第6話 騙し潜むもの
四人は黒の帝国の地下道を進んだ。黒の帝国からはみ出したならず者たちが巣くうあまり安全とはいえない道ではあったが、一度進むと決めたからには、その道を変えることはできなかった。黒の亡者たちを追い払いながら、少しづつ地下道を進んでいった。
トマトレッドは血を吐き、倒れそうになるターコイズブルーに付きっ切りだった。ターコイズブルーは今にも死にそうな難病を抱えている。全身を激痛が襲って、とても素直に旅をしている状態ではなかった。そんなターコイズブルーの看病に、トマトレッドは必死になっていた。トマトレッドの所為で抱えこんだ難病なのだ。放っておくわけにはいかなかった。
「わたしを助けてくれれば、誰でもいい。わたしを助けてくれれば誰でもいいの。誰か助けて」
ターコイズブルーは激痛に耐えれなくなってそんなことをいう。そのことばを聞いてトマトレッドは落胆する。ターコイズブルーは、この呪いを解くためならば、黒の帝国にも跪くのだろうか。
「駄目だよ。いくら苦しくても、気をしっかり持たなくちゃ。いくら苦しくても、黒の帝国の力を借りては駄目だよ」
そうトマトレッドが教え諭すのだが、ターコイズブルーは聞く気を持たない。
「げほっ、げほっ、あはははは、間抜けなトマトレッド。黒の帝国だろうと、この呪いを解いてくれるのなら、あたしの全霊を捧げるわ。げほっ、げほっ。お願いだから、この呪いを解いて」
ターコイズブルーは苦しそうに、トマトレッドの体にもたれかかる。ひとりで立っていられる状態にない。
ターコイズブルーは、このように敵味方もわからないぐらい激痛で錯乱していた。それを支えるのに、トマトレッドは必死だ。
一方、それを遠く離れて見ているカーキーとクリームイエローの間にも、ただならぬ緊張感があった。
激戦練磨の達人カーキーは、新しく入ってきた新人クリームイエローを嘲笑の目で見る。
「おれたちの中に裏切り者がいる。わかるか、クリームイエロー」
カーキーは問いつめるような口調で、それとなく裏の意味をほのめかす。
そういわれて、心臓が止まるぐらいどきりとしたクリームイエロー。
「あらら、どういう意味かなあ、それは」
クリームイエローがそれとなく意味をはぐらかす。
「そのままの意味さ。おれたち四人の中に裏切り者がいる。そいつは、黒の帝国の送りこんできたスパイだ。おれには確証がある」
凄みを利かせるカーキー。
一方的にうろたえるクリームイエロー。
「どうして、そんなことがわかるの、カーキー」
苦しまぎれに、クリームイエローが根拠を質問する。
「そいつはまだ教えるわけにはいかない。気のいい仲間のふりをして、おれたちの仲間に入った目的は何だ、クリームイエロー」
カーキーが問いつめる。
トマトレッドとターコイズブルーは遠くで傷の看病をしていて、このやりとりに気づいてはいない。
クリームイエローは焦って周りが見えなくなる。なぜだ。自分が黒の帝国のスパイだと気づかれている。
クリームイエローは黒の帝国第一師団第一小隊に所属する工作員だ。今回、トマトレッドの動向を探るために、秘かに仲間のふりをして潜伏してきたのだ。光のものに生まれたクリームイエローだが、光のものであることを裏切り、黒の帝国に忠誠を誓っていた。今回は、あくまでも黒の帝国に逆らう問題児トマトレッドに対する潜入工作ということで、気合を入れて演技をしてきたのだが、それが不十分だったのだろうか。
しかし、それを一発で見抜き、問いただしてきたカーキーは只者ではない。かなり鋭い洞察力の持ち主といえるだろう。
「裏切り者だったら、どうするっていうの、カーキー」
答えに困って、クリームイエローがとうとう開き直る。
「ふっ、黒の帝国に忠誠を誓うか」
カーキーが聞いた。
「黒の帝国に忠誠を誓うわ。それがどうだというの。文句があるなら、かかってらっしゃいよ。今ここで勝負をつけたっていいわあ」
完全に開き直ったクリームイエローが戦闘の構えをとる。秘蔵の黒のナイフを抜こうかと、待ちかまえる。
しかし、そんなクリームイエローの取り乱し方を、カーキーは面白そうに笑ってすごした。こいつはちょっとした茶番劇にすぎない。
「まあ、待て。おれの正体はこれだ」
そういってカーキーが見せたのは、黒の帝国の兵隊の勲章だった。それも、ただの勲章ではない。黒の帝国、皇帝直属部隊を示す勲章だ。
なんのことはない。クリームイエローだけでなく、カーキーも黒の帝国の派遣したスパイだったのだ。しかも、クリームイエローより、かなり上官に当たる。
スパイばかりだ。世も末といえる。
トマトレッドは光の種のありかを知っている可能性があるので、その調査は念入りに行うべきだったのだ。トマトレッド個人はたいしたことないが、もし光の種のありかを発見することができるのだったら、黒の帝国として、これほど重要な任務は他にない。光の撲滅、光の剥奪こそ、至高命題に掲げる黒の帝国にとって、大量の光を溢れさせる可能性のある光の種の探索は、何をおいても重要な仕事だった。
つまり、トマトレッドと行動をともにして、光の種のありかを探るために、カーキーとクリームイエローという二人のスパイがそれぞれ別の部署から派遣されてきていたのだった。
クリームイエローは、びしっとカーキーに敬礼した。こんなところをトマトレッドたちに見られてはまずい。軽く笑って流して、二人は潜伏活動を再開したのだった。
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