第73話 魔都に漂う者 魔都の顛末
今回の戦闘はレイドに少なくない被害を与えた、片腕第二間接部損傷、搭載武装ウイングアロー使用禁止等のダメージを受けており、しばらくはレイドは自己補修モードで待機させて措かなくてはいけない状態であった。
トワ達はレイドから魔都近隣の森に転送して徒歩で魔都に向かっている、ソフィアをトワが抱えてその横をケラーが静かに付いてきていく。
魔都に続く街道に出ると、ケラーが口を開きトワに話し掛ける。
「トワ殿。お聞きしたい」
トワは歩みを止めてケラーに体を向ける。
「何を聞きたい?」
「色々聞きたいことがあるが何よりも聞きたいのが、トワ殿は光の勇者で在られるのですか?」
エリー達と同じようにまた光の勇者と間違われた、いや、間違えたと言うよりもレイドを見たのならば、この世界の住人ならば当たり前の認識なのかもしれない、光の勇者に就いては今は問題してもしょうがない、勘違いしているならそのままで構わないだろう。
「だとしたら・・・どうする?」
「それは勿論、国を挙げてトワ殿の事を光の勇者として祝賀します」
「・・・それは遠慮するケラー」
それを聞いたトワは苦虫を潰した様な顔に成り、有無を言わさずに拒否をするトワ。
「あの時は緊急時なので仕方無かったですが、本来は秘密にしている事なので、もしケラーが流布されるのならば」
「するのなら?」
「表舞台から姿を消すでしょう、二度と、出来れば今回見た事は他言無用でお願いします」
淡々と事実を告げるトワ。トワは目的の為に目立つ事は厭わないが、必要以上に目立つ事は極力関わらない事にしたいと考えていたが、流布されるのならばされたで構わないと思った、トワはどちらかと言えばアングラを好む、活動する場所が変わるだけの話だけなのだと、まぁ、今回の一件が片付いたら文字通りに地下に潜る事になるが。
「・・・分かりました」
ケラーの返答は了承であった、トワは若干の期待が空振りに終わった、気を取り直してケラーに向き直る。
「それなら問題ないな。ソフィアも他言無用だぞ」
トワに抱えられたソフィアは黙って頷いた、そして疲れたのだろう静かに目を閉じると腹を波打たせて眠りに就いた。
魔都まであと少しの所に差し掛かり立ち止まってトワはケラーの方を向く、ケラーも立ち止りトワを見る。
「・・・そう、これは可能性の話。もしかすると法螺話の類いの話だ」
トワは静かに語り掛けるように切り出して話を始めた。
「急に何を・・」
ケラーが質問しようとする、それをトワはソフィアを抱えていないもう片方の手で制してから話を続ける。
「あの地下で邪神の処に現れた、あの男は今から遠くない時を置いて再び事を起こす、いや、既に動き出しているだろう、そして現れたその時は別の邪神を伴っているだろう」
「トワ殿は再び邪神が現れると!?」
ケラーは凄く慌てた様子でトワに詰め寄ろうとするが柳の如く避け、トワはケラーを手で制して落ち着かせた。
「ソフィが寝ているから静かに頼む」
「す、済まない」
ケラーは自分の行いを謝り、トワに続きを促す。
「自分は人族の領土に戻ってしなければならない事がある、もしも、万が一に再び巨人が魔族の領土に現れたのならばこれを半分に割れ」
トワは空いている片方の手で、懐からペンダント状の物を取り出してケラーに渡す。
ペンダントトップには板状の形状に斜めに溝がある物で、多少の力を加えれば直ぐに割れる形状になっていた。
「これは?」
「友好の印みたいな物だ、まぁ、それの出番が無い事が一番いいが念のためにな」
「綺麗な物だな」
ペンダントトップにある二種の鉱物が埋め込まれてあり、一見するならばシンプルなアクセサリーにしか見えない為、装飾品としてケラーは褒める、そして兜を脱ぎ首に掛ける。
「似合うかい?」
兜を脱いだケラーの髪は金色で緩いウェーブが陽の光を浴び、銀色のペンダントがよく栄える。
「あれれ、黙りかい?」
トワが反応を示さないで歩く事にやや不服そうな表情したが、兜を被り直して再び歩きトワと肩を並べた。
そんなんでようやく魔都の一番外の城壁に辿り着くケラーとトワ、城門は邪神の影響で滞っていた流れで、忙しなく働く門兵と出入りを待っている人々でごった返していた。
ケラーは門兵迄歩み寄る、周囲では順番待ちの人々はトワ達三人を遠目に眺めている。
「貴様ら列を乱すな、入国したければ並べ!!」
「此処の責任者を呼べ」
「何を言っている!?」
「いいから呼べ!!」
「何をーー」
「何の騒ぎだ!?」
ケラーと門兵の言い争いに気が付いた門番の上官らしき人物が、人混みを掻き分けて現れる。
「は、隊長、この者達が列からはみ出して、上官殿を呼べと申し出ていました」
丁度良く隊長が来てくれたと門兵はトワ達を指す、隊長と呼ばれた男は指差ししたケラー達の方を向く、隊長はケラーの出立ちを観るとみるみると顔色が悪くなっていく。
「し、失礼しました。お、お前も、謝れ」
「は?はあ、すみませんでした」
「どうぞお通りください」
三人は城門を通過していく、その様子を残された門兵達と周囲の人々はそれを茫然と見送った。
「隊長殿、あの者達は?」
「お前は入ったばかりだから知らなかっただろう、あのフルプレートを着た人物が付けていたマントの留め具は貴族様を示す物だ」
「!?」
「危なかったな、不敬罪で処分されるとこだったな、まあ、緊急時でも無い限りお偉いさんは徒歩で門なんて潜らんからな」
隊長の言葉を聞いた若い門兵は冷や汗を流して身の無事を安堵していた。
門でそんなやり取りがあった事など露知らずトワ達は次の門を目指して歩みを進めていた。
「お腹空いた」
寝ていたソフィアは目を覚ますと空腹を訴えた、その言葉を苦笑するトワと困惑するケラー。
「ケラーはこの辺で食事処を知らないか?」
「済まない、城の周囲だったら多少は分かるが、この辺りは歩いて移動する機会が無くてな、よくは知らないんだ」
「そうか、じゃあ、適当に買ってくるからソフィとここで待っていてくれ」
トワはソフィアを降ろしてケラーに渡して人混みに消えていき、ケラーとソフィアは突然二人でしばらく待つ事になりケラーは焦る。
「ち、ちょっと待て」
と手を伸ばすがケラーの声は周囲の生活音に掻き消されトワは届かなかった。
ぽつんと取り残された二人、此処は人々の往来が激しい場所の為に路の端に移動してトワを待つことにする、戸惑いながらソフィアの手を引いてどうにか路の端まで移動した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人の間では静寂が広がる、周囲の音は騒がしい為に余計に二人の間の静寂が際立つ、ケラーは何度か会話を試そうとしたが、このソフィアと呼ばれている少女は無反応の為に、早々に会話を諦めて大人しくトワを待つことにした。
しばらくすると往来に紙袋を片手に戻ってくるトワ姿を現す、その姿を見てケラーはソフィアと二人で話すことが無く気まずい状態だった為に安堵の溜め息が出た。
「待たせたな」
「お、遅いぞ」
「あ、ああ、悪いな、ほら」
トワは紙袋からサンドイッチを取り出してソフィアとケラーに渡す、ソフィアは受け取ると小さな口を開けてちょこちょこと食べ始める、口一杯にサンドイッチを頬張るその姿はハムスターなどの齧歯類を彷彿させるとトワは考えていると、ソフィアはトワ視線に気付いて訴えてくる。
「マスター、何ですか?」
トワは苦笑しながら手を挙げて何でもないと仕草をしてケラーを見る、いまだに兜を被ったまま立っていてサンドイッチを食べようとしないでいた。
「どうした食べないのか?」
「ああ、いや、色々有りすぎて今は食欲が無くて」
「そうか」
「食べないのそれ?」
ソフィアはいつの間にか二人分のサンドイッチを食べ終わっていた、ケラーは持っていたサンドイッチをソフィアに手渡す、サンドイッチを受け取ったソフィアはまたもそもそ食べ始めた。
「では城に行こう」
ケラーに即されて移動を開始する、食事をしているソフィアを抱えてケラーを追う。
***
六つ城壁を越えて城門に辿り着くと大騒ぎになった。
ショパンの屋敷の地下で死んだ思われていた三人が現れて騒然とした、騒然としているなか城内の客間に案内される、城内を案内される最中でケラーと別れ、メイドに案内され客間の前でメイドが「此方でお待ち下さい」と告げて下がっていった。
客間の扉を開くとそこには悲しみに打ちひしがれていたマリアと側で控えているキティが部屋の中に居た。
部屋にいた二人は扉が開く音を聞いて視線を此方に向けてくる、扉を開けた人物が誰なのか認識すると涙を流しながら駆け寄って来る、抱き付いて来たマリアを空いている片方の手で抱き止める、その半歩後ろで涙目で立つキティ、場の空気を読んでソフィアは部屋に備え付けてあるソファーに座りテーブルに用意されていたお菓子を食べ始める、空いた片手でキティの頭を撫でるとキティも抱き付いて来た。
トワは二人が落ち着くのを待つ。
「心配したんですから」
鼻声で話し掛けてくるマリア
「悪かったな」
「本当にもっと早く帰ってきてぐださいよ」
されるがままにされるトワは平謝りして、どうにか無事だったが地下から脱出するのに時間が掛かったと偽り誤魔化す。
それから魔王に事の顛末をケラーと供に報告したり、マリアへの許婚も白紙になり、今回の視察も終わり人族の領地に戻ったりとバタバタしてそれから。
残花の祠の前に一人立つトワがいた。
「随分と遠回りしたがようやく目的のひとつに辿り着く事が出来たな」
周囲には人っ子一人いない残花の祠へ歩みを進めるトワ。
後書き
色々話を飛ばしてようやく残花の祠まで来れました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます