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 人間がなんで希望を持てるか知ってるかい? 先の事は分からないからだよ。だから夢だの未来だの希望だの、都合のいいだけの綺麗事を平気で並べていられるんだ。白い画用紙にお城を描いてお姫様になれると信じてる、頭の中がまっさらな無邪気で幼い子供のように。




 僕は君を取り戻すために医学部に入る事にした。受験勉強はとても難しくて、とても辛くて、何度も何度も何度も心が折れそうになったけど、でも、君のためだからって、君をたすけるためだからって、僕は全部を投げ捨てて一生懸命頑張った。それでも、最初の年は失敗して、次の年も失敗して、次の年も次の年も次の年も次の年も失敗してしまったんだけど、でも、君のためだからって、君に逢えない方がずっとずっと辛いって、一生懸命勉強して、なんとか三流の医学部に合格する事が出来たんだ。もちろん、医者の資格を取るのだって、受験勉強以上に辛くて厳しくて難しい事だったけど、でも、君のためだからって、一生懸命頑張って、僕は十年以上も掛かってやっと、君のクローンを作るための研究に携わる事が出来たんだ。もちろん、クローンで君を作ったって、それは僕の友達の一つ年下の君じゃない、赤ん坊の君だけど、それでも君に逢えるなら赤ん坊だって構わない、そんな風に思っていた。


 でも、研究所に入ってすぐに、僕は僕の考えが上手くいかない事を知らされた。僕も知らなかった事だけど、猫や羊で行われているクローン技術は細胞のDNAを複製して植えるだけのものであって、DNA以外の部分は別の個体を使うから、完全に完璧なクローンを作る事は出来ないらしい。例えば猫なら毛の色や性格がまるで違ったものになるし、その他の動物でもそれぞれ違う個体になる。人間のクローンは法律上禁止されているから前例は一つもないけれど、そのままの君が出来るより、君と似ても似つかぬ君が出来る可能性の方が高かった。泣いたよ。僕に君はすくえないって、僕は君に二度と逢えないんだって。でも、君が死んだ程度で諦められなかった僕が、そんな事程度で諦められるはずもなかったよね。何より君のためだもの。他に方法があるはずだって、一生懸命考えたよ。


 そうだ、一回で完璧な君を作る事が出来ないなら、不完全な君をいっぱい作って、そこから君によく似た部分を切り取って繋ぎ合わせたらどうだろう。もちろん、二回や三回じゃ無理だろうけど、四回でも五回でも六回でも七回でも八回でも九回でも何回でも繰り返していけば、いつかは完全完璧な君に近付けていけるんじゃないだろうか。僕はやってみようと思ったんだ。何より我慢が出来なかった。他の方法なんて考えている時間が惜しいぐらい、僕はすぐにでも、すぐにでも、どうしても君に逢いたかった。


 僕は君を作る素として、豚を材料にする事に決めた。人間を移植出来る大きさまで育てるのは時間が掛かるし、猿やチンパンジーやゴリラやオランウータンは飼育するのが大変だ。豚なら、人間に大きさも似ているし、飼いやすいし、加工しやすいし、処分もしやすい。だから、僕は豚の卵子をたくさん用意して、そこに君の皮膚から取ったDNAを植え込んで、雌豚の子宮に入れて、殖やして、君の遺伝子を持った豚を産ませて、その子達から、目とか、歯とか、舌とか、胃とか、肺とか、腸とか、耳とか、色々なものを取り出して、そうやって君を作ったんだ。鼻とか手足とか人間ぽくない所は、筋肉や骨や皮膚を加工して作ったりなんかしたりしてね。そうやって出来た君は継ぎ接ぎだらけで、君の面影なんて全然なくて、でも、君だと思ったよ。君じゃない君の姿を前にしながらやっと逢えたと思ったよ。違う所なんて何度でも作り直せばいいんだから。君は、君だ、君なんだ。僕は呟き、君にすがり、声を上げて泣きじゃくった。目も顔もドロドロに溶けてなくなるんじゃないかと思う程に。

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