第5話 黒色に侵された道を教える女

 三人は、黒の兵隊から逃れて、黒の帝国の中心街を遠く離れていった。トマトレッドが目指しているのは宇宙船なので、三人は、黒の帝国の宇宙船発着所に向かうことになった。

 いきなり旅の仲間になってくれた新しい光の仲間カーキーは、鈍く光る渋い男だった。この黒の帝国で、秘かに抵抗活動をしながら生きてきたのだという。いるところには、光の仲間がいるものである。トマトレッドはこの偶然の出会いを喜びながら、カーキーが自分たちの目的地に素直についてくるのかを危惧した。

 カーキーはいう。

「おれはどこに行くにも風まかせ。行き先が宇宙だろうとどこだろうと、素直についていくぞ、こんちくしょうめ」

 そして、三人は黒の帝国の追っ手と戦いながら、宇宙船発着所を目指したのだった。

 トマトレッドは疑うことを知らないボンクラだった。新しく仲間に入ったカーキーが心の底からトマトレッドの目的地に賛同しているのかは難しい問題だった。それでも、トマトレッドは自分たちを助けてくれたカーキーを簡単に仲間だと信じていた。

 黒の帝国に逆らう光の戦士トマトレッドには、これで二人の仲間ができたことになる。黒の帝国に呪いをかけられ、今にも死にそうな病に苦しむターコイズブルーが一人目。トマトレッドとターコイズブルーは恋に落ちる予定だったが、黒の帝国のいたずらによって、冷めた関係になっていた。ターコイズブルーは自分の体の激痛が酷くて、人を好きになるという状況になかった。ただ苦しく、この苦しみから解放されるのなら、誰にでも魂を売りわたす、そんな気分だった。トマトレッドは、そんなターコイズブルーを守ってはくれるが、その苦しみを癒すことはできないでいた。

 そして、黒の帝国に秘かに抵抗活動をしてきた歴戦練磨のつわもの、カーキーが二人目。カーキーは、長年、黒の帝国に抵抗活動をしてきただけあって、その装備は充分なものがあった。黒の眷族を怯ませる閃光弾の束を体に巻きつけていた。黒の帝国と戦う仲間としては、これ以上ない心強い味方だといえた。

 黒の帝都で黒の兵隊に逆らって逃げていると、嫌でも黒の帝都中の注目をひきつけた。

 必死になって、黒の兵隊から逃げのびること、三日。

 黒の帝都の片隅に、クリームイエローの女の子が隠れ潜んでいた。クリームイエローは黒のマントに身を隠しながら、黒の帝国の中を生きていた。クリームイエローはたまたま通りすがったトマトレッドにひっそりと話しかけた。

「トマトレッドさん、黒の帝国から逃げのびる道をお探しでしょう」

 いきなり名前を当てられて、トマトレッドは内心びっくりする。隠れた協力者だろうか。トマトレッドはひっそりと語りかけてきたクリームイエローが気にかかる。

「もちろんだよ。きみはそんな道を知っているのか」

 トマトレッドが思わず聞き返す。黒の兵隊で埋めつくされた黒の帝都において、黒の兵隊から逃げのびる道には心当たりがない。もし、そんなものがあるのだとすれば、喉から手が出るほどにその道のことを知りたい。

「あるよ。黒の帝国から逃げのびる道は。そこをたどれば、黒の帝国の宇宙船発着所にも行くことができる」

 クリームイエローは静かな声でとんでもない秘密を暴露しようとしている。

「教えてあげてもいい。黒の帝国から逃げのびる道を。ただし、条件がある。あたしも一緒に連れてって。あたしも一緒に連れてってくれたら、黒の帝国から逃げのびる道を教えてあげてもいいよ」

 トマトレッドは突然の申し出にとまどった。いきなり、見知らぬ女性が一緒に旅に連れて行ってくれという。確かに、黒の帝国で光のものとして生まれてきて、虐げられた生活をせざるをえないつらい立場を考えれば、そこから抜け出して、トマトレッドたちと一緒に旅をしたいという気持ちもわからないではなかった。だが、トマトレッドたちの旅はどこにたどり着くのかもわからない闇雲な旅だ。決して、安全な旅ではないし、決して気楽に一緒に行こうというような旅ではなかった。

 戸惑ったトマトレッドではあったが、黒の帝国から逃げのびる道を教えてくれるという条件を蹴るわけにはいかなかった。黒の兵隊に追われつづけている三人にとって、黒の兵隊から逃げのびらることのできる道というのは、この上ない魅力的な情報だった。

「わかった。きみを旅の仲間に入れてあげるよ。黒の帝国から逃げのびる道というのを教えてくれ」

 トマトレッドはいった。

「うん」

 クリームイエローは満足気だ。

「それはこっち」

 クリームイエローが教えた道というのは、黒の帝国の表通りの地下にある地下道のことだった。正直、そこは黒に染まり生きるものたちの巣窟であって、決して黒の帝国から逃げのびて進むことのできる道だとは思えなかった。

「大丈夫か。こんな道を進んで」

 カーキーが不安になって、疑問の声をあげる。

 黒の帝国の地下道。そこは、黒の建築材によってつくられた黒色の建造物であり、黒色のものを寄せつけやすい雰囲気を醸し出していた。

 光の戦士トマトレッドにとっては、非常に動きづらい道だ。

「行くというなら、行くけれども、黒の兵隊たちに嗅ぎつけられなければいいけど」

 トマトレッドは、黒の支配する地下道を進むことを非常に危険視した。

 トマトレッドの心配は的中して、黒の亡者たちが、地下道を進むトマトレッドたちに襲いかかってきた。

「げへへへへへへへ、こんなところに光のものがいるじゃないか。この黒の帝国に不要なものたちだぜ」

 黒の亡者たちは、どよどよと歩き近寄ってきて、トマトレッドたちに襲いかかってくる。トマトレッドたちの胸倉をつかみ、殴りかかってくる。

「くそっ」

 トマトレッドは相変わらず、いつも通りに反エントロピーの絵筆を出して、黒の亡者たちを塗りたくっていく。黒の亡者の色が絵の具の三原色に戻り、黒の亡者たちは大混乱になる。

「今のうちに逃げるぞ」

 トマトレッドはいい、四人で走って、地下道を奥へと進んでいった。

 話がちがう。黒のものたちに見つからない道だというのだからやってきた地下道であるのだが、黒のものたちがうようよしている。クリームイエローのことばは嘘だったことになる。

「クリームイエロー。きみは本当におれたちの味方なのか」

 トマトレッドが疑問の声をあげる。

 その疑問はもっともだ。旅の仲間に入ろうとしてきたクリームイエローだけれども、教えてくれたことはまったくトマトレッドたちの役に立っていない。

「おやおや、こんなところで仲間を疑っている場合じゃないぞ」

 カーキーがいい、トマトレッドの疑問はひとまず立ち消えになった。

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