4th Choice..

部屋から無事ホールに戻ってこれたのは、俺たち2人を含めて9名。


結局、あの2部屋以外、爆発する部屋はなかったようだ。


4番と9番。


死と苦。

蓋を開ければ、単なる忌み字。


仕掛けた人間の趣味嗜好、悪ふざけ、遊び。


頭にくる。



ホールは、また地下へと下がり、新たな扉が現れる。


扉の先にはまた悪趣味なゲーム。


クリアする毎にさらに地下へ。


闘技場でトラとの対決。


爆弾からのびた赤と青の銅線。


狂犬病の犬を放たれた迷路からの脱出。



奇跡的に俺たちは、全員、無事にクリアする事ができた。

だが、思い返せばこれも仕組まれたこと。


あるフロアでのゲーム。


『勇者のみなさん。今回のゲームでは2チームに分かれてもらいます』


目的は芽生えた仲間意識を切り裂くこと。


『各チームはそれぞれ、この二つの扉から入場してください。中はつながっています』


人生を楽しむ宴。よく言ったもんだ。


『ルールは簡単。相手のチームの半数を殺したほうが勝ち。負けても生き残ればクリアです』


つまり、裏切って仲間を殺してもクリアはできる。

むしろ、手っ取り早い。


『制限時間は1時間。時間切れはもちろん失格』


楽しんでいるのは、きっと俺たちをどこから見ている傍観者。

これは、俺たちの人生を見て楽しむ宴、なのだろう。


『それでは、スタート!』


できるかよ…。


扉をくぐったものの、チームは沈黙。

俺に、サユリさん、不良ジャージに、迷彩マッチョ。


まずは隠れて過ごし、相手チームの自滅を願う。


残り30分。


「なあ、やっぱり、あいつらりにいかねーか?」


しびれを切らしたのは不良ジャージ。


「だめだ。俺は殺したくない」


「だよな。そう言うと思ったよ。お前、正義感だけは強いもんな」


不良ジャージは立ち上がり、ピコピコハンマーを回転させながら投げ、キャッチしては投げを繰り返す。


「そうゆーとこ、嫌いじゃないぜ」


…。


「でもな…」


!?


「俺の正義感はそこまで強くねぇ」


ハンマーを振りかぶり、俺めがけて振り下ろす。

ハンマーが地面を叩く。


『バンッ』


破裂音。


「おい、迷彩、お前はどうなんだ?」


「俺は…」


動かない、迷彩。

迷っている、といった素振り。


「チッ」


ジャージは、舌打ちをすると、2撃目、3撃目を繰り出す。


サユリさんがマシンガンを構える。


「お前ら、イチャイチャしやがって。気にくわねーんだよ」


ハンマーの標的は、俺ばかりじゃなく、サユリさんにも向く。


「サユリさん、ダメだ!殺しちゃいけない」


ジャージは、キッと俺を睨む。


「おい、てめぇ。なにもできねーくせに、女に守ってもらってばっかりでよ…。えらそーに。死ねやこの野郎」


『ダンッ』


銃声。

サユリさん…ではない。


この音は、ショットガン。

敵チームにいた、黒パーカーの少年。


不良ジャージは、散弾に当たり、地に伏せる。


投げ出されたピコピコハンマー。


「いいもんゲット♪」


黒パーカーがハンマーを手に取る。


「おい…おまえ…」


「何?」


「なんで殺した」


「なんでって、助かったでしょ?」


「誰が助けろって言った」


「はぁ?なんであんたに言われて助けなきゃいけないの?あいつ撃ったのは俺の気分だよ」


「気分…だと?」


「そう。君たちのうち2人を殺せばこのゲームはクリア。別に誰でもよかったんだけどね。アイツ、声でかくてうるさかったから」


「おまえ…」


「さ、もう1人は君たちで殺してよ。弾もったいないからさ」


「何を…」


「何をって、迷彩のお兄さんは分かってるみたいよ?」


迷彩がベレッタの銃口を俺に向けている。


「お、おい。ちょっとまてよ。冷静に」


「俺は冷静だ。今、一番犠牲を最小限にしてクリアするには、お前か、この女を殺すことだ。女を殺すのは気分がよくない。消去法でお前だ」


消去法。


“仕方なく”俺を殺す。


自己の選択を強引に正当化しやがった。


まずい…。


「ほらほら、お兄さん、死んじゃうよ?って、あ、丸腰か。これあげる」


黒パーカーが、ハンマーを投げよこす。

反射的に…キャッチ。

迷彩が3歩、後退り、目を光らせる。


『ブブブ…』


震えるスマホ。


≪撃たれるぞ。殺せ≫


…これが、3分後の俺の選択。

撃たれるのは嫌だから、仕方なく…殺す。


消去法による正当化。


俺はハンマーを構え、姿勢を低くする。


いくぞ…!


『ダンッ、ダンッ』


銃声。


かいくぐり突進する俺。


足にハンマーを当てる。


『パンッ』


足がはじけ飛ぶ。


「ぎゃッ…くそっ」


倒れた上半身が再び俺に銃口を向ける。


『タタタン』


マシンガン。


動かなくなった迷彩。

表情を変えずに見つめるサユリさん。


傍観者たちは、壊れていく俺たちの人生を見て、楽しんでいる。




“撃たれるぞ。殺せ”


傍観者たちへの怒りを押し殺し、送信ボタンを押した。

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