第2話

準備ができると、俺は家を出る。

別に行くあてなどありはしない。

気ままに電車に飛び乗る。

春の穏やかな日曜日とあって、車内は家族連れやカップルで賑わっている。

俺はドアにもたれかかって窓の外を眺めながら、行き先を考える。

結局、一番手軽な新宿にする。

そう決めると、一人でいるのがなんだかつまらなくなって来る。

そこで新宿に着くと、すぐ電話ボックスに飛び込む。

かける先は決まっている。

俺は暗記しているあいつの家の電話番号を回す。

5回のコールであいつが受話器の向こうに現れる。

こんなときだけ、すぐに電話に出られる狭いアパートがうれしくなる。


「俺だけどさ、今日、空いてるか?」

「うん、大丈夫だよ。」

「今、新宿なんだ。出て来いよ。」

「いいよ。」

「じゃ、1時間で来いよ。」

「えー、無理だよ。1時間半。」

「わかった、いつもの所で待ってるから。」

「うん、じゃね。」


俺は待ち合わせまでの時間つぶしに、歌舞伎町のいつものゲームセンターに入る。

ちょっと前まで、さまざまなゲームマシンが所狭しと並び、活気に溢れていたここも、今ではTVゲームばかりになり、みんな黙々とゲームに向かっている。

なんとも味気無い限りだ。

一人でギャラクシアンをやっている女の子がいる。

なかなかうまい。

クレージュのお弁当箱みたいなバッグを持ち、シップスのトレーナーにミハマのぺちゃんこ靴、丸いボンボンのついたハイソックスという、ハマトラの基本的ワードローブだ。

ちょっとコケティッシュな子だ。

年の頃なら16・7ってところか。

俺は図々しく空いている正面の席に腰を下ろす。

女の子は無関心を装ってゲームを続けている。

ビーム砲が全滅すると、俺は話しかける。

うまいね、俺に教えてくれよ。

それから二人で3ゲームほどやり、そこを出る。

三越の横のマックでハンバーガーとコーラをおごって、歩行者天国の真ん中に置かれた、パラソルの付いたテーブルで食べる。

とりとめもない話をしながら。


やがて時間になる。

俺はTVゲームのうまいハマトラの女の子に別れを告げる。

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