第2話 犯人さがし ~無実の罪で魔女裁判にかけられる私~

 あーあ、せっかくきちんと宿題を準備していたというのに本日の二時限目の現国の授業はお休みとなってしまいました。ああ、というよりも、本日は学校自体が休校となってしまったのです。


 まあ、常識的に考えればそれもそうでしょう。あれほどの大災害があったのですから……


 ああ、本来であれば「学校が休みになったぜ、きゃほー♪」と喜び勇んで帰宅しているところなのですが、なぜか私は生徒指導室に呼び出されてしまっています。


 最初はこの未曾有の大災害を最小限に抑えた英雄として称えられ、金一封でもいただけるのかと期待していたのですが……うーん、どうやら様子が違うようです。



 生徒指導室には一時限目を担当していた数学教師の小堺こさかい先生――ああ、私は『コサイン』と呼んでいます。


 数学教師なので。



 それと体育教師兼生徒指導の船橋ふなばし先生――ああ、私は『ふなっしー』と呼んでいます。


 船橋なので。



 さらにはなんと、この学校の最高権力者であられる寺門てらかど校長までいらっしゃいます。――ああ、ちなみに私は『ヅラ』と呼んでいます。


 全然隠しきれていないので。




 そして、この状況――賢い私は瞬時に理解します。




 大の大人が私のようなか弱くイタイケな少女を密室に閉じ込めてヤル事といえば一つ……そう、こいつらは拠って集って私を強姦する気なのです。




 ああ、あの夏や冬に虎の穴で溢れる薄ーい本のようにっっ!!




「コホン、匿名希望とくな のぞみ君。なぜ君がここに呼ばれたか理解しているね?」




 沈黙を破るように校長が私に問いかけます。ああ、今日も浮いてますねぇ、あれは間違いなくヅラです。でも指摘しないで影で嘲笑うのが出来る女の優しさというものです。




 ええ、正しく理解しておりますとも……教師の数もちょうど三人。ならば導き出される解は一つしかないでしょう。




「三本をそれぞれ私の『秘部』と『お尻』と『お口』のお穴にインサート……でございましょうか?」



「……」



「……」



「……」



「……お? おお?? ……はっ!? まさか、くぬぬぬぅ、こここ、この外道どもめぇ……『秘部』に無理やり二本! そして『お尻』に一本! 敢えてこの可愛らしい『お口』をお留守にすることで私の歓声をも愉しもうという魂胆かっ!?」



 ああ、いけません、いけません!


 これは変態……否、大変です!


 『正統派学園恋愛作品』がここにきて


 『大人恋愛作品(18禁)』になろうとしていますっ!



「はあ……校長先生、ワタシの経験則上この『馬鹿』にははっきりと説明をしなければ我々の質問の意図を理解することはできないかと……」



 深い溜息を吐きながら数学教師のコサインが口を挟みます。




 お、おお? 何様だ、こいつ??



 一般社会において糞の役にも立たない知識を得意げに語る数学教師風情が未来ある生徒様に向かって『馬鹿』扱いとか常識的に考えてあり得ないのです。


 これが仮に英語や現国の教師どもならば百歩下がって助走を付けてからの渾身のジャンピングドロップキック一発で赦してやりましょう。


 ああ、しかしながら数学教師に馬鹿にされるのは私の気がおさまりません。


 大体が『算数』さえきちんとできていればこの社会で生きていくには十分。『数学』なんぞは無用の長物なのです。そんな無駄な知識を教える為に限りある貴重な教育の時間を労するくらいならば、パソコンを使ってワードやエクセルなどの使い方を教えてあげた方がよっぽど社会で役に立つ人間になるでしょう。


 ああ、三角関数がそんなに好きならば、セブンの棚に陳列されている三角形の百円おにぎりに向かって「タンジェント」ってひたすら叫び続けるのですよ、この知障。そうしたら優しい瞳をした店員が廃棄処分になったおにぎりを一つくらいは恵んでくれるかもしれませんねぇ。



 ――そうなのです。



 事実としてお前らが悠々と偉そうに語る知識など社会に出たらそれくらいしか使い道がないのです。こんな野郎のお給金にまで私たちの税金が使われていると考えると本当にイライラが止まりません。私から言わせてもらえば社会に出て何の役にも立たない知識を語るだけの数学教師など『生活保護の不正受給者』たちとなんら変わりはしないのです。



 ああ、偉そうに教鞭を振るう数学教師さま~♪


 私には二次方程式の解よりも知りたいことがあるので~す☆


 仮にも教師様なら私の質問にきちんと答えて下さいよ~(*^▽^*)







 ―― お前たちが国民の血税で食っている

       その飯は一体どんな味がするんです?? ――







 さあ、世に蔓延る税金喰らいの数学教師どもよっ!


 己が職業を誇りとし、お前らの心に何もやましい事が無いのであれば、全国民の瞳を真っすぐに見つめて、その胸を堂々と張り……




「ああ、皆さんの税金によって食べることのできるこの π パイはとーても美味しいですぅ!」




 ……と、言ってみろいっ!



 言えるものならなぁっ! このクソがぁぁぁぁあっ!




「コホン……匿名希望とくな のぞみ君。君は何か勘違いをしているねぇ」


「 " あの地平線~、輝くのは~♪ " 」


「こら、匿名とくなっ! 校長先生の話をちゃんと聞きなさい!」




 ――おっと、いけません。



 私としたことがついつい無意識の内にラピュタのお歌を口ずさんでしまいました。



 ああ……だってね、数学教師シータ


 これは仕方がないんだぁ。


 ほらぁ見てごらんよぉ、あの校長の頭髪をぉ!


 凄く不自然に浮いているんだぁ。


 あそこにはきっと……


 ――そう『飛行石』が眠っているんだよぉ!




「コホン、あー、匿名希望君。私たちが君に問いたいのは今朝の一件のことだ。君は自分がしたことを理解しているかね?」



 おお、何だ。そのことですか……どうせここで下手に誤魔化しても後で第三者の口から事実が露見してしまうことは目に見えています。なので私は正直に罪を認めることにするのです。



「バルス! ……はい、教頭先生は私が殺りました。反省はしてません――」


「――ふざけるな、トクナァッ!」



 すると。机をバンと叩いて今までムスッと黙っていた体育教師兼教育指導のふなっしーが怒鳴り声を上げます。



「そんな些細なことはどうでも良いんだ! オマエは自分のやったことが分かっているのかッ!」



 続いて数学教師の分際でコサインも日本語を発します。ああ、大変遺憾なことに数学教師の分際で生意気にも日本語を話します。



「そうだぞ、匿名っ! 誤魔化すのは止めたまえ!」



 そして最後にヅラが〆ます。



「あー、コホン……まあ、船橋ふなばし先生も小堺こさかい先生も落ち着いて。いいかい匿名希望君。私たちが問いたいのは今朝の本能寺ほんのうじ君の件だ。――教頭先生のことはもうどうでも良い」



 ちっ、教頭の件で煙に巻こうとしましたがやはり無理でしたか……


 ああ、所詮は教頭。


 卒業したら顔も名前も生徒の記憶から完全に消えてしまう泡沫の様な存在です。


 その認識は生徒のみならず、教師たちにとっても同じということなのでしょう。


 ああ、ここでの教頭先生の扱いを見て酷いなー、と思っている皆さん。


 では、試しに小学校、中学校、高校でも良いです。教頭先生の顔や名前を思い浮かべて見てください。きっと覚えていないはずです。担任の先生や体育教師、音楽教師や保険医などはうっすらとは覚えているハズなのに教頭先生の存在は貴方の記憶から完全に消えているのです。



 ――そう、怖いでしょう。


 これこそが学校のリアル七不思議の一つです。



「バルス! ……お言葉を返すようですが、ヅ……校長先生。一時限目に発生した "本能寺の変" について私は『おっほっほっ、大変に良くやったヅラ~』、『お手柄でなっしー、嬉ションぶっしゃー!』、『3.14……ふん、ふふん! ……159265 飛んで さぁん! ふん、ふふんッ!』などと、お前ら三人からそれぞれ称賛される事はあれど、批難されるような事はしていないのです。それはそこのが証明してくれるのですよ」



 私はそう言うと右腕を大きく上げて、天から下すようにコサインをビッと指差します。



 おお、私のその態度が余程癇に障ったのでしょうか?


 ああ、それとも私に真似っこされた台詞の部分が思いの外、ソックリで悔しかったのでしょうか?


 ……んん? それともまさかっ!


 こいつは私に扱いされたのがお気に召さなかったので御座いましょうか? ……うーん、でも、それは事実なのです。大人ならばしっかりと現実を直視しましょう。



 コサインは唇を震わせながらお顔をお猿さんのように真っ赤にしてお怒りをとても堪えているご様子です。




 ――ああ、良いのですよ、良いのですよ。


 我慢は本当に体と心に良くないのです。


 ほらほらぁ、己が欲望の赴くままにぃ……


   その拳で暴力に訴えましょうよぉ……




  ――ええ、そうです


     ……その瞬間っ!



 ああ、私は教育委員会に飛び込んで、お前の社会的無価値な教育者人生にピリオドを打ってやるのです!


 お前ら教師が強者でいられた時代は当の昔にバブルと共に弾け飛んだのです。今は我々社会的弱者である生徒たちがお前ら高慢な教師をなぶりり、甚振いたぶり、もてあそび、そして微笑む時代となったのです。



 私は右腕を上方に上げたまま、その指を天に向け、左手を腰の部分に下し、脚を肩幅に開くと腰をくねらせてコサインを挑発します。



 そう、まさにその風体は……


     サタデー・ナイト・フィーバー!


  ――お前ら老害が生きた青春時代の残骸です。



 ヒュー、ヒュー、イエーイッ!


 ほーれ、ほれ♪


 フィーバータイムの始まりですよぉ!





 ――さぁ、カモン、カモン、殴りかかってこぉーいっ!






「は、はあ……ワ、ワタシの目には、アナタが本能寺君を消火器で殴っていたようにしか見えませんでしたけどねぇ」



 ――ふぁっく、コサインの野郎めぇ。



 悪魔の挑発に乗ってきやがりません。怒りを寸前の所で抑えてヅラへ自分の目にした有りの侭の光景をチクリました。



 大変誠に遺憾ながらコサイン抹殺計画は失敗です。



「……コホン、ということなのだが……どうなのだね? 小堺先生は君が友人を消火器で殴った光景を見たと言っているが、匿名希望君」



 はて? ――『友人』とな?


 うーん。 そもそも『友人』とはなんでしょうか?


 少なくとも私の辞書に


 『友人』や『友達』などという単語は存在しておりません。



 ――ああ、もしかして、ですか!



 利用したり、利用されたり。


 裏切ったり、裏切られたりする。


 存在の事を言っているのでしょうか?


 結婚式でご祝儀を準備しなければならなかったり、


 葬式に香典を準備しなければならなかったりする?


 ……のことを言っているのでしょうか?



 ――ああ、だとしたら大きな検討違いです。



 私にはそんな存在は一人たりともおりません。


  今も昔も……


   それからこれからも……


     そう、未来永劫。


 そんな悪しき煩わしい人間関係などは私には存在しないのです!



 ああ、故に私は、利用されることも、裏切られることも、無駄なお金を消費させられることもこの人生において一切として御座いません。



 ふふり、どうだぁ……羨ましいだろうっ!  



 おおっと、私の素敵身の上話を自慢気に語っている場合ではありません。


 本能寺など私の友人でも何でもありませんが……ああ、そんな事をわざわざ否定したところで意味の無き事。今は私が行った一連の行動についての正当性を正しくヅラに伝えることが急務だと考え、私は口を開きます。



「バルス! ……ああ、聞くのです。年齢だけを無駄に重ねたこの白痴ども。江戸時代、城下町が火災に見舞われた際、当時の消防士――『め組』と呼ばれた火消し人たちは周囲にその炎が燃え移るのを防ぐために長屋を槌で叩いて打ち壊していたと云います――」


「あー……コホン、つまりが……だ、匿名希望君。君の『友人を殴る』といった行動はすべて、その江戸時代の火消しに習った火災の消化を目的としたものだったと……そう言いたい訳だね?」


「バルス! ……はい、その通りなのです」



 加えて言うのならば本能寺の野郎が単純に超気持ち悪かったからです。


 本人はあれでお洒落さんのつもりなのか知りませんが、ヘアワックスでベタベタのテカテカに塗り固められた黒髪は、私のような悪魔の女子からみても新種のゴキブリにしか見えませんでした。


 そう、目に映るだけで大変不快だったのです。




 ――ああ、そうですねぇ。




 では、ここで皆さんに是を問いましょう。



 例えばアナタのお家に突然……


  『燃え盛るゴキブリ』が現れました。


 さて、


 アナタは火を消してから叩き潰しますか?


 それとも叩き潰してから火を消しますか?



 その答えは火を見るより明らかなはずです。


  ―― そう "火" だけにねっ♪



「こらトクナァ……だったらなんで本能寺が燃えたんだッ! 勝手に燃え上がる訳がないだろう! どうせお前がやったに決まってるッ!」



 おお、コサインの馬鹿を完全論破したら、今度は体育教師兼生徒指導のふなっしーが私にあらぬ疑いをかけてきやがりました。



 ええ、確かに私には疑われるべきいくつかの前科が御座います。



 夏休み。パパリンとママリンが私を家に置き去りにして黙って温泉旅行に行ったのが悔しくて悔しくて、せめて広いお風呂で温泉気分を味わいたいと学校のプールに大量のバスクリンを入れたのは確かに私です。


 体育祭。トトカルチョでママリンの隠していたヘソクリンを勝手に全額持ち出して紅組の勝利に賭けていた私はどうしても紅組を勝たせたくて、競技中に白組のエースたちの瞳を観戦席からレーザーポインターで狙い次々と失明に追いやったのも確かに私です。


 文化祭。「芸術は爆発だ!」と。主に職員室を中心に大量のロケット花火や爆竹を仕掛け、花火の一斉点火と共に放送室から大音量でWhiteberryの『夏祭り』を流したのも確かに私です。



 ――ああ、しかしそんな前科が何だというのですっ!?



 なぜ私がその程度の前科でこんなにも酷い迫害を受けなければならないのですかっ!!



 芸能人の方とかもっと酷い前科持ちが大勢いるじゃないですかっっ!!!



 本来は白色の筈のウサギさんが青色に見えちゃうくらいシャブシャブしてラリパッパした挙句、警察や各マスコミ関係者を巻き込んで大逃走劇を繰り広げた酒井法[ピー]さんですらいけしゃあしゃあともうテレビに出まくってるじゃないですか!


 最近シャブシャブして才能も華も無い相方を置いて捕まったあの野郎もどうせ直ぐに出てくるんでしょう? YAH YAH YAH ~♪ と陽気に出所して「もう二度とシャブシャブしませんか?」との報道陣の質問に対して SAY YES~♪ と鼻にかかった甘く高らかな声で答えるに決まっているのです!


 ずるいです。露骨な依怙贔屓です。一般人はワンアウトで人生終了なのに奴らは平気でアウトカウントを重ね続けます。晩年の元・読売巨人軍清原選手のように男気溢れるフルスイングでアウトカウントを重ね続けるのです!


 確かに私には前科があります。でもそれだけで犯人扱いされるのはおかしいのです。私は断固としてこの腐った社会と戦います!



「ああ、聞くのです。ふなっしー。本能寺を燃やしたのは私ではありません。歴史の教科書を直視するのです。そこには明智光秀あけち みつひでと書いてあります。でも私は羽柴秀吉はしば ひでよしの猿が実は裏で糸を引いていたと思うのです。 (m9 ゚д゚ )ビシッ」


「あー……コホン、匿名希望君。船橋先生がおっしゃられているのはそっちの本能寺ではなくてだね――」



 有名な日本の歴史も知らぬ筋肉バカ一代のふなっしーに私が遇の音も出させない正論をぶつけると今度はヅラが意味不明な戯言を抜かし口を挟んできやがります。



 ――おい、ヅラ? お前までマジかよっ!?


 バルス! バルス!!


 仮にもこの学校の校長を務めているお前も歴史的に有名なあの『本能寺の変』を知らないのか? ああ、この学校の教師ども揃ってどうかしています。


 脳内筋肉のふなっしーならばともかく、ヅラは校長という立場上、常識的な知識はある程度有していなければ不味いでしょう。


 ああ、一度その身を持って『安土桃山戦国時代』へとタイムスクープハンター要潤アゴ・アーゴと御一緒にタイムスリップするといいのです。


 どうせヅラはその頭部に不自然な形で浮いているオプションパーツをパージすれば即座に『落ち武者モデル』へとカスタムチェンジが可能なのでしょう?


 ああ、今の時代よりもずっと自分に正直に生きられると思います。


 そうですねぇ、ついでにこの世界線では税金を無駄に喰らい続けるだけの生ける咎人であるコサインとふなっしーの二人も引き連れて三馬鹿仲良く梟首となり、並んでその首晒されて、大衆からの嘲笑の的になると良いでしょう。せめてもの弔いに私がお前らの生首に石を投げ、唾を吐きかけ、手毬のように地べたに転がし蹴とばしながら『悪魔の手毬唄』を鎮魂歌として縦ノリ、ヘドバン、ラップ調で声高らかに熱唱してやります。



「とぼけるなッ、トクナァ! そっちの本能寺ではないッ! クラスメイトでオマエの前の席に座っている本能寺だッ!」



 ああ、本能寺ではなく『本能G(ゴキブリ)』の方でしたか。だとしたら最初からきちんとそう云えば良いのにどうもこのモンキー共は語彙力に欠けている部分が御座います。一度きちんと日本語を勉強すると良いでしょう。



 まず、ヅラは語尾に「○○だ、ヅラ~」と付けるのです。


 そうする事でお前のヅラキャラが際立ちます。薄いキャラは必要ありません。薄いのはお前の毛髪だけで良いのです。



 次にふなっしーは語尾に「○○なっしー!」と付け、更には「嬉ションぶっしゃー!」と尿汁をスプリンクラーの如く周囲にまき散らすのです。


 その姓を名乗るからにはきちんと倫理的にアウト確実な絶ゆるキャラとしての自覚を持つべきだと私は考えます。



 最後にコサインは円周率を全て数え終えるまで何もしゃべらなくても結構です。


 ああ、テメーは金輪際、一生しゃべんな、死ね死ね、バーカ!



「それで? 匿名希望君。君の前の席に座る本能寺君が授業中に突然燃えてしまったのだ。後ろの席の君ならば何か知っているのではないのかね?」


「ヅ……校長。ああ、その質問に答える前に私から一つ質問しても宜しいでしょうか? ……それと、バルス!」


「フム? 何だい、言ってみたまえ」



 私はヅラに発言の許可を得ると滔々と語り始めます。



「ヅ……校長は "純然なる無意識の罪" についてどのようにお考えなのでしょうか? ……それと、バルス!」


「フ……ム? 何だね、それは?」


「ああ、例えば――ここに花を愛する純粋無垢な少女がおります。少女は自分の花壇で沢山の花を育てていました。ある日ふとその花壇を見ると花々に紛れるように雑草が生えているのを発見するのです。少女は自身の花園を守るためにその雑草を無意識の内に抜いてしまいます。そして後になって気が付くのです。ああ、雑草も花々と同じく生きているのだと……それと、バルス!」


「フム、それで?」


「純粋無垢な少女は心を痛めます。ああ、私は雑草さんになんて酷いことしてしまったのでしょう! と。そして自身の罪を神へと懺悔するのです……さて、ヅ……校長。もしアナタが神ならばこの純粋無垢な少女の犯した過ちをお許しになられますか? それとも罰を与えになられますか? ……それと、バルス!」


「ほう、成程。それが "純然なる無意識の罪" と云うやつかね。ムム、そうだね……もし私ならばその少女に罰を与えたりなどはしないだろう」


「ヅラ……いいえ、校長。それは一体何故ですか? その少女は純然なる無意識とはいえ罪を犯しているのですよ? ……それと、バルス!」


「フム、匿名希望君。これは大変難しいことだけどね、その少女に罰を与えるとなると私たち人間は全員罰を受けなければならなくなると思うのだよ……アア、そうだね。私たち人間は常に無意識に罪を犯して生きているのだ。空腹を満たす為に家畜を殺し、生活の為には山や森を切り開き、大気や海を汚す。こうして呼吸をすることですら二酸化炭素を放出して地球を破壊している。これが罪でなくて何と云えよう」


「校長……いいえ、ヅラ。つまりこの純粋無垢な少女に罪はあれど罰が与えられることはないと云う事ですね? ……それと、バルス!」


「ウム、そうなるね」



 ――ああ、よかった。


  そうです、少女は許されるのです。




「おお、じゃあ罪を告白するですよ、ヅラ。あの雑草(本能G)を燃やしたのは私です。だって、アイツすげぇー目障りだったのです! ……それと、バルス!」





 ―― Episode.2 End ――




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