第6話 At different times.


 夕食の後、もう寝てしまったケイティの目を盗んで僕は家を出た。日は落ちていたが、僕は魔法を使い、光を放つ。

 鞄からあの本を取り出し、ペラペラめくり目を瞑る。

『ノウェム・アウローラ』

九番目の女神よ、我に光を。

 小さなランタンに移し替えると、その光はますます強くなった。僕は地面を照らしながら歩き出す。

 この家は小さな丘の上にあり、下の街までは少し歩く。幾ばくか時間をかけて露店の道が見えた時には、辺りは薄ぼんやりと明るくなっていた。少し待とう、そう思ってとりあえず街をぶらぶらする。路地裏やまだ起きない街を歩くのはなんだか楽しい。街をぐるりと回って、ふらふらと歩いていると、あの家を教えてくれた店主の店の前に立っていた。まだ開店準備の中、店主は忙しそうに動き回る。

 僕は邪魔しないようにそっと後にしようとした。だが、店主は気前よくこう声をかけた。

「おぉ! 兄ちゃん! お店は見つかったかい?」

 ビクッと怖気づいてしまい、僕は一瞬他人のふりをしようかと迷った。だが、思い直す。声をかけられて無視するのは当然のことながら失礼だ。

「おはようございます。今日も良い日ですね。見つかりましたよ。ありがとうございます」

 にっこりと笑って会釈する。

 おじさんは野菜の箱を開けては出す、を繰り返している。忙しそうだ。手伝おうかと思った時、ふとこの人はよく僕を覚えていたなと思った。店に訪れる人なんて多くて数え切れない。それを一人一人覚えているとは到底思えなかった。

 だって、僕がここで道を聞いたのはもうも前のことなのに。

「よく僕を覚えていましたね。僕がここを訪れたのはもう一ヶ月も……」

 僕が言いかけるとおじさんは目をパチクリさせ、こう言った。

「何言ってるんだい」

 今度は僕が目をパチクリさせる。

「お前さんがここに来たのはの夕方だろう? 覚えているに決まってるじゃないか」

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