第3話 花壇なんて、ここから見えたっけ?
翌日、私のあだ名は「イノシシ」になっていた。
「『猪突猛進」って言葉の意味を初めて理解したよー」
隣席の彼女は、ケラケラ笑いながら説明してくれた。あまりに滑稽な私の姿に、ホームルームのピリピリした空気が吹き飛んだのだと。クラス全体が笑いの渦に呑まれ、和やかムードのまま解散した、ありがとうねー、とお礼まで。
ぜんぜん嬉しくない。
「何を急いでたの?トイレ?」
「違うよ。ちょっと花壇に」
言いかけて止めたが、もう遅い。
「花壇?花壇に何かあるの?」
詮索好きな彼女の好奇心を、著しく刺激してしまったようだ。口は災いの元。
「あー、窓からちょっと良さげな花が咲いてるのが見えてー。見てみたくなったというかー」
赤毛君の話題は絶対に避けなければ。オトコの話と察知されたら、長時間拘束されて根堀り葉堀り問いただされるのが目に見えている。
しかし私の思惑とはちょっと違う方向に話が逸れていった。
「花壇なんて、ここから見えたっけ?」
「え?」
「花壇って、グランドの脇以外にあったっけ?ここからじゃ中庭の噴水しか見えないよね?」
……そうなのだ。
私は昨日、花壇にたどり着けなかった。中庭にそもそも花壇なんて無かったのだ。
おそるおそる窓から外を見下ろす。
やっぱり、花壇なんてどこにもない。
「おかしいなぁ」
夢でも見ていたのか?でも、赤毛君の顔も、花の形も色もしっかり思い出せる。
「何の花が見えたの?気になるー」
「こっちが知りたいよ」
私はため息をついた。また、悩みの種が増えた。昨日の、何かを忘れてるけど思い出せないモヤモヤした気分も未だに晴れていないのに。
「じゃあ放課後になったら図書室に集合ね。案内は図書委員の私に任せなさい」
到底本を読みそうも無いように見える(失礼)彼女は、ドヤ顔で胸を張った。
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