第8話

第七章


 ニューヨークは紅葉の季節を迎えていた。ある日ジェニーから電話が入り、一緒に紅葉見物に行こうということだった。その日シュンタローは休日だった。約束の時間にアパートの前にジェニーが運転するセダンが停まった。

「行き先はセバーゴ湖よ。真紅やイェローの紅葉がとってもきれいらしいわ。辺りは公園になっているって」

 ジェニーは運転しながらシュンタローに話し掛けた。

「それはどのあたり?」

「マンハッタンからブロンクスを越えてハドソン・リバー沿いに北上すると、タッパンジーという大きな橋が架かっているの。その橋を越えて、ロックランド・カウンティに入ってしばらく行ったところよ。そこから北東に行くと、有名なウェスト・ポイントがあるわ」

「まだニューヨークに来て日が浅いのによくそんなところを知っているね」

「スーパーの同僚に聞いたのよ」

「ウェスト・ポイントは陸軍士官学校だったっけ?」

「そうよ。フロリダにも卒業生の知り合いがいるわ。アイゼンハワーやマッカーサーも卒業生よ」

 セダンはマンハッタンの六番街、アベニュー・オブ・ディ・アメリカスを北に進んでいた。


 ユキオはその日非番でナオミとデートの約束があったが、ナオミに急用ができたため、空いた時間をどう過ごしたものかと、その日のためにレンタルしたランドクルーザーの中で思案していた。一人でつまらないけど何処かドライブにでも行くか。そう思い、アベニュー・オブ・ディ・アメリカス五十一丁目にあるタイム・ライフビルの前で車を発進しようとした時だった。後ろからセダンが近付いて来た。やり過ごそうと待っていると、運転する女性の隣に見覚えのある顔があった。

「あっ、小暮さんだ。あの女性は一体誰だろう。亡くなった恋人の後釜をもう見つけたんだろうか」

 ユキオはセダンの後に続いた。ちょうど暇を持て余していたところだ。少し悪趣味だけど、小暮さんが一体女性と何処に行くのか、後をついて行ってやろう。

 ユキオはセダンを追って行った。タッパンジー・ブリッジを渡り、インターステート287号線に入った。走る車の台数はマンハッタンよりぐんと減った。ユキオは車間距離を空けたまま後に続いた。セダンは87号線に入って行った。辺りには紅葉の林が姿を見せ始めた。

「いや本当に美しい。真紅とイェローの競演だな。日本の紅葉より色が濃くって、はっきりとしている」

 セダンは青空の下に広がる紅葉の森の中に入って行った。やがて公園の入り口に着いた。二人は車を降りて、湖の方に歩いて行った。ユキオもセダンの近くに車を停め、気付かれないように後を追った。低い山並みを背景に、湖がひっそりとその姿を現わした。

「すてきなところだわ」

 ジェニーが湖に向って背伸びした。シュンタローは湖を泳ぐ水鳥の姿を見つめていた。ユキオは休憩所の椅子に腰掛けて、二人の様子を眼で追っていた。

「もう少し歩きましょうよ」

 ジェニーが言った。

「この奥にまだ小道でもあるのかい? 林が鬱蒼と茂っているだけのようだよ」

「大丈夫よ。さ、行きましょう」

 シュンタローはジェニーの後に続いた。紅葉のトンネルを抜けると、小さな池があった。水鳥が巣で羽を休めていた。

「この池は湖と繋がっているんだろうか」

 シュンタローが湖の方角を振り向いた時だった。

「お久しぶりね」

 背後で声がした。振り返るとサングラスを掛けた女を挟んで、同じくサングラスを掛けた黒ずくめの男が二人立っていた。女がゆっくりとサングラスをはずした。シュンタローは眼を疑った。

「リサ! お前生きていたのか。どうして!」

それは紛れもなくWTCで亡くなったはずのリサだった。

「ジェニーとのデートの邪魔をしちゃったわね。ごめんなさい」

 ジェニーが三人の横に並び、シュンタローに不敵な笑いを向けた。

「一体これはどういうことだ! 説明してくれ!」

 シュンタローが叫んだ。

「全てをお話することは出来ないけど、どうせ間もなくあんたは死ぬことになっているから、少しだけ教えてあげる」

 二人の男が左脇に抱えたホルスターから拳銃を抜いた。

「シュンタロー、あんたはなかなか鋭い感性を持っているわ。誉めてあげる。アパートで国吉の名前が出た時、ほんのわずかな眼の動きで、わたしが国吉を知っていることを見破ったわね。まだまだわたしは修行が足りない。組織の人間として失格だわ」

 リサが微笑みながら言った。

「組織? お前はテロリストなのか? やっぱり国吉を知っていたんだな」

「ええ、でも恋人じゃないわよ。任務遂行中にあんたの口からずばり国吉の名前が出て、はっとしたわけ。組織を裏切り、暗殺指令が出ている男の名前を聞いてね」

「国吉の暗殺指令だって?」

「わたしの任務はあんたをマークすることだったから、虚をつかれた感じだった」

「何故俺を? 国吉の知り合いだったからか? 国吉が俺とコンタクトを取ろうとするとでも思い、見張っていたとでも言うのか?」

「まあ、ゆっくりと話してあげるから、焦らずに聞いてよ」

「お前はあの日WTCのレストランでウェイトレスとして現れた時から、俺をマークしていたということだな」

「その通りよ。苦労しなくても、あんたから飛びついてくれた。やはり男を虜(とりこ)にする美貌って女の武器よね。わたしを美しく産んでくれた母親に感謝するわ。でも正確に言うと、商社にいた頃から既にあんたはマークされていた。同じ組織にいる別の人間の手でね」

「どういうことだ」

「あんたが今隠し持っているものを奪い取るためよ」

「狙いは特殊半導体のデータが入ったフロッピィ・ディスクだったのか! どうして俺がそれを持っているとわかった?」

「あれはあんたのペット・プロジェクトだった。プロジェクトの責任者として全力を傾けていた。それを一方的に凍結されたら誰だって頭に来るわ。あの時あんたは商社を辞めた。今までの商社のやり方に対する反発が、あのことで一気に噴出したはずよ。そういう場合、恐らくプロジェクト関連のデータはコピーして手元に持っておきたいと思うのが心理じゃない? どうせ商社とは全く関係のない人間になったんだからね。死んだ赤ん坊を母親がいつまでも持ち歩く小説があったわね。そんな感じかもしれない。もっとも、あんたが持っているものは、これからいくらでも生き返り、売れば莫大な金を生み出すものだから、その点全く別物だけどね」

「俺の心理まで読んだつもりというわけか」

「日本に潜入した組織のエージェントがあんたの同僚から色々と話を引き出したのよ。金沢のこともそのエージェントから仕入れた作り話よ。わたしが日本に行ったことにするためのね。日本人はガイジンに弱いから、親しくなるとペラペラあんたの商社での内情をしゃべってくれたそうよ。今言ったのはそれを踏まえた推論なの。勿論それはあくまで推論でしかない。しかし、推論通りにあんたがデータを持っている可能性は充分にある。少しでも可能性のあることならトライする価値はあるわ。特に今度のようなトップ級の出物はね」

「それで覗き見カメラや盗聴器を仕掛けたり、部屋の中を物色したりしたんだな。実行部隊は両脇にいるお二人さんというわけか。電話会社の人間に化けてな」

 男らは微動だにしなかった。

「特殊半導体が生み出すスーパー・レーザーのハイテク兵器はこれからの謀略戦に是非必要なの。最新鋭のコンピュータ製造にも他の追随を許さないほどの威力を発揮するらしいから、鬼に金棒の半導体よね。コンピュータ企業もいくらでも金を出すわ。さあ、万能フロッピーの在り処を言うのよ!」

「俺の大事なものは全てWTCにある銀行のセーフティ・ボックスに預けていた。もっとも崩壊して、跡形もなく消え失せたけどね」

「そんなことを信じると思っているの? どんなことをしても吐かせるわよ」

 男らが銃口をシュンタローに向けた

「ちょっと待て。国吉の娘さんはどうなったんだ」

「娘の話をあんたから聞かされて、国吉は飛んで火に入る夏の虫だと直感した。組織の本部に緊急連絡を入れたら、国吉暗殺に専従せよという指令が下った。わたしの代わりにジェニーがあんたの元に送られた。その入れ替わりをカムフラージュしたのが、WTCの破壊工作だった。わたしは死んだことになったんだもの。あんたの情報を受けて、WTCの勤務先から娘を拉致し、国吉を誘い出そうとした。国吉はWTCの破壊工作から娘の命を救おうとしている。大事な娘を誘拐してあいつを脅せば、娘の身の安全と引き換えに自分が犠牲になろうとするだろう。しかしそう思ったわたしが甘過ぎた。国吉は娘より自分の命の方を優先した。その辺国吉はやはり組織の人間だった。さすが冷酷な男よ」

「それで娘をどうした」

「まだ組織の手にあるわ。今後また何かに利用できるかも知れないから。いずれにしても娘の命運は組織が握っている。わたしからは手が離れたってわけ」

「国吉はまだ生きているんだな?」

「組織が必死で追っているから、あいつの命はもう時間の問題よ」

「冥土の土産に聞かせてくれ。奴はどんな裏切り行為をしたんだ」

「あいつは組織から独立して別組織のイスラーム過激派、ヒラムという男と共同戦線を張ろうとした。ヒラムはGターミナル爆破でFBIに指名手配されているわ。一度組織に入れば死ぬまで同じ組織の人間であり続けるのがこの世界の鉄則よ。分派行動なんて許されない。裏情報を一杯握っている人間が寝返るほど組織にとって恐ろしいことはない。そんな人間の選択肢はないわ。処刑されるだけよ。あんたにWTCの極秘工作について直接は話さなかったけど、娘を救出するという全く個人的な目的で、極秘のWTC工作のヒントを部外者に与える恐れがあっただけで死に値するわ。組織が握っている極秘情報を外部に漏らす危険を冒してでも、娘を助けようとするなんてことは、紛れもなく組織に対する裏切り行為よ」

「WTCの事件にお前の組織は関わっているのか?」

「そこら辺はご想像にお任せするわ。さあ、さっさとフロッピィの在り処をお言い!」

 男らが銃口を向けたままシュンタローに向って歩を進めた。

「俺を殺せばデータは永遠の謎になるぞ。殺れるものなら殺ってみろ!」

「奴を捕まえて! 車に乗せるのよ」

 二人の男は銃口を向けながら、にじり寄ってきた。

「ドキューン」

 背後から突然銃声がした。水鳥が一斉に飛び立った。

「小暮さん、逃げて!」若い男が叫んだ。

 シュンタローは男らがひるんだ隙に、猛然と湖の方へ走り出した。

「キューン。キューン」

 援護射撃の銃声が鳴り響いた。

「殺さないで! 捕まえるのよ!」

 リサは叫びながら、男と共にシュンタローを追った。シュンタローは必死に駐車場を目指して走った。ジェニーが両手で拳銃を構え、シュンタローの足に狙いを定めて何発も発射した。シュンタローの足元に弾の掠めた砂塵が舞い上がった。ユキオは屈みながらジェニーに向けて銃を撃ち、駐車場に走った。

「ユキオ君! どうしてここに」

 突然現れたユキオの姿にシュンタローは驚いていた。

「小暮さん、急いで! ランドクルーザーに乗って!」

 ユキオは弾を避けながら、運転席に飛び乗り、エンジンを掛けて急発進した。助手席のシュンタローは危うく後ろにつんのめりそうになった。

 ランドクルーザーは猛烈なスピードで、公園を離れた。その後をリサと男二人が乗り込んだ大型ワゴンとジェニーが運転するセダンが追いかけて来た。

 ユキオは歯を食い縛りながらアクセルを強く踏み、スピードを上げた。ワゴンも猛スピードで追いついて来た。銃弾が飛んで来た。いくつものカーブを反対車線に割り込みながら走り抜けた。車が来れば、正面衝突する恐れがあった。幸い車は来ない。しかし、ワゴンはどんどん追い上げて来た。

 林の中にパトカーが潜んでいた。三台の車が猛スピードで疾走するのを発見し、パトカーはサイレンを鳴らして後を追って来た。ワゴンとセダンも追われる立場になった。パトカーは緊急無線を入れ、近くにいるパトカーを呼び出した。ランドクルーザーが急カーブを曲がろうとした時、呼び出されたパトカーの姿が反対車線に見えた。

「あぶない!」

 ユキオは危うく接触しそうになりながら、パトカーを辛くも避けた。しかし、そのパトカーがスピードを緩め、反対車線に折り返そうとした時、猛スピードのワゴンがパトカーに側面から激突し、大破した。ワゴンは火を噴き、パトカーは弾き飛ばされて道端の林に突っ込んで行った。セダンは急ブレーキを踏んだが、間に合わず、燃え盛るワゴンに激突した。後を追っていたパトカーは急ブレーキを踏み、辛うじて停まった。

 ユキオは後ろで大音響がして炎が上がったのをバックミラーで見たが、そのままスピードを落とさず道路を走り抜けて行った。



 その夜、シュンタローはユキオと一緒にアパートに居た。ラジオが事故のニュースを繰り返し報じていた。


今日午後二時半頃、ニューヨーク州ロックランド・カウンティの州道で、スピード違反取締りのパトロールカーに追われていたワゴン車が、応援のため現場に向っていたパトロールカーに激突しワゴン車が炎上。またワゴン車に、後続のセダンが玉突き衝突して炎上し、二台の車に乗っていた四名が死亡、警官一人が意識不明の重体になる事故がありました。四名の遺体は損傷が激しいため、いまのところ身元や性別など詳しいことはわかっていません。現場は見通しの悪い急カーブの近くで、警察によりますと猛スピードを出していた車は三台で、このうち先頭を走っていたランドクルーザーはそのまま287号線方面に逃走したということです。警察ではひき続き非常線を張り、ランドクルーザーの行方を追っています。


「リサは、今度は本当に死んじゃったな」

 シュンタローが言った。

「それにしても、ユキオ君があんな大胆なことをするなんて思ってもみなかったよ」

「いや、ぼく自身も信じられません。まだ体の震えが止まりませんよ」

 ユキオが興奮して言った。

「君は銃の撃ち方を練習していると言ったけど、拳銃は秘密の場所に隠していると言っていたんじゃなかったかい? よく持っていたね」

「いつも出歩く時はホルスターに入れて隠し持っているんです。この大都会はいつ何があるかわかったもんじゃないですから」

「もう少しで連中に拉致されるところだった。本当に助かったよ。サンクス!」

「ぼくはリサが組織の人間だったと聞いて驚いているんです。映画なんかにはよく出て来ますが、まさか現実に出会うとはね」

「俺は完全に騙されていた。はめられるというのはこのことだ。しかし、国吉の娘さんがリサに誘拐される原因を作ってしまったのはこの俺だ。娘さんに申し訳ない」

「だって、そんなことになるなんて誰も思わないじゃないですか。余り自分を責めない方がいいですよ。ところで国吉と言う人は組織に追われているということですが、今どうしているんでしょうね」

 シュンタローの脳裏に黒人のボディガードを引き連れ、組織から逃げ回っている国吉の姿が浮かんだ。

生まれた時から恐らく一度も会っていない娘を危機から救おうと、父親らしい顔を見せたかと思うと、組織に娘を誘拐されて自分の命が危険に晒されると思った途端、娘を顧みることなく非情なテロリストの顔を見せる。

大学当時、過激派学生のリーダーとして革命を訴える姿。その裏に潜んでいた女たらしの実態。国吉の色んな顔が浮かんでは消えた。

「ユキオ君、このアパートにいるのは危険だ。いつ組織に襲われるかも知れん。当分の間、身を隠して暮さなくては」

「一体どうするつもりなんですか」

「ホテルを転々とするしかない」

「ぼくのアパートに来ますか?」

「そんなことは出来ない。君にも危険が及ぶ」

「そうですか」

 ユキオは困惑の表情を見せた。

「俺は荷物をまとめる。夜のうちにここを一緒に出よう」

 シュンタローは急いで準備にかかった。

 ドアのキーを閉めてガードマンに預け、シュンタローはユキオとアパートを出た。真っ暗な通りに出ると、何処かから襲われそうな恐怖感がシュンタローの胸をよぎった。

 大通りでイェロー・キャブを拾い、ユキオをアパート近くで降ろした。独りでホテルに向う車中で、シュンタローは昼間アパートに戻った時にセキュリティ・デスクに座っていた若いガードマンから受け取ったホテルの封筒を思い出した。それは北村の父親、光太郎からのものだった。父親は帰国したはずだ。一体何だろう。シュンタローは上着のポケットから封筒に入った便箋を取り出し、車内の仄かな明かりの中でそれを読んだ。


小暮様。ご無沙汰しております。先日は亡くなった息子のことで色々と気配りを頂き、有難うございました。さて早速ですが、私どもは息子の遺体を引き取って帰国し、葬儀を滞りなく済ませました。息子は北村家の墓に入り、その後供養の日毎に妻の加寿子と一緒に参っております。

しかし、わたしはどうしても一度国吉に会って、今回のことに至った遠因を作った男に対し、一言言ってやりたい気持ちが抑えられません。

無駄足になることを承知の上で、わたしは今回妻を日本に残し、またニューヨークにやって参りました。

今日不躾ながら日本人会で教えていただいた大兄の住所をお訪ねしたところお留守でしたので、このメッセージをセキュリティの方にお渡しして置きますので、お帰りになられましたらお読み下さい。

小生は現役時代、アメリカ警察の業務視察のためニューヨークに来たことがあります。視察先はニューヨークとシカゴで、各市警の方にお会いし色々と教わりました。そのうちニューヨーク市警では、当時広報部担当のシスコ警部という方と知り合いになりました。シスコさんは、今は市警を退職され、探偵事務所にお勤めですが、時折手紙を交換する間柄です。今回息子の訃報に接した折、隙間を見つけて約二十年ぶりに再会しました。今回も会うことになっております。

話は脱線しましたが、この機会に是非もう一度大兄にもお会いしたく、お時間を頂けましたら幸いと念願しております。小生はマンハッタンのセブンス・アベニュー五十五丁目にあるWホテルに投宿しております。ホテルのパンフレットを同封して置きますので、お暇な折にでもご連絡願えませんでしょうか。よろしくお願いいたします。

                               北村光太郎

 

 あの父親はよほど悔しい思いを抱いているようだ。今日は昼間の緊張のせいでどっと疲れた。明日にでも父親と会おう。

シュンタローは行き先を変更しWホテルに向かった。ホテルはシングルの部屋が空いていた。  

 直ぐにチェックインしエレベータを待った。エレベータに乗り込み、ドアが閉まろうとした時、男が声を上げ、エレベータに走り込んで来た。一瞬身が縮む思いをしながらも、指で「開」のボタンを押し、ドアをホールドした。その男がもし組織の人間だとしたら。そんな思いが脳裏を掠めた。

 飛び込んできたのは、黒ぶちの眼鏡をかけた背広姿の白人の男だった。男は礼を言い、後ろに立った。後ろから襲われたらどうなる。背後を気にしながら男が早く降りてくれることを願った。男性は先に六階で降りて行った。

 十階で降りたシュンタローは自分の部屋の前まで行き、辺りを見渡しながら急いで部屋に入った。直ぐに灯りをつけ、部屋の中の様子を確認してから内側のドア・キーを閉め、鎖鍵をかけてから服のままベッドに倒れ込み、そのまま眠り込んでしまった。

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