action1-12


 独自潜入から戻った紡は、誰にも気付かれないように自室のベッドへダイブした。ラボでの一件。あの後、自分がどうやって帰ってきたのか覚えていない。


 制服のままダイブした紡は、うつ伏せの状態から仰向けになる。暗闇の中変わらない天井を見つめたまま、脳裏にはラボの地下で見た光景が絶えず浮かんでいた。




 『ーーっ!?』


 照らし出されたカプセルの中身から目を離せない。突きつけられた現実から目を逸らすことすらも。対して運動をしたわけでもないのに呼吸が速くなる。心臓の鼓動が高鳴る。

 鳩尾から体中をじわじわと支配していく不快感に吐き気を覚え、口元を両手で押さえた。


 明々とライトアップされたカプセルの中には、謎の物体が入っていた。形をなしていないそれらは、よく見ると人間の臓器だ。中には人間の胴体だけが作られたまま残されているものもある。


 どこからどう見ても、人間ではない。かろうじて人間と判別できるだけ、まだマシなのだろうか。


 政府が公式発表の裏でしていた真の政策。それは全くの無の状態から人間という有を生み出すことだった。実は人間を構築しているのは無数の酵素である。体の隅から隅まで全てが、何らかの酵素により形作られているのだ。


 (その成分さえ把握していれば……)


 例え無の状態でも、有を生み出すことは可能になる。カプセルに入っているのが、その結果ということの証拠。


 知ってしまった事実。紡は半ば放心状態のまま、侵入した痕跡を消してラボを後にしたのだった。




 「うっ……!」


 思い出して吐き気を催してから、洗面台に駆け込むのは早かった。口元を覆っていた手を外すと、深夜にも関わらず思い切り戻した。喉元を熱く焼けるような液体が通る。

 蛇口から流れている水が戻したものを排水口へと流していった。


 (気持ち悪いっ……気持ち悪いっ!)


 何度も何度も戻す。あの政策を実施している政府が。平然と行っている人間が。全てが気持ち悪い。戻しても、戻しても。拭えない不快感と嫌悪感。


 戻しすぎて胃液しか出なくなっても、紡は狂ったように戻し続けた。やがて、戻す胃液すら出なくなったところで、紡はやっと顔を上げた。

 目の前の鏡に映るのは、ひどく憔悴した自分の顔。


 (なんて、ひどい顔だろう)


 鏡に映った自分の顔を見て苦笑いを浮かべると、青白い顔が歪んで見えた。水で口を濯(ゆす)いでから蛇口を閉める。たったそれだけなのに、妙に口の中がすっきりした。


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