間章『君は誰だ』
少年は蹲って考える。
神はこの世界に存在するのか?
多くの人々が様々な神を作り出した。救いを求め、己の罪の許しを乞うために。時には神の存在を巡って戦争になることすらあった。神のためにその身を投げ捨て、己の命を掛けて戦った人も大勢いた。
少年自身、神の存在を信じきっていた訳じゃない。もしかしたらいるのかもしれない。その程度に考えていた。
だが、本当に神が存在するというのなら、何故。何故助けてくれなかったのか。何故こんな悲惨な世界を作り出したのか。
人が人を殺し、自然は枯れ果て、世界には命と呼べる存在がもう残っていなかった。
くそッ、くそッ、くそッ。
何故なのか。なんでこんなことになったのか。普通に暮らしていただけなのに、突然戦争が始まって、巻き込まれて。今までの日常があっという間に崩れ落ちて。残ったものは絶望だけだった。ただ一つだけ、ただ一つだけの希望も今絶望に食われていった。少年が誰よりも何よりも大切だった妹も、文字通り『食われてしまった』。
「カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカカイカイカイカイカイカイカカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカイカカイカイカイカイカイカイカイイぃィィぃィィィィぃィィィぃィぃぃィィィィぃィィィィィィぃィィァァァァあああああああああああああああ、うぁァァァぁぁァァあァァあァぁァぁぁァぁァぁァぁァぁァぁァぁァあああぁァぁァぁ……カイ、カイ、カイカイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、カイ、」
少年は血の涙を流していた。強く握りすぎた手は真っ赤に腫れあがり、食いしばった口からは大量の血が流れ出ている。それでも少年はただひたすらに少女の名を呼ぶ。誰よりも何よりも大切だった少女の名を。もういない少女の名を。
まるで昨日のことのように少女が笑っていた姿が脳裏を霞める。お兄ちゃん、って笑いながら微笑んでいる。どんなにつらいときだって笑ってくれた。
だから少年はどんな現実にも立ち向かうことが出来た。失う日が来るなんて想像していなかった。いや、出来なかった。隣にいるのが当たり前で、日常だった。
「……カ、イ」
少年はゆっくりと空を見上げる。もし本当に神様が存在するのであれば、この空の向こう側だろうか?
――否
神などいない。信じられるのは自分だけだ。少年はゆっくりと立ち上がる。大切なものを失ってしまったなら、取り戻せばいい。
「ははっ……。俺は守りたかったんだ。カイを。自分の大切な人を……。失いたくないんじゃない、失えないんだよ。カイがそばにいないと、俺は俺じゃいられないんだよ」
死んだ人間は蘇らない。誰もが言うだろう。
人間には無理だと言うだろう。
ならば、
「人を越えればいい」
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