第2話 The secret of the wizard.


 煉瓦造りの町並みはとても綺麗だ。

 僕が生まれた国もそれは、それは、綺麗な街で、僕は大好きだった。

「お兄ちゃん! まほーつかいのお兄ちゃん!」

 子供が一人駆け寄ってきた。さっきまでいた家の子だ。病気のお母さんと二人暮らしの貧しい家の子。

「なんだい? 用事は済んだはずだけど」

「これ!」

 渡されたのは蘭の花。男の子はニッコリと笑顔で、僕の前に突き出している。

「なんだいこれ」

「お礼! 母ちゃんの病気を治してくれたから!」

 僕はお礼を一つ言って受け取った。

 少し萎れていたのは男の子がずっと握っていたからだろう。

「少し待っていてね」

 僕は古びた本を開き、あるページを開いて目を瞑る。

『ドゥオ・エーゲリア』

二番目の女神よ、我に水を。

「ほら。お花さんも元気になったよ」

 男の子に手渡した蘭の花は、みずみずしくしゃんと立っていた。

「……本物だ! 本物のまほーつかいさんだ!」

「うん。僕は魔法使い。でもね? 誰にも言わないこと。僕たちの秘密」

「どうして?」

 男の子は澄んだ瞳で見つめている。

 僕は子供にしか自分の正体を言わないと心に決めていた。だからここでもこの子にしか言っておらず、病気だったこの子の母親にも伝えてはいなかった。

 それには信念があるのだが、幼い子にそんなことを説明しても分からない。

「僕は追いかけられたくないんだよ。こっそりこっそり旅をしたいんだ。自由が大好きなんだ」

 そう言いながらくるりと手を回し、するとポンっと花束が飛び出した。男の子が持っている蘭の花を加えると小さなブーケになる。

「お母さんにおやり。僕に花は必要がないが、お母さんは喜んでくれるよ」

 男の子の頭を撫でると僕はコートを翻した。カツカツと革靴の音を響かせて、また次の町へ行く。

こうして僕は旅をする。

田舎町からしばらく歩いて半日が経った頃。そこには沢山の家が立ち並ぶ露店が広がっていた。

 子供は見当たらない。

 教会では黒い服の子供達がいて、そこで机に向かって何かをしている。

一生懸命な顔も怠そうに薄ら目の子も多種多様。

「珍しいな」

 あの田舎町の子供とは打って変わってここの子供達は勉学をしに教会に通っているようだった。

「お兄ちゃん! ちょっと買ってかない?」

「すみません。ここらで〝魔法使い〟を見ませんでしたか? どんなに些細なことでもいいんですけど」

 声をかけられ僕は問う。すると店の店主は景気の良さそうな表情から一転。露骨に嫌そうな顔をした。

「兄ちゃんもしかして」

「あ、いいんです。僕は決して異端審問の連中じゃありませんから」

 店の店主がこそこそ話すのが聞こえた。

 ここは情報がもらえそうにない。そう思い商店街を突き抜けた。狭い地域で何人かに聞いたら目立つので、少し離れたところでまた尋ねた。

 今度は質問を少し変える。

「すみません。ここらで薬を売っている人はいませんか?」

「あぁ、それならそこの角の店だよ。少し丘の上にあるんだが可愛い店主のいるパン屋さんでね。確か薬も売っていると聞いた」

 パン屋。可愛い、ということは女性なのだろうか。

「ありがとうございます」

 丁寧にお辞儀をして店を後にする。

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