俺と桐乃のペットボトル競走
「はぁ〜…、もう2度とこんなことしねーからなー?」
「ドンマイドンマイ〜、でもコミュ障卒業するって決めたし、結構よかっただろ?」
「よくねーよ…、コミュ障卒業…言ってたけどみんなでしないと意味ないだろ!」
まあ、たしかにさっきのは俺もおふざけ半分だったしね。
俺は、まだ頭を抱えながら後悔している隼也とそう会話を交わすと、後ろで隼也に買ってもらったジュースを飲んでいる梓の方へ顔を向けた。
「…な、なによ。そんなに見たってあげないからね」
「別に欲しいとか言ってないけど…、それよりさ梓。この後時間ある?」
俺も梓と同じように、隼也からもらったジュースに口をつけると、飲みながらそう答えた。
因みに、ジュース代はちゃんと隼也には返している。罰ゲームだからって5人分のお金を1人に払わせるわけにはいかないし、まあ当たり前のことだ。
「…べっ、別にないわけじゃないけど…、嫌だ」
「いっ、嫌だ…って、家隣なのに…」
「それは関係ないでしょ」
俺、もしかして嫌われたのかな…。でも、俺たち今までずっと一緒で、とくに梓とは産まれたときから一緒だったのに…。
俺が、不安そうな顔で再びジュースに口をつけていると、梓は「今日はもう疲れたの」と一言付け加えた。
まあ、そういうことなら仕方ないか。
俺はうんうんと頷くと、飲み終わったジュース…空になったペットボトルをポイと桐乃に投げ渡す。
「おっとと…って何これ…。
あ、えぇ!?こらぁー楓ぇ!自分で捨てろぉ〜!」
投げ渡されたペットボトルを何度か手の上でバウンドさせながらも何とかそれを掴まえた桐乃は、それの正体に気づいたようで、俺の方まで走ってきた。
桐乃は5人の中で一番走るのが速く、たしか50メートル走も7秒前半だった気がする。で、そんなこと知ってて俺が桐乃にペットボトルを投げ渡した理由も単純、…俺だっていつまでも女子に負け続けるのは嫌だっ!!
俺と桐乃が3人を置いて走っている中、俺は桐乃がもう片方の手に自分の空のペットボトルを握っていることに気がついた。
桐乃め…、俺を捕まえたあとついでに自分のペットボトルも渡す気だな…!!
「フッフッフ…私にペットボトルを投げ渡したこと…絶対に後悔させてやる」
桐乃はニヒヒといやらしい笑みを浮かべると、どんどん俺との差を縮めてきた。最初はあんなに差が開いてたのに…、やっぱりまだ桐乃には勝てないのかぁぁ…。
俺の最後の踏ん張りも虚しく、桐乃に後ろ襟を強く掴まれる。その衝撃で俺はバランスを崩し、勢いよく後ろに尻もちをついた。
そんな俺の情けない姿を、後ろの桐乃が見下してくる…、なんとも自慢げな表情、…絶対いつか逃げ切ってやる。
「じゃあはいこれ」
桐乃から受け取った俺のペットボトル…そして、一緒についてきた桐乃のペットボトルを無言で受け取ると、俺は悔し涙をグッと堪えた。
そんな表情で後ろを見ると、俺たちを追っていたのか、小走りで走ってきた3人が追いついてくる。
そして、同じく空になったペットボトルをもった汐が俺の方へと近づいてきた。
なんでだろう、なぜか嫌な予感がする。でも、汐に限ってそんなことはないよね…、でも汐って何するかわからないし…。
「楓ちゃん、汐のペットボトルも…いる?」
「え、え…汐ちゃん?え、えぇ?」
ごめん。そんな天使のような笑顔で俺にペットボトルを差し出されても…、俺別にペットボトルが欲しいわけじゃないのに…。
しかし、そんな汐からのプレゼント?を受け取らないわけにもいかず、俺は渋々汐のペットボトルも自分の手に握った。
「楓ー、俺のペットボトルもいるー?」
「あ、じゃあ私のもよろしく」
「やだよ!!隼也と梓は自分で持って帰ってよ!!」
俺は、続くように渡そうとしてくる隼也と梓から少し離れると、胸の前で大きなバッテンをつくった。
このままだと、俺が正式にゴミ処理係に任命されてしまうっ!それだけはなんとか阻止しないと…
俺は無言で辺りを見渡すと、近くにペットボトル用のゴミ箱があるのを確認する。先にあの中に捨ててしまえばこっちのもんだ。
俺は隼也と梓が気づくまえにゴミ箱まで移動し5つのペットボトルをゴミ箱の中に入れた。みんなのもとへ帰ると、隼也と梓までもなぜかお礼の仕草をしている。
…ん?おかしいな…。俺は5つしか持っていってないはずだけど…あれ?5つ…?
「サンキュー楓ー、じゃあ俺こっちだからー」
そう言って俺たちと別れる隼也に向かって俺もよくわからないまま手を振った。
いや、正確にはだいぶわかってきた時だった…。
「クソぉ!!やられたっ!!」
俺は地べたを踏みながらそう叫ぶと、歯を食いしばりながらクルクル回る。
すると、それを見ていた汐も「汐もする〜」だとか言って一緒に回りはじめた。そして、2人とも目が回って、そのまま地面に座り込む。
「何やってんのよアンタたち…」
梓は呆れた表情で側に近寄ると、俺と汐に向かってそっと手を差し伸べた。が、結局掴んだのは汐の手だけで、梓に手を躱された俺はそのままの勢いで顔面から倒れた。しかも、みんなそのまま放置である。
因みに、俺たち5人の家は並んでいるか向かい合っているかというほど近く、先に帰った隼也の家も俺の家の右斜め前にある。
俺は4人と別れると、顔を抑えながら倒れこむように自分の家へ転がりこむのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます