第6話 ママ!見て!観覧車!
夢の中の幼い私は、電車のロングシートに逆向きに座って窓にへばりつきながら、車窓を眺めていた。
窓の外を灰色がかった景色が右から左に流れていく。
今ではすっかり地元に馴染んでランドマークになった高層ビルも、まだ半ばくらいの高さしかなくて、
クレーンやら鉄骨やらがてっぺん辺りにたかっている。
遊歩道として整備されたはずの高架には未だにオンボロの私鉄が走っていて、私の視界を一瞬遮って消えた。
たった十数年程度しか経っていないのに、見える景色はずいぶん変わってしまっていたんだな。
っと、海際にひらけた空間にそびえ立つ、大小さまざまなアトラクションを従えたアレは―――
「ママ!見て!観覧車!」
幼い私は不思議なくらいに狂喜乱舞してシートの上で跳ね回る。
「ねぇ!遊園地!行きたい!」
「また今度ね」
即答だった。駅ビルでショッピングした帰り道、たくさんの荷物を抱えていたので面倒だったのだろう。
「やだー!いま行きたい!観覧車乗りたいの!」
周囲の目なんか少しも気にせず、手足をじたばたさせて駄々をこねる。スカートだぞ、恥ずかしい。
観覧車なんていつでも乗れるだろうに、何がお前をそうまでエキサイトさせる……いや、私なんだけど、何故だったっけ?
さすがに母もちょっとウンザリしたように
「あんまり困らせないの。遊園地なんて近いんだから、また今度にしなさい。それがイヤなら、電車を降りて一人で行きなさい」
などと言い放つ。
幼子の、親とはぐれるという恐怖に訴えかける見事な話術によって、私はあっさり言いくるめられた。
そうそう、それでいい。良い子だぞ、私。
……だが、結果から言えば、母の言った「また今度」は来なかった。
海沿いの遊園地はその後すぐに潰れて廃墟となり、更地にされた挙句、再開発地域として新しいビルを絶賛建設中だ。
私は伸びをしてから、ベッドからモゾモゾと這い出た。
今のいままですっかり忘れてた。海沿いにあった遊園地の存在なんて。
あんなに行きたくて、観覧車に乗りたくて暴れだすくらいだったのに。
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