第1章 最果ての国4

 ミルディは族長の屋敷を後にして、村の様子を見下ろす。族長の屋敷は、丘の一番高いところに作られている。屋敷の庭に立つと、階段状に開墾された村の様子を俯瞰して眺められた。

 戦の後始末はまだまだ終わりそうにない。怪我人の治療。死体の回収。汚れた麦畑の焼却。もくもくと噴き上がる黒煙と一緒に、すすり泣く声が這い上ってくる。村の回復は、まだまだ遠い先のようだ。

 ミルディはそんな様子を俯瞰しながら、考えに沈む。

 しばらくして、ミルディは村へと降りていく。民家が集まる界隈へと入っていく。どの家も崩れて、悲しみが深く感じられた。農作物も家畜も、見るからにひどい痛手を受けていた。誰も族長のミルディに目も向けない。

 ミルディは鍛冶屋の工房を訪ねた。


ミルディ

「火は起こせますか」

鍛冶屋

「戦の間も火は絶やしませんでした。何か仕事を?」

ミルディ

「仲間を連れて戦いへ行きます。上質の剣と盾を人数分」

鍛冶屋

「……了解」


 鍛冶屋はかすかな驚きを浮かべるが、間もなく承知して頭を下げた。

 ミルディは鍛冶屋を後にする。さらに丘を降りていき、畑を横切っていくと、石塚の外縁へと出て行く。そこに小さな森が置かれ、木々の下に墓がいくつも作られていた。

 森は明るい光を射し込ませている。墓は長い木の杭のような形をしていて、それぞれに家紋が掘られていた。雨の後で黒く湿らせていたけど、今は明るい光で煌めき始めていた。

 ミルディは墓場の奥へと進んでいく。数段の階段を登り、その向こうの小道へと入っていく。

 そこに、歴代族長を祀る墓が置かれていた。そんな場所に老婆が1人。


ミルディ

「母上でしたか」

ミルディの母

「あなたですか。ドルイド様との話は終わりましたか」

ミルディ

「戦いへ行きます」

ミルディの母

「戦いは終わらぬものですね」

ミルディ

「終わらせるために戦うのです。妻も、きっと守ってくれます」


 ミルディは墓の前で膝を着き、手を組み合わせる。


ミルディの母

「ミルディ。私には未来は語れないけど、予感はします。とてもよくない予感が……」

ミルディ

「それでも行きます。ネフィリムの襲撃は絶え間なく続くでしょう。この間のような戦が繰り返されれば、村は消耗し、いつか一族は絶えてしまいます」

ミルディの母

「あなたの父親も、戦いました」

ミルディ

「祖父も戦いました。私の代で一族を絶えさせるわけにはいきません」

ミルディの母

「あなたの判断です。そしてあなたは一族の代表。賢明な判断であると信じています」

ミルディ

「必ず戻ります」

ミルディの母

「ええ、必ず」

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