間章『キリエからの手紙』
『二人に伝えておきたいことがある。もちろん今の二人には必要ない情報かもしれない。でも、世界はそんなに甘くないかもしれない。だから念のため伝えておきます。人食病患者を殺すための方法を。
一つ目は私がとったのと同じ方法、人食病患者に食べさせること。
もう一つはこの封筒に入れた錠剤を使う方法。
その方法は簡単、カイちゃん、あなたがこの錠剤を飲めばいいだけ。この錠剤は人食病患者の人食衝動を極限まで高める作用があるの。それはカイちゃんやレンが普段感じるような人食衝動とは比べ物にならないほどの。
人食衝動を極限まで高めることで、すべての意識を人食に回し、その他の人体の機能を停止させる事が出来るの。人体の機能の停止、すなわち死、よ。けれどこの方法には一つだけ問題がある、飲んだ人間の人体の機能を停止させるには、極限まで達した人食衝動を満足させる必要があるの。
言いたいことはわかるわね?
カイちゃんが死ぬためには必ず誰かを犠牲にしなくてはいけないの。本当にごめんね。こんな残酷なこと今のあなたたちに言うべきではないのかもしれない。私はあなたたち二人の幸せを心から願っているわ。けれど、私のようにこの世界に絶望して、生きることを本気で諦めたいと、そう思ったのならこの薬を使いなさい。』
『マキナへ。これはあなただけが読みなさい。
私はね、この薬を使うことが出来なかったの。実際に使ったことがないから、しっかりと効果が出るのか疑わしかった、と言うのは簡単だけれど、それは嘘。
私は、レンに食べられたくなかった。こんなにレンの事を大切に思っているのに、レンに食べられることを想像すると怖くて震えが止まらなかった。
この薬を使えば簡単に二人で死ねるかもしれないのに、それなのに、私は出来なかった。
ねぇ、マキナ。あなたにはその覚悟がある?
私は人間として死にたいの。人間の死んだ理由が同じ人間に食べられたから、なんてそんなの絶対におかしいと私は思う。私はレンの姉としてどんな手段を使ってもレンを守ると、そう誓った。でもこの薬は使えなかった。
それはきっと私がレンの姉である以上に、人間であることを選んでしまったから。
私はこの先あなたがどちらを選ぶかはわからない。あなたがどちらを選んだとしても誰もあなたを責めたりはしないはずよ。少なくとも私はあなたがどちらを選んでも、よくやったね、って抱きしめてあげられる。
だから、あなたはあなたの道を選びなさい。
なーんて、少しお説教っぽくなっちゃったかな?
私も歳をとったものね。まったく。
頑張ってね、マキナ。私はずっとあなたの側にいるわ。』
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