運命がのしかかっているし、ターコイズブルーの肩には、黒の皇帝の小汚い謀略がのしかかっている。トマトレッドは負けるわけにはいかない。
この宇宙の運命を遠くまで見通す目を持ったものがいた。その者は、この勝負を非常に興味深く眺めていた。
かつて、恋する運命にあるとされた相手ターコイズブルーと剣を構えるトマトレッドの心境は、錆びた鉄橋のように崩れかかっていた。もし、トマトレッドが敗れることになれば、光の命運を一身に受けたスターホワイトの身が危険にさらされることになるのだ。これは、光のものの一斉崩壊を引き起こしかけない重要な一戦なのだった。
ターコイズブルーとトマトレッドが、剣を構えてお互いに見合った。
間には、一瞬の静寂があった。
一閃。
二つの剣が舞った。
深々と剣に刺されて崩れ落ちたのは、トマトレッドの方だった。
「おれがお前を殺せるわけないだろう」
トマトレッドの最後のことばが流れ落ちた。
トマトレッドはターコイズブルーの剣に胸を深く斬りつけられ、力つきて倒れた。
トマトレッドが死んだ。黒の帝国に単身抵抗を試み、仲間のようなスパイたちを引き連れて、スターホワイトのもとまでたどりついたトマトレッドが死んだ。
トマトレッドの死とともに、ターコイズブルーの呪いが解ける。
トマトレッドとターコイズブルーが黒の帝都で出会い、恋に落ち、二人で共に協力して黒の帝国から脱出することを試みるという歴史が、すぐそこで音を立てて崩れ落ちている。見事、黒の帝国から脱出した二人が、光の指導者のもとにたどりついて、星を生き返らせるために尽力するそんな歴史が、すぐそこで音を立てて崩れ落ちていた。
ターコイズブルーの呪いが解けていた。それとともに、失われたありえたかもしれない歴史がターコイズブルーの頭の中を駆け巡っていっていた。
ターコイズブルーが今さらながらに、トマトレッドと恋に落ちた。ターコイズブルーが死んだトマトレッドと今さらながらに恋に落ちていた。
「そんな」
ターコイズブルーは今ある現状の悲惨さを思って、思わず体の奥から涙がこみ上げてきていた。なんて悲惨な歴史を生きてしまったのだろう。よりによって、ターコイズブルーは、トマトレッドを諜報するスパイとして生きてしまったではないか。
これがターコイズブルーにかけられた呪いというものなのだ。ひとつの恋というものを失ってしまう呪いだったのだ。その恋は確かに失われた。
恋の相手、トマトレッドをターコイズブルー自らが斬り殺してしまうという結末をもって、ひとつの恋は終わってしまった。
「わたしはやっと正気になれた」
ターコイズブルーがいった。その腕は、倒れてしまったトマトレッドを強く抱きしめていた。
「憎い。わたしをこんな目に合わせたすべてが憎い」
ターコイズブルーが目をいからせた。
失われてしまったトマトレッドの死体は、ターコイズブルーの腕の中で空しく眠るのみである。
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