どこへ行ってもやっぱり必要なのはコミュニケーション力

 俺たちは今、隣街へと向かうために、快速の電車の中にいる。

 しかし、快速のためか、数十分もしないうちに目的地の駅へと着いてしまった。


「涼しい旅も、こんなに早く終わっちゃうのか…」


 俺がそんなふうにため息をつきながら、駅の外を目指して歩いていると、梓が呆れたようにそんな俺の様子を見てきた。


「どうせ建物の中は涼しいんだし、そこまでの辛抱でしょ。それくらい我慢しなさいよ」


「でもさぁ…、暑いよ。ね?桐乃」


「そだね〜…、じゃあショッピングモールまで競争しようよ!」


 桐乃はその場でクラウチングスタートの体制をとる。

 暑いのに…ショッピングモールまでまだ距離あるのにどうして走らないといけないんだ!

 そう思った俺は「…いってらっしゃい」と桐乃に向かって手を振った。

 すると、桐乃は面白くなさそうに「ちぇ〜」と舌打ちすると、頭の後ろで手を組んで俺たちの後を追ってくる。


「なぁしおちゃん、さっきから楓と桐乃のせいで走ったり歩いたりしてるけど大丈夫か?」


「うん、大丈夫〜」


 いつもマイペースな汐に、隼也が心配そうに話しかけていた。ていうか、俺と桐乃のせいって…、たしかに競走ばっかりしてるかもしれないけど、ぜんぶ俺たちのせいにすることないじゃん!

 と、桐乃もそれがかんに障ったのか「わっ、私のせいなの!?」と大声で叫んでいた。まあ、たしかに大半は俺と桐乃のせいなのは認めるけどさぁ…。


「本当元気よね…人と話すとなると急に大人しくなるくせに」


「それは梓も一緒じゃんっ!」


「私は桐乃ほどうるさくないですから」


「なっなんだとぉー!!…まあ、異論はないけど」


 ないんかいっ!!俺は心の中で1人ツッコむと、頭から地面にずっこけた。

 別に転けるつもりではなかったんだけど、あまりに予想外の反応だったのでつい…。


 俺たちがそんなやり取りをしていると、車や、通行人がたくさん歩いている中、一際目立つ大きな建物がだんだん俺たちの前に姿を現してきた。

 今日が休みのせいか、駐車場の方にたくさん車が停められているのが遠くにいる俺から見てもすぐわかった。


「うわぁ…人多いな〜…。絶対はぐれないでよ?とくにしおちゃん」


「汐迷子ならないよ〜。さっきから汐汐って…楓ちゃん嫌いっ!」


「わ、悪かったって…」


 俺は汐に謝りながら近づくと、汐は許してくれないのか隼也の後ろへと隠れてしまった。

 ゆ、許してくれないか…。

 俺は涙目で少しの間汐を追いかけたが、汐もすぐに隼也の後ろへと隠れ、隼也の周りを2人でグルグルグルグルと周り続けてしまった。


「しおちゃんから離れて変態」


「誰が変態だぁっ!」


 俺は梓にそう言い返すと、再びみんなの先頭へ戻って、ショッピングモール目指して歩いて行った。


…………

………………………………

…………………………………………



「やっと着いたぁぁぁ!!」


 桐乃の叫び声と共に、俺たちはショッピングモールの入り口に着いていた。

 実際、桐乃は「やっと」とか言っているが、歩いた時間はだいたい5分くらいである。

 俺たちはそのまま建物の中へ入ると、あまりの人の多さに唖然とした。


「さすが土曜日…多いね。あとクーラー涼しい」


「だな。とりあえず、どこ行くか決めてないしそこらへんブラブラするかー。あとクーラー涼しい」


 俺と隼也はみんなより先に中へ入ると、あまりの涼しさに天国へ舞い上がりそうな不思議な快適感を堪能していた。


「行くところないならさー、ゲーセン行こうよゲーセン!ほらちょうどそこにあるじゃんっ!」


 続いて中に入ってきた桐乃が、側にあったゲームセンターを指差してそう言う。

どれだけ桐乃はゲームがしたいんだろう…


「別にいいけど、一回だけにしてよ?下手したらそれだけして帰るってことにもなりかねないしさ…」


「わかってるって!じゃあほら!ついてきて!私の実力見せてあげるからっ!」


 俺は桐乃に連れられてそのままゲームセンターの中へと入っていった。

因みに他の3人はここで待ってると近くのベンチに座りに行った。

 わざわざショッピングモールにまできて、なんでゲームなんてしないといけないんだろ…。

 そんな疑問を感じてる間にも桐乃はどんどん先へと進んでいき、お目当のゲームを見つけたのか、そこで立ち止まった。


「うぅ…、どうしよ楓」


「どしたの?」


 急に表情の暗くなった桐乃に俺はとくに何も考えずそう返した。

 

「あのね、新しい銅拳がでたって聞いたから探してるんだけどどこにもなくて…」


「ここじゃない…とかではなくて?」


「ううん、絶対ここだよ!私ちゃんと見たもん!」


 桐乃のこの反応からして多分ここということはあっているんだろう。こういうときの桐乃の言うことは、ほとんど本当のことだ。

 因みに、桐乃の言っている銅拳とは昔からずっと続いている人気格闘ゲームのことであり、桐乃も以前からこの銅拳で遊んでいるようだった。


「う〜ん…、もう結構探したしなぁ、こうなったら店員に聞いたりしないと…」


 俺がそう言った瞬間、桐乃の肩が強張った気がした。実際、俺もコミュ障だしそんなことするくらいなら1日かけて探すほうがマシだ。

 だけど、3人とも外で待ってるし、このまま待たせ続けるわけにもいかないしね…。


「う〜ん…どうしよ…」


 このまえ、隼也がジュースを買いに行ったときは、正直お金を出すだけでよかった。だけど、今回は何処にあるのかちゃんと尋ねないといけないのだ。そんなこと…俺1人でできるだろうか…。

 いや、こんなときのためにみんなで行動しようってことになったんだけど…。

 俺は、1人、決心すると桐乃の方へ振り返った。


「桐乃…、俺が店員に話しかけてくるから…、もし俺が言い詰まったらフォロー頼むよ」


「か、楓…。うん、いや…私も一緒に話しかける。ふっ2人なら何とかなるよ!」


 俺と桐乃は2人頷きあうと、近くのクレーンゲームをいじっている店員に向かって近づいていった。

 

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