第10話 なんで、ここに?

 黄昏時は終わろうとしていた。

 楽しい時間は早く過ぎるって言うけど、赤毛の彼と過ごした時間がそれに該当するか、私は思考を避けた。照れ臭かったので。

 夢から覚めたとき、私は教室に戻っていた。どうやら、夢の中で移動しても、体は元の場所に残り続けるようだった。

 魔法瓶を開栓すると、中からもうもうと湯気が立つ。紅茶は少しも減った様子が無く、紅い水面をたたえていた。

(これじゃ、現象?能力?…とやらを、他人に証明するのは難しいなぁ)

 私には赤毛君との会話の記憶が残っているけど、それだけだ。

 第三者に説明するとして、

「貴方は彼にどこで会ったのですか」

「夢の中です」

「wwwww」

 きっと、草を生やされて終いだろう。

 結局、実際に会ったという物的証拠は何もない。無条件に信じるのは、隣席の彼女と新委員長の二人くらいだろう。別に公にしたいわけじゃないけど、私の妄想って線が捨てきれないのは何とももどかしい。

「ハックション!」

 私の思考は、自らのくしゃみで遮られた。

 寒い。

 開け放たれた窓から冷たい風が吹き込んでいて、寝てる間に私の身体は冷え切ってしまっていた。はしたないと思いつつ、開けた魔法瓶から紅茶を直飲みした。なりふり構っていられない。

 明日は赤毛君とデート…いや、探索に行く大事な日なのに、風邪でも引いたらどうするんだ。最終退室者はきちんと確認して戸締りしておこうよ……あ、私がその最後の一人だったか。

 私は仕方なしに立ち上がって、教室の一番後ろの窓を閉めた。

「さて、帰るか」

 戻ろうと振り向いたとき、視界の端を何かが掠めた。

 それは、緑色の中に散りばめられた青い花。

「……なんで、ここに?」

 最後列、窓際の席。

 机の上に、すっかりおなじみとなった青い花が、鉢植えの上で静かに咲いていた。

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