第1章 最果ての国3
ミルディは老ドルイド僧を族長の屋敷に招き入れる。老ドルイド僧はテーブルの上に地図を広げた。ミルディがテーブルの向かい側に立つ。親族の者達が、少し遠巻きにしながら様子を眺めていた。
老ドルイド僧
「数日前、わしは本部からの指令で、ここから北に少し進んだ所の森を調査しておった。ネフィリムが根城にしている不浄の森だ。邪悪な気配を強く感じた。危険な場所だが、わしは何かが潜んでいると確信した。わしは気配を消し、森の影に姿を隠しながら、奥へ奥へと潜り込んでいった。間もなく、森のもっとも暗いところ、混沌が深まる場所に大地の裂け目を見付けた。わしは近くに潜んで、裂け目を監視しておった。ある夜じゃ。不穏な気配がより強まり、何かが起こる予感がした。わしは裂け目をじっと監視した。するとそこから、武装したネフィリムの軍勢が一斉に溢れ出し、森の外を目指して駆けていった……」
ミルディ
「それが我らの村を襲ったネフィリム……」
老ドルイド僧
「ネフィリムが襲ったのは、この村だけではないぞ。多くの村が襲撃され、人が死に、畑が不浄に汚染された。壊滅させられた村もあった。わしも戦いに参加したが、守りきることはできなかった。戦いの後、村を見て回ったが、どこも惨憺たる有様じゃ。だが、この村には、どうやら闘将がついておるようだ。混沌の種子は根元から摘まねばならん。共に戦ってはくれぬか」
村人
「待ってくれ! みんな戦いで傷つき、倒れた。これ以上戦いで犠牲を増やすのか」
村人
「そうだ! 俺達はもう戦いたくない! 戦いはもう終わりだ!」
村人
「族長はいいかもしれない。だが俺はもう子や友を失いたくない!」
ミルディ
「我々が戦いを望まなくても、向こうが殺戮を望んできます。ネフィリムは軍団を組んで、何度でもやってきます。戦いを臨まなくては、戦いは永久に終わりません。戦える者は残ってください。村を守る力のある者はこの場に留まってください」
村人らがざわめきはじめる。顔に困惑と葛藤を浮かべて、間もなくそろそろと無言で屋敷を出て行く。
ほんの数人が屋敷に残る。人で密集して暗かった屋敷に、いくらかの光が射し込んできた。残った数人の村人は、取り残されたような不安を浮かべていた。
ミルディ
「よく残ってくれました。一緒に戦いましょう」
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