コミュ障たちの罰ゲーム!
「じゃあ!いくよ!ジャンケン…」
俺と隼也は互いに腕を振り上げると、口を開くと同時にその手を振り下げた。
「「ポン!!」」
俺の出したのはチョキ。もうどうにでもなってしまえといつも最初に出しているこの2本の指に託したのだ。
そして、見たくはないが…俺はゆっくりと隼也の手元へと目線を移す。隼也の手は五本の指が震えながらも広げられていた。要するに、パーだ。
「かっ、勝った…」
「うっ…うっそだろぉ…」
自分の手をみて感動してる俺とは逆に、隼也は自分の手を見て絶望している。でも、勝負は勝負!勝ち負けは絶対に避けられないのだよ!
勝ちとわかった瞬間にさっきまでのネガティヴ思考は何処へ言ったのか、俺は大きく胸を張り、四つん這いになって今なお悔やんでいる隼也を上から見下ろした。
実際これはコミュ障を克服するための俺の考えである。罰ゲームを受ける当の本人の気持ちになると…あれだけど…、いやでも仕方ないじゃん!罰ゲームなんだし!
「じゃあ行こっかぁ〜!隼也もそんな顔しないで!」
「桐乃…お前にジャンケンで全敗した俺の気持ちがわかるかよ…」
桐乃の一声で俺たちは全員校門の側まで歩いて行った。いまだにショックで四つん這いになっていた隼也は桐乃に無理やり引きずられての移動である。
俺が罰ゲームとして決めたコンビニの場所は俺たちの通学路の途中で見かけるコンビニであり、見るぶんには全然慣れていた。
そこで、物を買うってなると話は別になるんだけど…、物を選ぶまではいい、その手に持った物をどうするか…それが問題なのだ。
レジの方を見ると一生懸命に接客する…たまにやる気のない人もいるけど、まあそれはいいや。とりあえず接客するカウンターの人が待ち構えている。あんな一日中コミュニケーションをとり続けなければならない仕事、到底今の俺たちではできないだろう。まあ、そんなこと言ってたらできる仕事の方がすくないだろうけど。
今回は俺がそのジュースを買うパシリになったわけではないけど、考えるだけでも頭の中が真っ白になっていく。でもまあ、同情はしないよ?罰ゲームなんだし。
「じゃ、行こっか隼也」
「やだぁー!!俺は行きたくねぇ〜!!」
「文句ばっかり言わないで、負けたのは隼也なんだから」
先頭を歩きだす俺とは正反対の方向に隼也は走り出そうとする。が、桐乃に掴まれているせいで逃げ出すことなどできず、さらに梓にも肩を掴まれたせいで、隼也は結局引きずられながら移動することになった。
汐はそんな隼也たちを気にする様子もなく、俺の歩幅に合わせるように短い脚を必死に動かしていた。
因みに汐の身長は俺たちの中で一番小さく、学年の中でもとくに小さい方だ。おそらくぬいぐるみを抱き抱えていても何の違和感もないだろう。
「あ、コンビニ見えてきたよー」
「こんなにコンビニが嫌に見えたのは初めてだ…」
「汐はオレンジジュースがいいな〜」
そんなこんなで隼也が最期を迎えるであろう、最大の敵…コンビニが姿を現し始めた。そのボス感漂うその姿に俺たちはゴクリと息を飲む。
しかし隼也はもう覚悟を決めているのか、もう逃げ出そうとはしていない。それかもう諦めてるのかもしれないけど。
「俺だって…俺だって男だ。もう覚悟はできてる。逃げ出したりしねえよ〜…」
隼也は強がろうとしているのだろうが、目はすごく潤ってるし、脚はガタガタ震えていて全くもってカッコよくはなかった。凄くカッコ悪かった。でも、自分で決心をつけたのは凄いと思う。
俺だって、なんか偉そうに隼也に対していってるけど、俺が隼也の立場だったら…俺はこんなことできただろうか。
まあ、拒否権とかないんだけど。
「じゃあ行ってらっしゃーい」
「鬼だっ!鬼だお前ら!!」
俺と桐乃に背中を押された隼也は最後に、そう最期の言葉を残し、戦場へと駆り出されていった。
コンビニのドアがゆっくりと閉まると、俺と桐乃は息ぴったりのハイタッチをし、ガラス越しに見える隼也に健闘を祈る!と謎のグッドサインを出した。
その様子を隼也は見たのか見ていないのか、よほど緊張しているようでカチコチな動きでジュースが売ってある場所まで移動していく。
桐乃はそれが面白いようで、笑いを必死にこらえていた。桐乃はもしあれが自分だったら…とか考えないのだろうか。もしそうだったら桐乃だってああなってるだろうに。
俺はそんな桐乃を見て、苦笑いをしながらそう思った。
梓は桐乃とは逆にあまり興味がなさそうだ。隼也の様子など少しも見ようとせず、さっきからずっとスマホをいじっている。
「ジュース、ジュース〜」
とても嬉しそうに腕を上下に動かす汐は、もうジュースのことしか頭にないようだ。もう、誰も隼也の心配なんかしてないんだね。そうなんだね。
俺は隼也の方へ目線を切り替える。
隼也は何とかオレンジジュース一本とあとはサイダーか何かだろうか、炭酸水らしきものを4本手にとって、レジへと移動しようとしていた。が、途中で立ち止まり、後ろへ振り返ろうとしている。
「あ、隼也め!逃げちゃダメだってば!!」
桐乃はまるでTVでも観ているつもりなのか、外と中で相手には声が聞こえないのに、必死に腕を動かしたり表情を変えたりして隼也に訴えかけていた。
「はぁ〜…、今レジに並んでる人はいないし、行こうと思えばいつでも行けるけどよ…。
どうせ、いつもの癖がでるんだよなぁ…。行きたくねぇ」
隼也はぼそりと呟くと、俺たちの方へちらりと目線を向ける。当然その言葉は俺たちには届いていない。
隼也はキラキラと目を輝かせている桐乃に対し、右手でブーイングサインを送ると、もうどうにでもなれと店員の方へ歩み寄っていく。
…そうだ、別に喋らなくていいじゃん。ただ、これを置くだけ…。
そう考えた隼也は5つのジュースを無言でカウンターの上に乗せると、財布の中を確認した、中には千円近く入っている。これくらいあれば十分であろう。
「750円になります」
突然の店員からの声に隼也は固まる。いや、店員が値段を言うのは当たり前だろ!なんでそんなこと考えてなかったんだ俺…。
隼也は一瞬その場で固まると、ガタガタ震える顎を何とか抑えながら言葉を発した。
「はっはは…ひゃい」
声が裏返り、隼也は一瞬放心状態になった。が、少し経った後、それを隠すようにゴホンと咳をする。
店員の人は笑いに堪えきれなかったようでクスリと笑みをこぼしていた。隼也はあまりの恥ずかしさにすぐに店員の方から目線を外し、どこか逃げれる場所はないかと辺りを見渡した。
外を見ると、桐乃が大笑いしながら転げ回っている。
「あの野郎…あとで覚えとけよ…!!」
隼也は恥ずかしさに耐えながらレジを後にすると、明らかに不機嫌そうな表情でコンビニの外へ出てきた。よく見ると、半泣きである。
「隼也お疲れ」
「うるせー…、ほらよジュース」
隼也は俺に顔を向けることなくジュースを手渡すと、そのまま誰とも顔を合わすことなく自分のジュースのキャップを開けた。
少しやりすぎたかな…。
俺は少し反省したが、桐乃は「また今度やろーよ!!」と全くそんなこと思ってない様子だった。
桐乃は自分が罰ゲームをうける立場になる可能性があることをわかってるのだろうか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます