よくあるファンタジー小説

@E-erebos

第1話 「そのあと」の話




嘗て、大きな戦いがあった。




西方の山海を超えて現れ、高度な魔法を操り強靭な体躯を持つ「それ」等の事をいつごろからか人は――「魔族」、と呼称するようになった。

人智を超えた魔の力を操る、故に「魔族」。 そう呼ばれ始めた何処からかの来訪者達は一見して平和な装いを見せていた自分が住む大陸を一変させた。



五つあった王国の内の、国土だけなら大陸最大を誇る「農業の国」が攻め込まれ豊かな大地の一部が破壊し尽くされた焦土に変わったのを切欠に、

他の四大国――「騎士の国」、「信仰の国」、「魔法の国」、「商業の国」は事態を理解し、世界は一瞬で戦火に包まれた物へと様変わりした。



空は暗雲に覆われ生い茂る木々は焼かれ、人々は怯え逃げ惑い久しく忘れていた死の恐怖に怯える日々を過ごした。

暗黒の時代と呼ばれたその時代は「魔族」が訪れてから十年と続き世界に恐怖と混乱を与え続けた。



そんな中の事だった、「騎士の国」が「魔族」に対向する為の作戦の一つとして――「勇者」を旅に出したのは。

幼い頃に農業の国から逃げ延び騎士となった青年を中心とした「魔王を討伐する為だけの独立行動権利を与えられた部隊」――――と書けば聞こえは良いだろう。



その実態は絶望に支配されたこの世界で民衆の注目を集めて少しでも希望をもたせようとする騎士の王のせめてもの策だ。

部隊と言っても当初の人員は「勇者」の青年のみ、独立部隊と言うのも聞こえこそ良いが要するに当時の軍隊系に組み込まれる事も無く何の強権を持たない「お飾り」だ。

勿論騎士の王も、各国もそれを知っていた。 だからこそ大きな期待を抱く事も無かった。 ただせめてもの希望になってくれればそれでいいと誰もが思っていたのだ。



だから――騎士の王に誤算があったとすれば、それは「勇者」の人柄にあったのだろう。




「――僕達の……勝ちだッッ、魔王……ッ!」



魔王討伐を志して各地を巡る中で勇者が各分野に優れ頂点に立てる程の才を持つ

「三人」の仲間達と――「戦士」、「魔法使い」、「僧侶」と出会い、


「やっ、た……の……?」

「魔王、を――」


”勇者パーティ”として、魔王の下へと辿り着くなど誰が考えられようか。


「ふ、ッはッハハッ! ハハハハハッ!!ハハハハハハハハハハハハッ――――!」


ましてや魔王を倒し暗黒の時代を終わらせお飾りでなく本物の――真に「勇者」と呼ばれるべき人物になるなど誰が予想できたものだろうか。



「あぁ――私の、負けか。」

「よい、中々……最期の戦いにしては、中々、中々の戦いだった……――」


「魔王……、僕は……君達は――!」

「余を倒したモノが、――そんな顔をするな。  愚王の最期としてはこれ以上もあるまい。」



この物語は、暗黒の時代が終わり平和な時代が齎された世界での――



「”後を、頼む”。 ……勇者と、その仲間に頼む事でもな……かろう……が、な……――」



「――分かってる。 ……さよならだ、魔王――」



――”その後”を描いた物語である。






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かこん、と。

振り下ろした斧が薪を割断する音が響いた。



「勇者」の旅が終わって――――、世界と人々はかつての平穏と豊かさを取り戻しつつあった。

そうして暗黒の時代を終わらせた「勇者」と「三人の仲間たち」も――それぞれ収まる場所へと、収まっていた。



「勇者」は、紆余曲折あった末に「騎士の国」の姫君と結ばれて騎士の王に。

――今は復興の政策を進めながらも生き残った「魔族」との友好条約の締結に向けて動いている。



魔法の国出身の「魔法使い」は自身も卒業生でもある魔法学校の大校長となった。

今は教鞭を振るい明るい未来の為に少年少女達に教えを与えていると聞く。


信仰の国出身の「僧侶」は生まれ故郷の大聖堂のある信仰の国の首都へと戻り大神殿の「神官長」となった。

生き残った魔族たちにも手を差し伸べながら神の奇跡で戦に疲れた人々の心を癒やす神官たちを纏め、世界のために励んでいるらしい。



そしてもう一人。 「戦士」は――自分は。


「……日が、沈むか。」



故郷の、農業の国のはずれにある、幼い頃に滅んだ誰も居ない小さな農村で――


「帰ろう。」


――無職、だった。










                                                ~ 魔王を倒した後の世界で戦士の俺が無職になった話 ~







日の出と共に起きて月日をかけてそこそこ見れる形になった畑に水をやり、日が高くなったら森に出る。

森に出たら狩りをするなり、釣りをするなり、自分用の薪やら木材、山菜を集めたりして時間を潰す。


日が沈めば拾い集めた木材で建てたボロ小屋へと戻り、端材で組み上げた寝台の上で横になってまた日の出と共に起きてを繰り返す。


月に一度、街へ出掛けて猟果を干肉にした物や毛皮などを売り払う。

売り払った金で生活に必要な最低限の物を購入し、また小屋へ戻る。


旅が終わり二年が経ち――「勇者」達がそれぞれ収まる場所へと収まった。


そんな中、自分――「勇者パーティ」で「戦士」であった自分は、は幼い頃に育ち、滅ぼされたこの廃村に戻る事を選んだ。

度に出る前から知人と呼べるような相手は居なかったし、人と接する事が苦手な自分には例え既に打ち捨てられた場所だとしても幼い頃に住んだこの場所が丁度良かったのだ。



……身の振り方を、考えなかった訳ではない。

ただ自分に、「戦い」以外に出来る事はあまりにも少なかったのだ。



「勇者」は一緒に騎士の国へ来ないか、と誘ってくれたが誘われるまま騎士の国に行くのはどうしても躊躇われた。


人の多い所はどうしても苦手だし、何より字もまともに読めず、学やコミュニケーション能力が欠片も無い自分が新たに再編される騎士団の団長などとお笑い草だ。

かなり本気で平の騎士団員からやらせてくれと頼んだ際に当時の騎士団長に「ご冗談を」と笑い飛ばされた時点で自分の心は折れた。



「魔法使い」に誘われた魔法の国の自警団の話も同様だ。 

団長だとか、隊長だとか……そういう誰かを管理したりする役職に付くのはどうしても向かないのだ、人と話すのが苦手な故に。



信仰の国に関してはそもそも論外だ、「僧侶」の事を否定するつもりはないが自分は神を信じて崇めるにはいかんせん信心というものが無い。

なにより多量の獣やら魔族やらを斬り殺すなり殴り殺すなりし続けていて今更神も懺悔あったものではないだろう。



かといってこの平和な時代に今更傭兵をやっても稼ぎにはならない。

なによりさんざ「魔族」を斬り殺しておいて、平和な時代が訪れた後に斬った張ったの仕事というのも、……あまりしたくなかった。



――――自分は他の三人と較べて良いような人間ではない。

「勇者パーティ」などと一括りにされてはいるが自身を贔屓目で見ても他の三人を比べ大きく劣っているといえるだろう。 あの旅に同行したのだって「勇者」が誘ってくれたからだ。


「勇者」と呼ばれる彼は、騎士の国に移り住み今や王となっているが――元々は自身を故郷と同じくする幼馴染だった。

故郷の村が滅んだ後に親戚を頼りに騎士の国へと移り住み騎士となった彼がたまたま自分の事を覚えていて、声を掛けてくれたに過ぎない。



だから魔法の国の魔法学校を主席で卒業していた「魔法使い」や、大神殿の巫女であった「僧侶」とは、生まれからしても違う

自分はただの農民だ。 親戚に騎士などが居た勇者とは違う正真正銘、血統書付きの農民である。



そもそもで言えば「戦士」ですらないのだ。


村が滅ぼされた日から武器や拳を暇を見つけては振るい続けていて、狩りに使っていたから剣や斧や槍や、弓が使えたから「戦士」なだけで、

勇者が来るまでは農業の国の片田舎で親戚の家の小間使いをしながら暇を見つけて武器を振るっていただけだったのだ。



……だから、という訳ではないが。

平和になった世の中で新しい居場所を見つけられる事ができず、「以前」と似たような生活を一人で続けているという訳だ。


平和な世界をどうするかはきっと頭のいい人間や「勇者」達が考えてくれているだろうから、戦いしか脳のない自分はこれでいいのだ。

正直、これはこれで性に合っていると思っているし。




だから今日もまた日が沈んで、一日が終わってまた起きれば同じような事を繰り返してまた日が沈む。

何を変えようとする事もない、そんな一日が続く――


……ハズだった。



自分の何かを変えるのはいつだって「誰か」だ。


だから今回もきっとう「そういうこと」なのだろう。

いつもの様に日が昇り、いつもの様に釣りに向かい。



「―――――……ぅ、――……。」



いつもと同じその場所で――――疲れ果てた様に眠る、小さな少女を見つけてしまったのは。






続く

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