第3章 秘密の里2
オークは南に進路を向けつつ、少しずつ西へと逸れていった。大パンテオンへ向かう途中は取りかえっ子を追いかけて、大きく東へ寄り道してしまったから、今度は真っ直ぐな道を選んで進んでいったつもりだったが……。間もなく行く手に暗い森が遮り、さらに西へ西へと進路を変えているうちに、どうやら道に迷ってしまったようだ。
間もなく日が暮れようとしている。まばらな木々が立つばかりの風景に、じわりと暗い青が影を落とそうとしている。夜の獣の声が、密かに存在を強めていた。近くに文明の気配はない。それどころか、暗い森の気配が感じられた。
オークは道を見失ったまま、森の道なき道を進んでいく。ネフィリムの襲撃があるかも知れない。このままでは夜通し歩く羽目になるかも知れなかった。
が、しばらくして森の奥に気配が感じられた。オークは身を潜める。
山賊
「それで俺達の目を欺いたつもりか。甘く見やがって」
村人
「俺達は決して屈しないぞ。無法がいつまで続くと思うな!」
山賊
「どこに法なぞあるか! 法があるとすれば、俺達が法だ! お前達は騒がず、法に従っていろ!」
村人
「いつかお前達に罰が下るぞ。仲間達が決起して、お前達の根城を叩くぞ」
山賊
「力も持たぬ者が、できねぇことほざくな」
オークは茂みに身を潜めて、様子を見守った。森の只中に、細い小道が横たわっていた。そこに、村人が数人、縄で縛られうずくまっていた。側に荷車が置かれている。村人らの周囲に、いかにもな山賊という風貌の荒くれ者が取り巻いていた。
オークはしばし様子を眺め、考えた。助けるべきか、見捨てるべきか――。
山賊の1人が持っている斧を振り上げた。
オークは咄嗟に、石を投げた。
山賊に顔にぶつかる。
山賊
「誰だ!」
オークが飛び出す。山賊が飛びついた。斧を振り下ろす。オークは斧をかわし、山賊の腹を蹴った。山賊が腹を抑えて、うずくまる。
オーク
「待て! 武器を収めよ。事情はわからぬが、暴力での脅しは道に反する! その者達を解放しろ!」
山賊
「何だお前は! よそ者め! 俺達への反逆がどんな無謀か……いや、待て。お前はパンテオンの者か?」
山賊たちはパンテオンのしるしが入った上着に気付いて、調子を変えた。
オーク
「そうです。すぐにその者達を解放しなさい」
山賊達が、声を潜めて議論をする。
山賊
「いいだろう。だがこれは俺達の問題だ。軽々しく手を出すなよ。いかにパンテオンの者とはいえ、俺達は誰も恐れはしない。俺達の前ではどんな神聖さも無用だ。徹底的に潰し、穢してやるからな。忠告を忘れるなよ!」
山賊達は捨て台詞を置いて、去って行く。
オークは村人達の側へ行き、縄を解いた。
村人
「ありがてぇ! まさか神殿の人達が俺達を助けに来るなんて。もう俺達は山賊に怯えずに済むぞ」
オーク
「いいえ。申し訳ありませんが、今のは騙りです。私はパンテオンの使者ではありません。この衣はつい先日、パンテオンで洗礼を受け、その時に授かったものです」
村人
「……なんだ」
村人がにわかに落胆を見せる。
それから、村人同士でひそひそと議論をした。
村人
「すまねぇが、俺達の村まで来てくれるか。あんたを見込んで頼みがあるんだ」
オーク
「道に迷っていたところです。一晩の宿が得られるなら、同行しましょう」
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