第7話 一人じゃない

「小娘は行かないのか?」


 傍にいる霊歌が聞いてきた。その手はしっかりと縛ってある。


「これはあいつの戦いでしょう。わたしが手を出していい問題じゃない」


 とは言うものの、正直に言えば花恋も行きたかった。行って自分の父親を狂気へと駆り立てた人物を一発殴ってやりたかった。でも、それでも、ここは時雨に譲ろう。そう思っていた。


 花恋自身が過去を乗り越えて今ここに立っているように、時雨が乗り越えるべき過去はあの男――橘日嗣――なのだろう。


(ま、いいわよ。帰ってきたらあいつを一発殴れれば)


「くくく……優しんだな」

「優しい? わたしが? 冗談はよしてよね、いったいどこをどう見れば――」

 花恋が話していると、霊歌が花恋の言葉を遮るように、

「――好きなのか? バカ息子のこと」



「!!!!」



 思わず花恋は耳まで熱くなってしまった。


「あ、あなたは……な、何を言っているのかしら……?」


 冗談じゃないと花恋は思う。というかふざけるな、と思う。そりゃあ、時雨のことは信頼しているし、感謝もしている。この街で時雨に出会ったことですべてが変わった。いきなり無理なケンカを吹っ掛けたというのにすべて受け入れてくれた。だから感謝している。でも感謝こそすれ、好き、とかそういうのではない。そのはずだ。そもそも花恋は最近までまともに人と関わってこなかったのだ。友達と言える存在ですら最近になってはじめて出来た。だから誰かを好きになるとかそういう気持ちは想像もつかないし、まったく理解もできない。


(秀や涼、セルルのことは友達だと思っているし、それは時雨だって変わらないはず。でもやっぱりどこか普通とは違う気がして、でもそれはあくまでこの街にきていろいろあった最初の人物だからであって、自分がここにいたいと思えるきっかけをくれたのがたまたま時雨だったというだけの話で、好きとかそういうのとは全然違うし……いやだからそもそも好きとか嫌いとか、そういう感情自体がよくわからないし…………う~ッ!)


「くっくっく……面白い」

「暑いッ! てかあんた黙りなさい!」


 花恋は携帯電話を取り出し、冬霞へと連絡を取る。霊歌をしかるべき機関へ突き出すべく、身柄を冬霞に預けるためだ。だが携帯電話を操作しながらも、頭は別のことでいっぱいだった。


(まったく、なんでわたしがこんなにあたふたしなきゃいけないのよッ! 嫌いよ、嫌いッ! あんな奴大ッ嫌いよ! ふんッ!)


 心の中で叫びながらそっぽを向く花恋。


 そして視線の先にある窓を見ながら花恋は思う、



 大嫌い、大嫌いだけど、とりあえず無事に帰ってきなさいよ、と。




     †     †




 花恋がなんだかんだと悩んでいる頃、時雨は街の繁華街を走っていた。時刻は夜。多くの若者や仕事帰りのサラリーマンで賑わっている。


 時雨が霊歌から受け取ったものはこの街にある一番大きなホテルのスイートトルームのカードキーだった。冬霞が経営するホテルであり、パーティなどで何度か行ったことのある場所だった。


(ったく、自分たちは高みの見物ってか。いい趣味してるぜ)


 ネオンが彩る繁華街を抜けると、一つの大きなビルの塊が目に入る。それこそが時雨の目指していた場所だ。


 時刻が夜なので、人通りはまばらだ。とはいえ、そこは高級ホテル。警備に抜かりはないのだろう。ホテルの門の前には警備員が二人立っている。


 時雨は、こんな時間に一人で高級ホテルに入ろうとすれば警備員に何か言われるのではないかと、内心ドキドキしながら門をくぐった。幸い、警備員になにか聞かれることはなく、ホテルの中へと入ることが出来た。ホテルのエントランスで時雨は再び霊歌にもらったカードキーを見る。


 4133、とカードキーに数字が振られている。


 このホテルは大きく四つのビルに分かれており、一回のエントランス、二十五、五十、七十五階の連絡通路を通ることでそれぞれを行き来することが出来るようになっている。この4133という番号は第四棟の百階、百三十三号室ということを意味している。


 当然時雨はエントランスから第四棟に向かい、エレベーターに乗り込んだ。


 右上にある回数表示が徐々に上昇していく。時雨は一刻も早くセルルを助けたい、と思う反面、少しの恐怖が自分の心の中に存在することも自覚していた。


 それは当然の感情だった。幼い時雨の心に大きな傷を残し、時雨とセルルの人生に最も影響を与えた人物、それが今から行く場所にいるのだ。恐れない方がおかしいだろう。


 でも、それでも時雨はその場所へ向かう。


 そんなちっぽけな恐怖などセルルのためならば何の問題にもならない。


 チーン、という音がエレベーター内に響き、目的の回に到着したことを知らせてくれる。


 エレベーターから降り右へと向かう。


 4127、4128、4129…………4133。


 時雨は目的の部屋を見つけ、今にも部屋の扉をぶち破りたい気持ちに駆られたが、それをやれば冬霞に迷惑がかかると思い、グッとこらえた。


 大きく深呼吸をし、熱くなった頭を冷やす。


 そしてカードキーをドアノブの横に差し込む。小さくピピッ、とい音が鳴り部屋の鍵が開いた。


 扉を開き、部屋の中へと侵入する。廊下を抜けダイニングまで歩くとそこには、見覚えのある人間が時雨の方へ向き直った。


 橘日嗣、紛れもない時雨の父親だった。


「……来たか」


 日嗣が時雨を見ながら小さく笑った。


「まったく、あの馬鹿はなんて役立たずなんだ。せっかく貴重な魔石まで与えてやったというのに……。どうだった時雨、久しぶりの母親との再会は」

「……黙れ、セルルはどこだ?


 時雨が鋭い視線で睨みつけるが、日嗣はまったく動じた様子はない。


「なぁ、時雨。どうだ、我々の元に戻ってこないか?」


 時雨はその言葉に驚きと共に怒りがこみ上げてくる。殺そうとした挙句、今まで散々ほったらかしておいて、どの口でそんな言葉が言えるのか。時雨は理解できなかった。


「今まであれほど後悔したことはなかったよ。あの時の我々はどうかしていたんだ。いくら最新の魔石の効力を調べるためとはいえ、それで貴重な実験対象を殺そうとしてしまったのだからね……。愚かだよ、あの時の我々は本当に愚かだった。今ならあんな扱いは絶対にしないと約束しよう。どうだ?」


 時雨にとってその問いは考慮するまでもない。答えは決まっている。


「だまれ、俺はここにそんなことを話しにきたわけじゃない」


 時雨の言葉に対し、日嗣はいやらしいまでの笑みを浮かべ、言葉を発した。


「ふふッ、お前も馬鹿だな。これは私の優しさなのだよ? 我々が最も欲しているもの――精霊石はすでに手の内にある。本来なら人工精霊も手に入れたいところだったが……まぁよしとしよう。この二つと比べてお前はあくまであってもいい、程度の存在だ。なくても別に構わない。ただ、もしお前が我々と来るのであれば、彼女と一緒にいられるぞ? 大切な彼女と」


 日嗣がそう言って、少し横にずれて自身の後ろにある机を指さした。


 そこにはセルル――精霊石――がいた。


「セルルッ!」


 セルルの精霊石には黒いベルトのようなものが巻きつけられており、それが枷となっているのか、セルル一向に反応を示さない。


「さぁ、どうする時雨。我々と共に来て、彼女と共にいるのか、それとも彼女を見捨てて今の場所にとどまるのか。決めるのはお前だ」

「……ッ」


 時雨は強く、強く唇を噛んだ。


 時雨の中にセルルを見捨てるなどという選択肢は存在しない。どんなことがあってもセルルの側にいる。それは今更考えるほどのことでもない。


 このまま日嗣たちについていけばセルルと離れずにいられるだろう。それは間違いない。先ほど日嗣が言っていたように貴重な実験対象を殺すような真似は絶対にしないだろう。


 だが、その場所でセルルは笑っているだろうか。今までのようにすべてを包んでくれる、優しい笑顔を時雨に向けてくれるだろうか――


 ――否。


 セルルは笑わない。


 絶対に、セルルは笑わない。


 セルルが笑わないなら、それは時雨にとって『日常』では有り得ない。


(……冗談じゃない。なに一瞬でもこんな奴らについていくことを考えてんだよ、俺は。俺が、俺たちが望んでるのは、二人で一緒に『日常』に帰ることだろうがッ! なら悩む必要なんてないだろ。全部、全部ぶっ飛ばして大事なものを守るしかないんだッ!)


「――じゃない」


 時雨の声が聞き取れず、日嗣が聞き返す。


「冗談じゃないッ! 俺は俺の『日常』を取り戻す、どんなことがあっても、だ! お前らがその邪魔をするって言うなら、叩きのめしてやるッ!」


 時雨は冷静だった。言葉は荒くなっているし、気持ちも高ぶっていることは否めない。だが、頭は澄み切ったように冷静だった。この状況はまるでセルルを人質に取られている様に見える。しかし冷静に考えれば違う。日嗣たちにとってセルルは貴重な存在なのだ。殺すことも、傷つけることも出来はしない。ならば、時雨が日嗣たちをぶっ飛ばしてセルルを取り返せばすべての決着がつく。


 覚悟を決めた時雨の心には、日嗣たちに対する恐怖は微塵も存在しなかった。


 日嗣は呆れたように肩をすくめる。


「ふんッ……。困ったものだ。もういい時雨、君はいらないよ。死んでいい」


 日嗣が淡々と言い放ち、右腕を前にかざす。それは何かの詠唱の合図だったのだろう。精霊術か、もしくは魔石を使った何か。間違いなく何かが時雨に向かって放たれていただろう。


 しかし、日嗣が手をかざす瞬間、時雨はすでに動いていた。日嗣との間にあった距離を一瞬で詰め、その右手をおもいきり振るった。時雨の拳が日嗣の頬を捉え、日嗣はそのまま床を転がる。


 日嗣にスキが出来た瞬間距離を取り、時雨は魔石を使って剣を作り出す。魔剣アイスコフィン。さらには風の精霊術を行使、身体中に風を纏い、スピードを上げる。


 時雨は短期決戦を狙っていた。


 なぜなら、



 ――一刻も早くセルルを助けたかったから。

 ――今すぐセルルの顔が見たかったから。

 ――今すぐセルルの声が聞きたかったから。



「はあぁぁぁぁぁッ!」


 時雨は追撃の手を緩めない。まっすぐに日嗣へと向かって突進する。だが当然時雨が再び攻撃を仕掛ける頃には日嗣も体制を整えている。


 日嗣の手にはどこからだしたのか剣が握られており、それが時雨の魔剣を防いだ。


「まったく親に逆らうとは……いい度胸をしているなァ、時雨。お前はおとなしく私のモルモットになればいいのだよ。それがお前の幸せだ。わからないのか?」


 数秒のつばぜり合いを終え、時雨と日嗣は大きく距離を取る。


「俺の幸せがてめぇのモルモットでいることだって? ふざけんのもいいかげんにしろよ、クソ野郎。俺の幸せは、セルルが側にいて、セルルの顔が見れて、セルルの声が聞けて……セルルが笑顔でいられることだッ! 覚えとけこの野郎ッ!」 


 セルルに声が聞こえていたら絶対に言えない言葉。セルルがベルトによって縛られているからこそ言える言葉。もしセルルの目の前ならこんなセリフは口が裂けても言えないだろう。


 日嗣は時雨の言葉に対し、滑稽な喜劇を見ているかのように乾いた笑みを向ける。


「ふふッ……勇ましいことだ。愚か者め」

「俺が愚かだって言うなら、あんただって十分愚かだろ。お互い様だ。お互い愚かだと思い合っているのなら、どうしようもないだろ? もう俺たちは解り合えやしない。まぁ、もとから解り合えるとは思ってないけどなッ!」


 時雨が再び日嗣へ走る。時雨は風の精霊術を使い、かなりスピードが向上している。ゆえに、相手が普通の人間であれば間違いなく反応できないはずだ。しかし日嗣は時雨に振りおろしに対し、いとも簡単に反応して見せる。


「はて……。そういえばお前……何故、精霊術が使える?」


 時雨は言葉を返さない。そして、日嗣の異様な反応に臆することなく攻撃を加える。


 切り上げ、切り降し、さらには突き。決して相手に余裕を与えない連撃。


 日嗣への怒りが、一刻も早くセルルに会いたいという思いが、時雨を急き立てる。


「答えないか……。それもよかろう。だがお前と言う存在には俄然興味が沸いたな」

「だまれ、あんたなんかに話せる薄汚れた話でもなければ、お前が興味を持っていいような腐った話でもないんだよッ!」


 時雨が振り下ろした魔剣を、日嗣が受け止める。再びのつばぜり合い。二人の顔が接近する。


「相も変わらず強気なものだなァ、時雨。まぁいい、精霊石を奪われたお前が何故精霊術を使えるのか……。是非研究してみたくなった。さっきの「死んでいい」という言葉は撤回しよう。これはなんとしてもお前を手に入れなくてはいけないな」


 ギリギリと二つの剣がせめぎ合う。


 本来ならここで一旦離れお互い体制を立て直し、再び攻撃を仕掛けるのがセオリーだ。


 つばぜり合いとはお互いの剣に掛ける力が互角だからこそ起きる現象。そのバランスが崩れれば、どう転ぶかは本人たちにもわからない。もし片方が力を入れて押し切ろうとすれば、相手にとって攻撃を避ける最大のチャンスとなる。逆に力を抜いてかわそうとすれば相手の力に押し切られてしまうかもしれない。


 まさに拮抗。


 本来なら力を掛けたまま後ろに飛ぶ、これがベターな選択だ。時雨も先ほどは迷うことなくそうした。


 だが、違う。そんなことをしていても埒が明かない。時雨は一分でも、一秒でも早く、セルルに会いたいのだ。


 だから、賭けに出た。


「はあァァァァァァ!」


 魔剣を持つ手に大きく力を込める。それは相手にとって最大のチャンス。ここで日嗣が力を抜けば時雨はバランスを崩し、大きく転んでしまうかもしれない。


 当然それを日嗣は知っていた。案の定、時雨はバランスを崩す。そして日嗣は時雨の左側へと動き、隙だらけの時雨へと剣を振り下ろす。


「じゃあな。時雨」


 ニヤリ。時雨は笑った。時雨だって知っている。自分がバランスを崩すであろうことは承知の上だ。だから、


 ザクッ! 時雨はバランスを崩しかける中で魔剣を杖代わりに思い切り地面に突き刺した。そしてそのままそれを両手で掴み転びかけている自分の勢いをそのままに自らのかかとを日嗣へと振りはらった。それは振り子のようにするどく日嗣へと向かう。かなり無茶な体勢。時雨は自分の体のどこかからグキッ、という嫌な音を聞いた気がした。


 しかし、時雨の無茶は日嗣にとって予想外。時雨のかかと蹴りは直撃、日嗣は先ほどと同様に床を転がった。


 日嗣の体は壁に叩きつけられてようやくその動きを止める。


 口の端から血を流し、壁際に寄りかかるようにして立ち上がる日嗣。


「クククッ……! 強くなったなァ……時雨。驚いたよ。本当に驚いたよ、時雨、お前は強い、強いよ。すごく、ものすごく強いよ。この私が二度も床を這うことになるなんてなァ……。いやァ、まいったよこれは」

「もういいだろ。お前の負けだ。セルルを返して二度と俺の前に現れるな」


 まっすぐに、睨みつけるような視線で日嗣を見る時雨。


「フフッ……。私の負け、か。確かに今の状況だけを見れば私の負けだなァ。確かにお前は強いよ。魔石を体に持ち、魔剣を使いこなしている。挙句精霊術まで使えるのだからね。強くて当たり前だ。きっとそこらの軍隊一つ程度なら相手に出来るんじゃないか? だがね、一つだけ聞いておこう――」



「――その力はお前のものか?」



 その言葉に対し、時雨の顔が歪む。


「……一体、何が言いたい?」

「言葉のままの意味さ。お前が使っている力、いや今まで使っていた力もそうだ。それはお前自身の力か時雨?」


 日嗣が唐突に放った言葉がジワリ、と時雨の心へとしみこんでいく。


「だまれ、そんなことはどうでもいいだろう」

「よくはないだろう。おまえは学園じゃあ天才だなんだと言われもてはやされているようだが、その『天才』の正体はなんだ? 精霊石のおかげだろう? 精霊石さえあれば誰だってお前のように精霊術が使えたさ」

「……」


 時雨は何も言わない。いや、何も言えないのだ。


 普通人間は精霊術を、体内の血液中に含まれる僅かな霊力と空気中のエレメントを反応させることで行使する。その僅かな霊力を引き出せるかどうかで力の優劣が決まってくるのだ。しかし時雨の体には血液ではなく霊力が流れていた。高レベルの精霊術を行使出来て当然なのだ。


「だからお前が言われている『天才』は『才能』などではないのだよ。ただの『偶然』だ」


 『偶然』、それは時雨も良くわかっていた。もしかすると精霊石を体に持って生まれてくるのは学園の隣の席に座っている人間だったかもしれないし、はたまた秀や、涼だったかもしれないのだ。


「さらに言えばお前がたった今使っている力、魔石はもとはと言えば私のものだ。お前の力はすべて自分で手に入れたものじゃない。すべてがまやかしだ。結局お前は自分一人では何もできない愚か者なのだよ、時雨」


『すべてがまやかし』


 この言葉が時雨の胸に重く、重く突き刺さる。今まで時雨は自分の使える力を使って生きて来た。今まではずっと精霊石による恩恵を受けた強大な精霊術で、振りかかる火の粉を払ってきた。そして今は、魔石の力を使って目の前の障害を払おうとしている。


 だが、その力はなんだ?


 今まで、そして今使っている力はなんだ? 

 

昔は精霊石の、今は魔石の。すべて自分の力ではない。自分自身の力で何かを守ったことなど一度もない。ただの一度も。


(それが、それがどうしたっていうんだ。俺は、俺の大切なものを守る力があればそれでいい。それでいいんだ……)


 俯く時雨に対し、さらに日嗣は言葉を投げかける。


「おまえは自分の大切なものは自分で守ると言いたいようだが、どうだ? お前の使っている力はお前の物ではないだろう? 他人からもらった、はたまた偶然手に入れた力でお前は誰かを守るのか? 馬鹿も休み休み言え、愚か者が。いや、愚かを通り越してもはや滑稽だな。粋がるのは自由だが、せめて自分の力で何かが出来るようになってから言うんだな、この道化が」


 日嗣の言葉が時雨を飲みこんでいく。決意をしたはずなのに。


 負けないと。


 守ると。


 だが、守る力は自分の物ではない。誰かに、偶然に、もらった力だ。自分で手に入れた力などではない。そんな人間が誰かを守りたい、そんなことを言うことはおこがましいことなのだろうか。 


「違う、違う、違う、違うッ!」


 時雨は自らの迷いを振り払うかのように日嗣へと切りかかる。


「馬鹿め」


 ドンッ! という大きな音がすると同時に時雨は吹き飛ばされた。


 時雨は窓ガラスに叩きつけられ、そのガラスにも時雨がぶつかった衝撃で全体にひびが入る。


「くそッ……」


 痛みに耐えながら時雨が前を向くと、そこには大砲と言ってもいいであろう大きさの銃を構えた日嗣が立っていた。


 先ほどまでは何の変哲もない剣を一太刀持っているだけだったにもかかわらず、突如としてそれがいつの間にか大型の銃に変わっている。時雨が怪訝な視線を向ける。


「ああ、これか? お前もわかっているだろう? 魔石だよ、魔石。私は魔石の研究者だ持っていてもなんら不思議はあるまい。ま、もっともお前の魔石のように不完全なものではないがね」

「不完全……?」

「そうだ、お前や馬鹿娘の魔石と違って私の魔石は完全だ。私の魔石は『属性』などに縛られたりはしない。お前たちの魔石すべての力を持った魔石、それが私の魔石だ」


 『属性』に縛られない魔石。普通、魔石は『属性』持っている。時雨なら『剣』、霊歌なら『銃』。それぞれの属性に即した兵器しか再生することは出来ない。しかし日嗣の魔石は違う。それらすべての兵器、人間が開発してきたすべての兵器を再生できる。


 それは全世界中の兵器を相手にするよりも、恐ろしいことかもしれない。


 時雨は体勢を立て直すべく、手に力を込める。しかし、先ほどの銃による衝撃は思った以上に大きいらしく、体に力が入らない。


「もう一度だけ聞こうか。時雨、私と共に来い」


 日嗣の二度目の誘い。だが、時雨の答えは変わらない。


「黙れ、あんたと行くくらいなら死んだ方がましだ」

「ふぅ、そうか。それは残念だな。まぁ、精霊術の謎は死体を解剖することで解明できるだろう。死体を漁る趣味は持ち合わせていないのだが、この場合は仕方あるまい――」


 日嗣は呆れたように大きく息を吐き、



「――ゲームオーバーだ、時雨」



 再びドンッ! という轟音が部屋を駆け抜けた。


 日嗣の銃から放たれた光弾が時雨へと直撃する。後ろの窓ガラスに押しつけられ、時雨の体が圧迫される。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァッ!」


 全身に光弾の熱による燃えるような痛みと、圧迫による痛み、その二つが容赦なく襲いかかる。


(まず、い、このまま、じゃ……)


 時雨は懸命に思考を巡らせるが、いかんせん痛みのせいで頭が正常に働くことを拒絶する。だが体は動いた。それはおそらく、この苦しみから逃れるために体が防衛本能だったのだろう。まるで霧の中を歩くかのように、当てもない手掛かりを求め、時雨の手が動く。


 すると、急に光弾による痛みとも、圧迫による痛みとも違う、別の痛みが時雨の手に走った。そう、それはナイフで皮膚を切り裂かれたような痛み。


 時雨が痛みに耐えつつそちらを向くと、ガラスの破片が散らばっていた。一度目の光弾によって窓ガラスのあちこちにひびが入っているのだ。


(これは……)


 時雨は咄嗟に魔剣を再生、思い切り窓ガラスに突き刺した。


 バリンッ! という音と共にガラスが砕ける。そして窓ガラスという支えを失った時雨の体が窓から外へ投げ出された。


 ホテルの百階。そこから時雨は転落した。命綱のない決死のバンジージャンプ。


「こんなこと、二度とやらねぇ……ぞッ!」


 時雨が下をみると下には七十五階にある、四棟と三棟を結ぶ渡り廊下が見えた。


 ギリギリのところで風の精霊術を行使、大きな音を立て、転がりながら渡り廊下の屋根に着地をする。いくら、精霊術で着地の衝撃を緩和したとはいえ、時雨の体中に落下による鈍い痛みが駆け巡る。もしかすると、骨の一本や二本は折れてしまっているかもしれない。


 時雨が顔を上げ、自分が落ちて来た部屋を見ると、窓から日嗣がこちらを見ている。そして、時雨と目が合うと同時に窓から飛び降りた。


 日嗣は時雨同様に風の精霊術を行使、時雨の目の前へと降り立つ。


 無音。日嗣は時雨と同様にホテル二十五階分の高さを飛び降りたというのに、何処かを痛がるわけでもない。大きな音がするわけでもない。時雨は痛がった。時雨は大きな音を立てた。


 これが、これこそが二人の実力差を如実に物語っていた。


「さて、先ほどはよく逃れたと褒めてやりたいところだが、それもここまでだ。ここから落ちればさすがのお前も助かりはしまい」


 今は何とか二十五回分落下するだけですんだが次もどうにかなる保証などない。ここから落下すれば助かる可能性はかなり低い。今生きていることさえも奇跡なのだ。


「さて、これでわかっただろう。お前は私には勝てん、最後にもう一度だけ聞こうか。私のモルモットになる気はないか?」

「ないな。俺はセルルを連れて帰るんだ。あんたモルモットなんて冗談じゃない」


 セルル、この言葉を聞いた瞬間、日嗣が大きく溜め息を吐く。


「セルル、セルル、セルル、セルル、セルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルッ! おめでたい奴だなァ! セルル、セルル、セルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルセルルッ! 反吐が出るッ! お前は昔からそうだった。どんなときでもセルルがいればそれでいい。他は何もいらない。それは今も変わらないか!」

「あんたには関係ないだろう! 気安くその名前を呼ぶなッ!」


 身体中の痛みから、今だ立ちあがることが出来ない時雨が日嗣を見上げながら睨みつける。


「お前は気付いているのか? お前たちの関係に」


 日嗣は時雨へと近づき、思い切り蹴り上げる。腹へと突き刺さった日嗣の足、時雨は口から体内を流れる魔力を吐きながら地面を転がる。


「お前たちはずいぶんお互いを大切にしあっているようだなァ……。一見すればそれはとてもすばらしいことなのだろう。必要として大切にする、すばらしいねぇ……。だがそれにも限度がある。何事も限度を超えればおかしくなってしまうのだよ時雨。おまえは気付いているか? お前たちの関係、それは愛情などではない――」



「――依存だ」



 『愛情』と『依存』。似て非なるもの。


 人は誰かを必要とする。誰かを好きになる。誰かを愛する。


 そうなれば誰もが自分の愛する人の側にいたいと、そう思うだろう。普通の感情だ。愛する人との、二人だけの『世界』、とてもとても大切なものだろう。


 だが、もし世界がそれだけになってしまったら?


 誰しも自分が生きる『世界』がある。そのなかで愛する人との世界を組み込むことで幸せになれる。


 だが、もし自分の世界が『相手との時間』だけになってしまえば?


 そうなった時、相手との関係が破綻してしまえば『世界』そのものが崩壊してしまう。


 時雨にとってセルルが側にいること、それこそが『世界』だった。


 ならばセルルがいない今はなんだ? 時雨の『世界』は崩壊している。自分の『世界』が崩壊する。それはすなわち、自分という存在そのものが消え去ると言っても過言ではない。


「お前は、自分の世界を取り戻したいだけだろう? 自分自身の拠り所を取り戻したいだけだろう? 愛情などではない。いいかげん気付いたらどうだ? 見ているのも痛々しい」


 日嗣が容赦なく時雨を蹴り続ける。


「……時雨、もういいだろう。すべて捨てて私のモルモットになればいい。そうすればお前という存在に実験動物としての価値を与えてやろう」


 時雨の口からは体を流れる魔力が溢れ、地面を真っ赤に染めている。


(……依存、か)


 時雨自身、わかっていた。自分たちはお互いに依存していると。どんなときも離れられなかったという事情はあった。でも、どんな時でもお互いを優先し、常にお互いを見つめてきた。そして二人だけの秘密を多く持った。本当に大切なことは誰にも話さずセルルと時雨、二人だけの胸に秘めた。


 それが正しいことだとは思わなかった。



 それでも時雨はセルルだけを見つめていたかった。

 セルルと二人だけの秘密を持てることが嬉しかった。

 セルルに依存できることが嬉しかった。

 セルルが依存してくれることが嬉しかった。



 間違っている、かもしれない。でも人間の少年と精霊の少女は一緒に生まれたのだ。決して離れることのない、特異な体質を持って生まれたのだ。



 二人で、一人。



 時雨は解らない。


 答えなど出ない。


 出るはずがない。


 出したくもない。


 時雨はセルルのそばにいたいのだ。


 そこに理由なんていらないし、『愛情』とか『依存』とか難しい言葉はいらない。


 ただ、セルルのそばにいたいのだ。


(ああ、会いたいな……。セルルに、会いたいな……)


 時雨はもはや体の感覚すらなくなっていた。口からは何度魔力を吐きだしたかわからない。骨だって折れているかもしれない。全身傷だらけで、もう起き上がるどころか、意識を保つことすら危うい。


(結局誰も守れないの、かな……)


 時雨は思う、大切な存在を自分の力で、自分が手に入れた力で守りたかった、と。でももうそれは叶わない。


 時雨は死を覚悟し、まるでまどろみに落ちるかのように目を閉じた。


 すると、そこに何か、温かい何かを感じた。



(負けないで、時雨)



 声、聞き覚えのある声。


 自分の大切な、何よりも大切な人の声が聞こえた気がした。


 時雨は自分の右手を左胸に持って行く。


 ドクン、ドクン、と脈打つ音が聞こえる。


 時雨の胸にある精霊石が脈打っている。


(……まだ、いける、か)


 今、時雨の胸にある精霊石、それは時雨が作り出したものではない。


 セルルが、時雨と引き離されたときに、時雨のことを思い、時雨が生きることを望み、願ったからこそ生まれた奇跡の産物。


 それは、時雨自身がその手で手に入れた力ではない。


 だが、それは時雨を大切に思うセルルがくれた、とても大切な、とても優しい、とても愛おしい力。


 時雨にとってそれは何よりも尊い意味を持つ。


 自分で手に入れた力かどうか、それがとても些細なことと感じてしまうほどに。


 自分を望んでくれる人がいる。


 自分に生きていてほしいと、そう思ってくれる人がいる。


 それだけで生きられる。


 それだけで生きていたいと思う。



(ありがとな、セルル)



 ガシッ! と時雨が日嗣の足を掴む。


 目は霞むし、血が足りなくてフラフラする。だが時雨は立ちあがる。ここで自分が負ければ自分の大切なものがこぼれ落ちてしまう。


 よろめきながら立ちあがる時雨。


「……まだ、負けるわけには、いか、ないな。ここで、負ければ全部終わりなんだ」

「ふんッ、道化が何を言うかと思えば、結局それか。くだらない、実にくだらない」

「ああ、俺の力は誰かや偶然にもらったものばかりだ。でもな、それでも俺を大切に思ってくれる誰かがくれた力がある。あんたなんかには一生わからないだろう、優しい力がある。だから、俺は負けない。負けられないんだよッ!」

「ふんッ! 反吐が出るわ」


 日嗣は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ時雨を睨みつける。そしてその手に再び銃を。時雨を窓から落とすこととなった兵器をその手に構える。


 ドンッ! という音が響き、日嗣が放った光弾が時雨へと迫る。

 時雨は大きく一つ深呼吸をすると、その手に氷の魔剣アイスコフィンを作り出す。そしてそのまま地面に突き刺した。魔剣を盾にして日嗣の光弾を防ぐのだ。


 もし、このままなら間違いなく日嗣の光弾には対抗できないだろうが、そこを考えない時雨ではない。時雨は魔剣を一太刀作り出すと、それをきっかけに自らの力を限界まで引き出し、何十本もの魔剣を作り出し、地面へと突き刺した。


 日嗣の攻撃は時雨が作り出す魔剣を一から順に破壊していく。それでも一太刀破壊するたびに確実に勢いは落ちている。


 破壊された魔剣の数が二ケタに達しようかというところで日嗣が放った光弾の威力が目に見えるほどガクッと下がった。


 それを見た時雨は地面に突き刺した魔剣を一つ握り、光弾の先にいる日嗣へと走る。魔剣で威力の落ちた光弾を切り捨て、まっすぐに日嗣へ。


「我は歌う、氷の精と共に」


 勢いをつけた時雨は右手で魔剣を振る。さらには左手一本で精霊術を行使、氷の槍を掃射する。


 しかし、日嗣は笑った。


 またしてもドンッ! という轟音。日嗣が光弾の二発目を放ったのだ。


 咄嗟に時雨は手に持つ魔剣を盾代わりに、直撃は避けたものの、左手で放った氷の槍は狙いを大きく外れはるか上空へ。


 直撃を避けたとはいえ、日嗣の光弾を魔剣一太刀で防ぎきれるはずもなく、勢いに負けた時雨は大きく吹き飛ばされた。幸い傷は浅い。


「どこを狙っている? 結局お前に出来るのはこれが限界だ。あきらめるんだな。息子が父親に勝とうなど百年早い。いやお前ごときではこの私に勝つのは一生無理だろうな」

「無理だろうな……。無理だよ。俺は勝てない。絶対に勝てないさ」

「ふんっ、ようやく認めたか。それでいい、お前はあくまで私の実験対象の一つなのだ。さあ、愉快に飼いならしてやろう」


 時雨は日嗣の言葉に対し、呆れたように肩をすくめる。


「……勝てないさ。ああ、勝てない。勝てないのは認める。だがな、それは――」



「――俺、一人の場合だ」



 時雨は大きく息を吸い込んだ。そして、


「セルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」


 時雨が叫ぶと同時、時雨たちが先ほどまでいた部屋の窓から一つの影が飛び出した。


 薄い青色の長髪に人間ならば、病気と疑われても仕方ないほどの白い肌。低い身長に、華奢な身体つき。


 時雨が最も会いたかった存在。


 誰よりも、何よりも大切な存在。


 決して失うことの出来ない、失えない存在。

 


 氷の大精霊セルライナ・イリアスがそこにいた。



「なん、だと……?」


 今度は時雨がニヤリ、小さく笑う。


「俺が何の考えもなしに精霊術を使うかよ。初めからあんたなんて狙ってない。すべての狙いはセルルを解放することだ」


 時雨が日嗣に接近して放った氷の槍は元々日嗣を狙っていなかった。


 時雨は初めからセルルを解放すること、セルルの精霊石を縛る黒いベルト、それを破壊することを考えて氷の槍を放っていたのだ。


「ばかな、ここを何処だと思っている? そんなことできるはずがないだろうッ!」


 日嗣の言うとおりだった。ここはホテル七十五階渡り廊下の屋根の上だ。セルルの精霊石が置いてある部屋は百階。二十五回分の距離が存在するのだ。その距離を、狙って精霊石の周りにあるベルトだけを打ちぬくなど不可能に近い。


「不可能、だろうな……普通なら。でもな、俺の胸にはセルルが残してくれた新しい命がある、感じるんだセルルを。声が聞こえるんだッ!」


 時雨は再び走り出す。


 守ることなど気にしない。それは時雨の役目ではない。


 時雨が攻撃をしてセルルが守る、それが二人のコンビネーション。


 二人で一人だから、一人で二人だから、今更お互いがどうするとか、どうしたいとか聞くまでもない。


 上空のセルルは日嗣の動きを止めるべく、氷の槍を大量に一斉掃射。


 ドドドッ! 絶え間ない音を撒き散らしながら、無数の氷の槍が日嗣へ襲いかかる。それは日嗣に一切詠唱のスキを与えない。


「くそッ……! 小癪なまねを……」


 一見するとセルルの打ちだす氷の槍は何の規則性もなく打ち出されているように見える。


 だが、時雨はわかっている。


 どこを通れば氷の槍を避け、日嗣に近づくことが出来るのかを。


 時雨とセルル、この二人だからこそわかること。


 時雨は走る、氷の槍を自然に避けながら。


 時雨はボロボロだった。もう力は残っていない。だが、そんなボロボロの時雨でも使える力が一つだけある。


 人間誰しもが持つ『自分自身』の力。



 何かを守る時、真っ先に握り締める、その拳。



「いいかげんにしろよ。他人の人生をいいように振り回しやがって、たまには地面に這いつくばるのも悪くはないんじゃないかッ! 今まで何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、俺たちの邪魔ばかり……。いいか、良く聞けよ――」


 駆け抜けた先には身動きの取れない日嗣がいた。時雨は強く強く右手の拳を握り、大きく振りかぶった、そして、そのまま本日二度目の日嗣の頬へ。



「――これが俺自身の力だッ!」



 ゴンッ! 鈍い音が殴り付けた拳を伝わり時雨へと響く。


 日嗣は大きく吹き飛び屋根の上を転がる。時雨の強烈な一撃のせいで完全に意識を失い白目をむいている。幅が広いお陰か落下することはなく、屋根の端で止まった。


「はぁはぁ……」


 肩で息をしながら日嗣が立ち上がらないことを願う時雨。幸い、日嗣には立ちあがる力は残されていなかったようだ。


 大きく息を吐きながら、そしてゆっくりと空を見る。その視線の先は言うまでもなく、自分の大切な存在へ。


 しかし、ゆっくり視線を向けていると、まっすぐにセルルが時雨へと突っ込んできた。


 セルルが迫っていることに時雨が気付けなかったせいで二人は激突。お互いの頭に大きなたんこぶを作ってしまった。


「いった~いッ」

「いたたたた」


 自分の頭を軽くさするセルル。しかしすぐにそれも終わった。


「もうッ! 時雨はいつも無茶しすぎだよッ! こんなに怪我して、こんなに無茶してわたしが喜ぶと思ったの!?」


 真剣な表情で時雨を見つめるセルル。それに対し、にっこりと優しい笑顔で時雨は聞き返す。


「……嬉しくなかったか?」

「むッ……そ、そりゃあ、時雨がわたしの、こと、考えてくれるのは、う、嬉しいけどさ……」


 セルルが頬を膨らませて、上目使いで答える。そんなセルルの頭に時雨はそっと手を乗せた。


「ふぅ……本当に良かった。無事で」


 時雨のセリフ、それは心から、心の底から出たものだった。今こうしてセルルの顔を見られることが、セルルの声が聞けることがただただ幸せだった。



「ただいま、時雨」

「おかえり、セルル」



 ふたりはお互いを見つめながら笑った。


 とてもとても優しい笑顔だった。




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