第51話 魔都に漂う者 5
ツペェシュ男爵が席を立つ。
「ようこそ御出で下さりましたマリア王女様、お出迎えも出来ず誠に申し訳ありません」
ツペェシュは最敬礼でマリアを迎える。
「いえ、急な訪問で快く受けていただきありがとうございます」
マリアも軽くお辞儀をして返す。
「ヨハンセン、お食事をお持ちしろ」
キティとトワはマリアの斜め後ろの左右に立ち待機する。
トワは出される食事にスキャンを掛けて毒を検知していく、ツペェシュはマリアに酒を薦めるが、マリアは体調が優れないことを理由に断った。
「1つ伺っても宜しいでしょうかマリア王女様?」
「はい、なんでしょうか?」
「王女様は今恋をしていますか?」
「は、はい?」
ツペェシュは突拍子も無い事を言い出し、マリアが返答に窮する。
「ああ、失礼、マリア王女様がとてもお綺麗なもので」
ツペェシュが歯が浮くような台詞を言うとマリアはトワの方に振り向いていた。
「くくく、失礼、いえ王女様の恋路を邪魔する気は無いですよ」
「あの、いえ」
マリアは頬を赤く染め俯いてしまった。
「ふふふ、ごふごほごほ、失礼、今日はとても良い日です、ですが私も体調が優れない様なので、申し訳ありませんが、お先に休ませてもらいます、ヨハンセン後を頼む」
「畏まりました」
「それではマリア王女様、良い夜を」
「ツペェシュ男爵も」
ツペェシュは軽くお辞儀をして部屋を退出していく、付き添っていたヨハンセンが戻ってきた。
「食事の後は御入浴は如何でしょうか」
「はい、頂きます」
「では、此方に」
玄関ホールに出て、左側のもう1つの扉を開け廊下を少し進むと扉が1つ、ヨハンセンは扉の前で振り返る。
「此方が浴場になります、では、ごゆるりと」
ヨハンセンは音もなく去っていく。
「キティさん、着替えを」
「畏まりました、マリア様」
キティは部屋にマリアの着替えを向かった、トワは浴場へ入り口近くの壁にもたれ掛かる。
「・・・トワ様?」
マリアはトワを見た。
「見張っている、安心して入れ」
「いえ、あの・・分かりました」
マリアは浴場に姿を消す、少ししてキティも浴場に入っていく、キティも入り際にトワを見て表情が変わる。
時間が立ち過ぎてマリアとキティが浴場から出てくる、二人から風呂上りで石鹸の香りが漂ってきた、二人を部屋まで送る。
「おやすみなさいませトワ様」
「おやすみマリー」
しばらくするとキティが部屋から顔を出す。
「トワ様、お時間よろしいですか」
キティの部屋に招かれるとテーブルに簡単な食事が用意されていた。
「簡単な物ですが食事を準備しました」
キティが準備した食事はパンにハムとキャベツにデザートのタルトが並んでいた。
「すいません、料理と言うより保存食ですね」
キティは言葉とともに尻尾をだらんとさせる。
「いや、食事が取れるだけで助かる、これから丁度仕事があるからな」
キティはトワの言葉を聞くとゆっくり尻尾を振るい始めた。
「それじゃ、食べよう」
二人で食事を摂り、キティの部屋からトワが出る。
「お休みなさいませ、トワ様」
「おやすみキティ」
廊下に出たトワは部屋には戻らずに廊下の壁にまたもたれ掛る、腰からトワはデバイスを操作して時を待つ。
***
深夜になり雲で月が隠れている為に、漆黒の世界が広がっている、その中を動く気配がする。
ツペェシュの屋敷に近付いて行く気配が、マリアが就寝している窓に近付く。
「そこで止まれ」
「!!」
気配が声に反応して振り返ると、そこにはトワが立っていた。
「こんな真夜中にどうした・・・ヨハンセン」
「これはこれは護衛のお方でしたか、いえ此方に少々用がありまして、不用意にマリア王女様の寝室に近付いて申し訳ありません」
「そうか、気を付けろよ」
トワが背中を向けるとヨハンセンは突然飛び掛かった。
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