休日のある日

 朝。俺は寝起きは機嫌が悪い。今日は土曜日で学校がないからいいものも、平日は決まって遅刻ギリギリである。

 そしていつものように今日も隣の家の窓から漫画の本が投げ入れられ、その角が俺の頭に当たることによって、俺は目覚めた。今日は土曜日なのに。


「痛いなぁ…、いい加減漫画の本投げつけて起こすのは止めてよ…」


 俺は隣の家…いや、隣の部屋?窓越しでつながっている梓の部屋に向かってそう言った。

すると、まだ寝癖のついている梓が目を掻きながら窓から顔を出してくる。

 どうせ起こすんなら自分の身支度を整えてから起こしてくれればいいのに…、俺はまだ完全に起きていない頭をなんとか起こそうと、顔を横に振り、梓の方へ顔を向けた。

 因みに今日はみんなでショッピングへ行くことになっている。コミュ障1人じゃできないことも、みんながいたらなんとかなるだろう…という隼也の意見を参考に考えてみた。1人だと…まえの隼也のように失敗するのは目に見えてるしね。

 いや!別にわかっててまえの罰ゲームを実行してみたわけじゃないよ!?遊び感覚で思いついたとか決してそんなのではないからっ!!…多分。


「で?昨日の夜は出かけようとか言ってたけど、具体的に何処にいくのよ」


 急な外からの問いかけにおれは戸惑いながらも自分の部屋の窓の方へ顔を向ける。するとそこには疑問そうな表情をした梓がずっとこちらの様子を見ていた。

 因みに、昨日の夜は梓と窓越しに話していたのでその時に買い物のことは呟いていたのかもしれない。俺の記憶にはあまり残ってないんだけど。


「いや…、特には何も。梓行きたいとこある?」


「はぁ…、どうせそんなだと思った。私?私も別にないけど…、どうしてもっていうなら…、どうしてもっていうんならね、あれ!あの…」


「んー、そこまでして決めなくてもいいよ。隼也たちにも聞いてみる」


 俺は梓の「ちょ、ちょっとまって!!」という声が聞こえるまえに窓を閉めると、ちらりと梓の方へ顔を向け、ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。さっき本を投げつけたお返しだ!素直じゃないのが仇となったな。

 俺は梓に手を振りながら自分の部屋を出ると、そのまま一階へと階段を降りていった。


………

…………………

………………………………


「というわけで、みんな集まったよね?」


 身支度を終えた俺は、自分の家の前に仁王立ちすると、集まってきてくれたほか4人に対しそう問いかけた。


「今回は罰ゲームとかそんなのはないんだよな…、頼むからああいうのはもう勘弁してくれよ?」


「ないない、あれはおふざけ半ぶ…。なんでもない」


 俺はつい口走ってしまいそうになったところを何とか誤魔化すと、わざとらしくゴホンと咳込む。そして顔を上げるとまた隼也と目があったのでもう一度咳き込んだ。

 俺は隼也から目線を外し、気を取り直してもう一度口を開く。


「まあ、今日は別にそんなコミュ障を克服するために頑張るぞーっ、とかそんなつもりじゃないから」


「ほうほう、じゃあ久しぶりに鬼ごっこでもする!?」


「しないから」


 桐乃のこの無邪気な表情から見て、多分ほんとにしたかったのだろう。まあ、梓に即否定されてしまったけど。

 俺も久しぶりに追いかけっこもいいかなと思ったけど…、あまりにもコミュニケーションと無関係なのもなぁ…。

 まあ、もう既にみんなにも出かけるってことは言ってるし、それが変わるってことはないんだけどね。


「とりあえず今日は隣街にあるショッピングモールにでも行こうかなって思ってるんだけど」


「えぇ!?俺たちだけで!?」


 隼也は驚きを隠せない様子で、とても不安そうな表情で俺を見てきた。今日の天気予報では曇りのち晴れと天気の問題はないんだけど…、まあ、隼也が心配してるのはそんなことではないだろう。

 交通費の問題もあるだろうけど、やはり1番の問題はその人の多さだ。誰かが迷子になってしまった場合迷子になった側にも探す側にも少しではあるが、必要になってくるのがコミュニケーション力だ。こうなると、もう俺たちには打つ手がない。

 まあ、そうならなければいい話なんだけど。

 実際、ショッピングモールに行くだけだったらコミュ障でもなんなくこなせる。


「しおちゃん、絶対に俺たちの側から離れないでね」


「うん〜、汐、楓ちゃんから離れないようにする〜」


 別に、俺から離れるなって言ったわけではないんだけどなぁ…。まあいっか。

 汐の反応にみんながどこかつまづいたように脚をよろけさせたが、汐は何のことだかさっぱりわかっていない様子だった。


 …こうして、夏の虫がうるさく鳴く中、俺たちは快適なクーラーの部屋から飛び出し、まだ見ぬ…は言い過ぎだと思うけど、5人だけで初めて行くショッピングモールへと出かけていった。

 まあ、中学生なので駅までは徒歩だ。一言言うとすると…暑い。


「夏ってこんなに暑かったっけ…」


「昼間に全く出てない楓が悪いんでしょ」


「確かに…全くもってその通りですけどぉ…」


 梓に指摘され、俺は何も言い返す言葉がなくなる。

 俺は基本、休みの日はクーラーがんがんの自分の部屋に閉じこもっている。学校も私立だからか教室にクーラーがついていて、同じく授業中はガンガンクーラーが機能している。そう、夏でも暑さを感じない一年を毎年過ごしているのだ!

 だからこんなに暑さに弱いんだろうけど…、最近の若者はダメだってよくいわれるけど、俺の場合そう言われても何も言い返せないなぁ。


「ショッピングモールかぁー!ゲームセンターあるかなぁ!?ねぇ!誰かあとで勝負しようよっ!」


 俺があまりの暑さにダラダラしてる中、桐乃はそう叫んだ。

…桐乃は元気だなぁ、暑さとか感じたことあるんだろうか。桐乃を見ていると余計に暑くなってくる気がする。

 そんな俺の様子など気にすることもなく、桐乃はどんどん俺たちより先へ先へと歩いていく。そして、気づくと桐乃1人だけ駅の真ん前まで移動していた。


 あ、そういえば、駅も一応建物だし、中はクーラーが効いてるんじゃ…。

 ふと、そんな考えが頭に浮かんだ俺は、少しずつ歩くスピードを速くしていく。

 快適な場所があるのなら、一刻も早く俺はそこへ辿りつかなければならない…!!もうコミュ障がどうとかあとあと!今はどれだけ快適空間を探すことができるか…それが1番大事なんだぁぁ!!

 俺は結局その場を走り出し、駅で待っている桐乃の元へ向かって全力で走って行った。

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