ビルの狭間より ー 1979年4月 -

sirius2014

第1話

カーテンの隙間から朝日が漏れる。

午前9時。

タイマーのスイッチが入り、スティーヴ・ギブの“tell me that you love me”と共に俺は目覚める。

ベッドの前のクリスタルテーブルの上には、ジャック・ダニエルのボトルと空のグラス。

昨夜寝酒に飲んだまま。

枕元には、やはり昨夜眠りがやって来るまで読んでいたブローディガンの“愛の行方”。

(最近俺は、アメリカの現代文学に凝っているんだ。ブローディガン、サリンジャー、トルーマン・カポーティ、レイ・ブラッドベリ、ポール・ギャリコ・・・)


2曲目はルパート・ホルムズ。

俺はベッドから半身起こして、ミスター・スリムのメンソールに火を点ける。

メンソールの香りが頭の隅々まで沁み通り、俺の目を覚まさせる。

2曲目が終わる頃、俺はミスター・スリムを枕元のコーラの空缶に落とす。

3分の1ほど残したコーラに火が落ちて、ジュッという音が聞こえる。

俺は3曲目の吉田美奈子の“夢で逢えたら”と共にベッドを抜け出す。

そして、辺りに散らばった、脱ぎ捨てた服や、読み古しの“ぴあ”や“ポパイ”をよけて歩きながら、シャワーを浴びに行く。


シャワーを浴びた俺は、バスタオルを腰に巻き付けたまま朝食の準備にかかる。

まず、牛乳を1ℓのパックごと口に運びながら、サイフォンに火を入れる。

豆はマンデリン。

マーマレードをたっぷり乗せたフレンチトーストを1枚焼き上げ、続いてベーコンをフライパンの上に3枚敷き、卵を3つ落とす。

(俺はいつもこんな調子で卵を使うから、いくつあってもすぐになくなってしまう。)


その頃にはコーヒーが良い香りをまき散らしながら出来上がる。

コーヒーはうんと熱いやつをミルクを入れないで飲むんだ。

デザートには、コップに活けてあったセロリの束から、1本むしり取ってそのままマヨネーズをつけて齧る。


朝食を終えると、出かける準備だ。

まず棚からコロンを選ぶ。

こんな春の日には、タクティクスやスカイトレイルよりもオールドスパイスだ。

俺は棚からフレッシュライムのコロンを抜き取り、体にたっぷり振りかける。

そして銀のネックチェーンを巻き、服を選びにかかる。

黒のクロシェ・ドゥ・オールのパンツを穿き、シャツはニコルの白のラウンド・カラー。

その上にイェーガーのセーターを被る。

ソックスはカシミアのアーガイル。

靴はラルフ・ローレン。

鏡を見て確認する。

よし、OK!

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