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「安直な連想だけど……バベルの塔を思い出すな」

「あれは、人の傲慢に怒った神が罰として、それ以降、人々がまったく別の言葉をしゃべり、意志の疎通が行えないようにしたんだっけ?

 でもこれは、言語自体が知的種族の自滅を促す毒として作用しているんじゃないか、ってはなしで……」

「だとしても、さ。

 今度は、おれたちがこうして今まで絶滅しないでいる理由がわからなくなる。

 ホモサピエンスと他の人類との相違点は、洗い流してみた?」

「まっさきに。そこらへんは、みんな専門家だからね。

 とはいえ、化石しか残っていない連中については、わかっていることよりもわかっていないことの方が多すぎるくらいなんだけど……」

「例えば……脳の構造とかは?

 今のヒトよりも重い脳を持っていた種族が滅んでいるわけだから、なにか別の要因があるはずだと思うけど……いや、素人考えなんだけどね」

「それ、なんだけどね。

 なにぶん、現在発見されている化石自体が少なく、それを埋め合わせるために架空の霊長類も多くっちゃったから、どうにも正確な要件が洗い出せなくて……」

「……架空の霊長類って……」

「架空とはいっても、全くでたらめというわけでもないんだよ?

 動植物相とか食性とか気候とかを考慮して、このあたりにこんな種が繁殖していてもおかしくはないなーっていうのを入れてみて……」

「それが、全部全滅したの?

 いや、自滅、か……」

「うん、そう。自滅。

 今の人類以外、高度な言語活動がはじまると、遅かれ早かれ、自滅」

「……なんじゃ、そりゃ」

 おれは、青子さんに唐揚げとおすすめの吟醸酒を注文した。

 美作さんも、

「お、ポン酒か。いいな」

 とかいいながら、同じく吟醸酒と鯖の味噌煮を注文する。

「その、他の人類とヒト族との違いってのは、なかったの?」

「類人猿とあんまり違いないのからヒト族よりも脳の容量が多いのまで、よりどりみどり」

「脳の容量と知能の高さは、正比例しないと思うけど」

「そうだな。体重比、といい直すべきか。体格も結構ばらつきがあるしな。

 身長でいえば、一メートル前後から三メートル近くまで」

「……三メートル、って……」

「類人猿で、ゴリラよりも大きいそれぐらいの体格の種族がいた例もある。

 食物に余裕がある豊かな環境だと、そういう人類がいた可能性もなきにしもあらずってことだな」

「とにかく、ばらばらってことね。

 あとは……そうさな。

 脳の、構造は?」

「脳の内部でも部位によって機能が異なっているわけだけど……これも、あくまで一般では、というただし書きがつく。

 事故で脳の一部を破損した人が、一時的な機能障害を抱えた上で、ある日ぱっと正常な状態に戻るような例も多数報告されているし……水頭症で、極端に脳細胞が少ない人が、平然と日常生活を送っていた例もある。

 基本的には、脳はその部位によって特定の機能を担っているが、場合によっては別の部位が本来自分のものではない機能を学習してリカバリーしまうフレキシブルさも、備わえているわけだ。

 つまり、われわれの脳味噌というのは、一般に想像されているよりもずっと融通が利いてどうにでもなるものなんだ。

 だから……頭を抱えている。

 なぜ、われわれ以外の人類は、高度な言語活動というツールを使いこなせずに必ず自滅の道を歩んでしまうのか?」

「だけどそれは……あくまで、シミュレーションの中のはなしだろ?」

「シミュレーションの中のはなし、だけどね。

 現に今の地上にも、われわれ以外の人類は存在していない」

 そのとき、注文していた酒肴と酒がカウンターに置かれたので、おれたちはしばらくそちらに専念することにした。

 揚げたての唐揚げ、おいしいです。

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