第3章 秘密の里3

 村人の案内でオークは森の中を進んでいく。道は森の外ではなく、むしろ奥の深いところへと向かっていく。辺りは日が暮れ始めて、鬱蒼とした影を深くし始める。

 オークは村人の後に従いていきながら、どこか人界を外れていくような、不思議な心地を感じていた。果たして、この先にある村はなんという名前で、地図のどのあたりにあるのだろう。

 まるで道を隠すかのような深い茂みをさらに奥へ奥へ。すると、急に視界が開けた。現れたのは、小さな村だった。周囲が森に囲まれた、ささやかな村だった。

 夕日の赤い煌めきが、村に斜めに射し込んでいる。その輝きが、村の風景をより幻想的な光景に染めるように思えた。


オーク

「ここは、妖精の隠里ですか?」

村人

「残念だが、俺達は妖精じゃない。ようそこ、ヤーヌスの村へ」



 オークは村の中心地に立つ、大きな屋敷へと案内された。石造りで砦のような作りの屋敷だった。内部は歴史が古く、装飾に満たされていた。質素ながら格式の高さを感じさせるものだった。

 オークは待合室になっている小部屋でしばし待たされた。間もなく、屋敷に執事がやって来て、オークを主の部屋へと導いた。


ステラ

「村の者が厄介になったそうだな。礼を言うぞ、旅の者」

オーク

「…………」


 屋敷の主と思わしき女が、机で仕事をしながら、オークに話しかけた。

 オークはその姿を見て、少し気後れする。女主人は、幼い少女だった。


ステラ

「何を黙っておる。言葉を知らぬのか」

オーク

「いえ。失礼。もっと年寄りかと」

ステラ

「若くて美しい、という意味の世辞だと受け取るぞ。私は寛大だからな。今年で15になる。父が早くに他界したからな。今は私がこの屋敷と村を預かっておる」


 ステラは書き物を中断して、席を立った。軽く袖のところを直す。

 オークは、ステラの袖口で、何か金色のものが輝いたように思えた。


ステラ

「失礼するよ」


 ステラはオークの側へやってきて、オークが着ている上着を掴み、しげしげと観察した。


ステラ

「名は?」

オーク

「オークと申します」

ステラ

「見た顔だな……。南の氏族の長に、お前と似た者を見たような気がする」

オーク

「ドル族を治める長でした」

ステラ

「そうか。それで魔物に名前を奪われたか。すまぬな。盗品か偽造品か確かめたかった。すでに知っておるだろうが、この村は、西のならず者の一団に狙われておる。パンテオンのしるしをつけて、潜り込もうとする輩がいないとも限らぬからな。どうやら由緒正しきもののようだ。オークよ。戦の経験は?」

オーク

「ネフィリムや山賊の一団とは頻繁に」

ステラ

「略奪の絶えない時代だからな。剣を持たぬ男は腰抜けだ。しかし、我が里はずっと戦を避けて……いや避けるために、ここに隠れるように潜んでおった。ネフィリムと戦った経験すらない者がほとんどだ。山賊はこの里を欲している。後からやってきて一方的に領地を主張し、こちらが退かぬのなら、村の農産物の全てをよこせと言ってきた。それで戦いになり、私の父が死んだ。もはやこの村に戦を指揮できる者はおらぬ。私には父と同じ重荷を背負えぬ。オークよ、ドル族の闘将という噂は聞いておる。戦の経験があるなら、我らを助けてくれぬか」

オーク

「早く里に戻らねばなりません。里でも戦いを指揮する者を待っています」

ステラ

「切実な願いだな。だが、案内人なしで、この森を抜けられると思うか」

オーク

「エルフではなく人が支配する森であるなら」

ステラ

「悪いようにはしない。もしもこの戦いに勝利できれば、我々もお前達の戦いに協力しよう。力はないが、ここで作る果物は力がつくぞ」

オーク

「……これもきっと何かの巡り合わせでしょう。この村の人達のためになるのなら」

ステラ

「一番のいい部屋を用意するぞ」

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