第7話 闇を抱えるもの
「じゃあ、ターコイズブルーはどうなの。ターコイズブルーだって、あたしたちの味方かもしれないじゃない」
クリームイエローはいった。
さすがのカーキーも、その可能性は考えていなかった。トマトレッドとターコイズブルーは仲の良い仲間に見えていたからだ。
これで、ターコイズブルーも、トマトレッドに潜伏しているスパイなのだとしたら、カーキーよりも上手な潜伏活動をしているといえた。
カーキーはその可能性を確かめるために、慎重にターコイズブルーを呼び出したのだった。げほっ、げほっ、とターコイズブルーが血を吐き出す。
「ちょっと、トマトレッドにはいえない話があるんだ」
カーキーはそういって、トマトレッドとターコイズブルーを引き離した。
ターコイズブルーは慎重に、カーキーの話を聞いた。
「黒の帝国に忠誠を誓う気はあるか」
カーキーは単刀直入に聞いてみた。
「何を。黒の帝国なんて、笑わせるわ。黒の帝国はわたしに呪いをかけた張本人。切り刻んでやることはあっても、従ういわれはないわ」
ターコイズブルーはそういう。これは脈はかなり薄いと思えた。黒の帝国は、ターコイズブルーにとっては呪いをかけた張本人。確かに、従ういわれなど、これっぽっちもなかった。
「もし、もし仮に、ここに黒の帝国の重要人物がいたとしたら、どうする」
カーキーがそういった。これが、カーキーの正体を明かせるぎりぎりの線だった。カーキーは黒の帝国の重要人物なのだ。
「重要人物? もしそれが皇帝陛下自身だというのなら、ちょっとは話は別ね。でも、黒の帝国の有象無象の下っ端たちにあたしは用はないのよ。あたしに呪いをかけた罪で、ぎたぎたに切り刻んでやる」
ターコイズブルーがいった。
これの様子では、ターコイズブルーは呪いをかけた黒の幹部のことを相当恨んでいそうだ。曲がり間違っても、その黒の帝国の支配下に入っていることはなさそうである。
試しに、カーキーはもう一押し、ターコイズブルーが黒の帝国のスパイなのかどうかを確かめてみることにした。
「実は、ターコイズブルーが黒の帝国のスパイなんじゃないかという疑惑が持ち上がっているんだ」
カーキーが鋭く切り出した。
あたしが、なんで? そんな返答をカーキーは予想した。ところが、返ってきた返答は予想を覆すものだった。
「あははははははっ、あたしが黒の帝国のスパイだとよく気がついたね。褒めてあげる。そうよ、あたしは黒の皇帝の勅命を受けたトマトレッドへの諜報員。黒の皇帝の勅命があるのよ。あなたたち雑魚どもなんか、あたしの命令書ひとつでいくらでも片づけてあげるわ」
カーキーは口が開くほど驚いた。黒の皇帝の勅命だというのなら、黒の皇帝直属部隊にいるカーキーより命令が優先されることになる。トマトレッドのもとに潜伏した三人のスパイのうちで、最も強い優先権を持っているのはターコイズブルーだ。
「あたしがスパイだと見抜いたなら、もう手加減はしないわ。早々に消えてなくなればいいわ」
ターコイズブルーが黒の皇帝の勅命のもとに黒の兵隊に命令を出そうとした。
カーキーはそれを慌てて止める。
「待て。待ってくれ。おれたちも、黒の帝国のスパイなんだ」
カーキーのことばに、ターコイズブルーは驚く。
「はあ。それじゃ、三人で別々にトマトレッド一人を見張っていたっていうことなの?」
「どうやら、そうらしい」
げほっ、げほっ、と血を吐きながら、ターコイズブルーが驚く。
「黒の皇帝は、あたしに帝国の貴族の地位を約束したわ。本当に果たされるのかな。なんか、やばくなってきてない」
「黒の皇帝が約束したのなら、それはその通り、果たされるだろう。貴族の地位でトマトレッドを売り渡したのか。案外、トマトレッドにも高い値がついたな」
カーキーは素直に驚く。
そして、話が終わってから、トマトレッドを見る。
ひとりぼっちの戦士だ。黒の帝国に反乱を起こしてから、その実は一人の仲間も得ることができないでいる。孤独な戦士だ。新しく仲間に入ったように見えた三人の仲間には、それぞれ心に闇を抱えていたのだ。
トマトレッドと黒の帝国の戦いは一刻の余裕もなく、さらなる佳境へと進展していく。
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