第4話 But I know,I don't belive it.


 妖精は不器用だった。

 ずっと一人で過ごしてきたはずなのに、何一つ出来ることがないと言い切れるぐらい酷い有様だ。

「うわぁ」

 僕はあまりの酷さに顔をしかめた。

 キッチンは埃だらけ。フライパンは黒焦げ。包丁は白い液体で濡れている。生ゴミ捨てからは悪臭が放たれ、ハエがたかり虫が湧く。

「僕、帰ります」

「わぁーっ! 待って! 待ってよ!」

 僕が出ようとするとキッチンのドアが閉じられた。

「これを片付けろと? 僕に? 客である僕に?」

「分かったわよぉ……」

 渋った声の後に、辺りがキラリと光った。僕が目を瞑り開けるとキッチンは真っ白に輝いていた。

「初めからそうしてくれ」

「てへ。面倒で」

 姿が視えないのが残念だった。

視えていたら殴っていたのに。

 家の中は綺麗なのに、キッチンだけは荒れていた。理由を聞くとキッチンは御主人様のテリトリーで、居なくなる前は入ったことがなかったらしい。

 御主人はいつからいないのだろう。ケイティの言い分じゃ御主人に何が起こったのか分かりかねる。

 他に気になることもあった。

「ケイティ」

 僕が呼ぶと彼女の声が近づいてきた。

「ここってパンは売ってないの?」

「……パン? 御主人は売っていたけど、居なくなってからは売ってないよ」

 なら、店主の話はなんだったんだろう。

「御主人はいつからいないんだ?」

「ずっーと昔。数えるのも飽きてしまった」

 イマイチ確信が持てないが、一つだけ分かることがあった。

 ケイティの御主人は随分と前に居なくなったということ。

 これが何を意味するのか、魔法使いの僕には分かった。数百年名乗る機会がなかった。つまりその真意を。

「もしかしたら君の御主人はもう」

 言いかけてやめた。

 僕がこう考える前に、彼女はもう気づいているはずだから。

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