第2章 聖なる乙女11

 翌朝。

 街道の外れで、オークとソフィーが2人きりで向き合っていた。オークは旅装束に身を包み、パンテオンのしるしの入った上着を身につけていた。


ソフィー

「本当に名残惜しいです。お会いできてほんの数日だというのに」

オーク

「そうですね。私もあなたには親しみを感じます。他人である気がしません」

ソフィー

「急いでいるのはわかります。でも、もう1日くらい……。お体の疲れもまだ取れていないというのに」

オーク

「急ぐのです。里に多くの人を待たせていますから。寄り道もしましたし」

ソフィー

「私のせい?」

オーク

「いいえ、まさか」


 2人は笑った。


オーク

「あなたには感謝しています。あなたは私に素晴らしい名前を与えてくれました。新しい名前は、まるで母から授かった名前のように、この身に結びついているように感じられます」

ソフィー

「そうですか。気持ちを込めましたから。私からあなたに贈れる、唯一のものです」

オーク

「ありがたく頂戴します。……最後に教えていただけませんか。あなたは本当にコリオソリテース族の里を訪ねたのですか? いったいどこで子供の名前を知ったのですか」

ソフィー

「それはいつか再び逢えた時にお話ししましょう。その時に、きっと……」

オーク

「そうですね。必ず逢いましょう。それでは行って参ります」

ソフィー

「行ってらっしゃい」


 オークはソフィーと別れた。果てなき草原を、1人で歩いて行く。


 ソフィーは、オークの背中を見ながら、密かな涙を浮かべた。しかし悟られぬように、涙に濡れる頬を隠し、オークを見送る。その背中が地平線のはるか向こうに消えて見えなくなっても、ソフィーはずっと見詰め続けていた。

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