第50話 魔都に漂う者 4

 魔都迄の道のりも3日が過ぎた、ここまでは特に異常は無く行程を過ごした。

 この調子で行けば明日には魔族の領土に入る事が出来るだろう。

 従者の話によると、もうすぐ夕方で今日の宿泊する貴族の館が見えてくるらしい。


「あ、トワ様見えました、あの館です」


 馬車の窓からルネサンス建築を彷彿させる建物が立っていた。


「この館の主の名は?」


 正面に座っているマリアに尋ねる。


「ツペェシュ男爵だったと記憶してます」


 そんな話をしていると馬車は館の前まで来ていた、馬車が停止すると館の前で待機していた燕尾服を身に纏った初老の男性がお辞儀をして出迎える。


「ようこそ御出で下さりましたマリア王女様、私はツペェシュ様の執事をさせていただいておりますヨハンセンと申します」


「出迎えありがとうございます、それでツペェシュ様はどちらに?」


「大変申し訳ありませんが、今主は皆様を歓迎するために隣村まで行かれておりましたが、間に合わなかった様で、誠に申し訳ありません」


「いえ、急な訪問で来た我々に非が有りますのでお気になさらないで下さい」


「皆様、お疲れでしょう、従者や護衛の方は申し訳ありませんが隣の敷地にあります屋敷で滞在して下さい、マリア王女様はこちらの本館にて滞在を」


「こちらの従者と護衛は私の専属なので一緒にいいですか?」


「従者と護衛の方御一人ずつでしたら構いません、それではこちらに」


 執事が扉を開け屋敷に通される、マリアとキティに続いて入ると、玄関ホールの正面に二階への階段があり、その踊り場に当主らしき人物の絵が飾ってあり、左右に扉が二ずつある。


「どうぞこちらへ」


 ヨハンセンが左手前の扉を開く、扉の向こうは廊下でL字になっていて曲がると、扉が5つ有る、ヨハンセンが振り返って告げる。


「マリア王女様は奥の扉のお部屋をお使いください、従者と護衛の方はその手前四つどれかをお使いください、主は夕食までには戻られる思います、夕食の時間になりましたらお呼びに行きますので、それまでの間はおくつろぎください、それでは失礼致します」


 ヨハンセンはお辞儀をして戻っていく、キティはマリアの荷物を持ってマリアに宛がわれた部屋に一緒に入っていく。


「トワ様それでは後程」

「ああ」


 4つある部屋を全て開け部屋を確認する、マリアの部屋に近い奥側の右の部屋で今日は休む事にして、屋敷の構造をデバイスでスキャンさせると、この屋敷に生体反応がトワを抜かして3つ反応が有った。


 スキャンが終えてマリアの部屋の扉をノックする、扉を開くとキティが立っていた。


「トワ様、如何されました?」


「ツペェシュ男爵の知っている事を聞きに来た」


 キティにソファーに案内され座る、正面のソファーに座っていたマリアにツペェシュの事を聞く。


「私も詳しくは知りませんが、何代か前の当主が人魔戦争の折りに活躍して領主になりましたが、何かの理由で領主から外されました、そして何故か人族の端に館を建てて、それからは余り公の場には姿を現さないとお父様が言っていました」


「会ったことは無いのか?」


「はい、私は社交界が苦手で出席しないもので一度お会いになった事がありません」


「ありがとう、気になっただけだからそんな顔しなくていい」


 申し訳なさそうなマリアを慰めて会話をしているとトントントンとノックの音がした、キティが出ようとしたのを制止させトワが扉を開くとヨハンセンが立っていた。


「マリア王女様、御夕飯の準備が整いました、ツペェシュ様もお待ちになっています、どうぞこちらへ」


 ヨハンセンの後をトワ、マリア、キティの順に続いて行くと、玄関ホールに戻り右側の奥の扉を開くと大食堂が広がっていて、長いテーブル奥の椅子に座っている人物つまりはツペェシュがいた、どうやらこの館は普通では無いようだ。


 トワは今夜は長い夜になりそうだと思いながら、マリアの座る椅子を引いてエスコートしていた。

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