第16話番外編 希望と絶望

 SFでもなんでも主人公とかそのまわりが活躍するのって、面白いですよね。

 まぁ、それは否定しません。

 というか否定する意味もないというか。


 宇宙の未来を考えてみます。エントロピーの法則とまでいわずとも、核融合と核分裂の過程だけで、宇宙に最後に残るのはだいたい鉄だけであることがわかります。

 まぁ、白色矮星の核あたりはダイアモンドですが。これ、どうなるんだろ?

 あとは中性子星。

 もうちょっと先を見ると、どうなるんだろ。みんな原子以下に崩壊すると聞いたこともありますけど。もうみんな互いに光速を越えて遠ざかっちゃって。ビッグリップですね。

 そこから明らかなのは、そうなるよりもずっと前に、「この宇宙」から脱出しないといけないということです。

 はっはっは。どうやって? どこに?

 まぁ鉄だけとかになるのは何兆年とか10兆年とからしいですけど。


 もっと近い時代を考えてみます。

 銀河団が大銀河になるあたり。

 そのころ、この銀河が一部となった大銀河(あるいは他の大銀河から見ても同じですが)しか、観測できる範囲に存在しません。

 自身以外の大銀河は、光速を越えて遠ざかってます。ですから見えません。

 宇宙の大規模構造ももはや把握できないでしょう。ビッグバンがあった可能性も、運がよければ思いつくかもしれません。

 この時代だと、「宇宙は永遠不滅」と思うかもしれません。昔、信じられていた「宇宙は永遠不滅」と違うのは、「宇宙の大きさは有限である」ことに気付くくらいでしょうか。

 この時代に、上に書いたような宇宙の崩壊の可能性に気付くかはわかりません。残るのは鉄だけというあたりには行き着くとは思いますが。

 まぁ、この時代で、今は見えていないなにかが見えるかもしれませんが。「宇宙は永遠不滅」とか思ったら、上に書いた時代へと進むだけです。

 まぁこれは2兆年以上先の話。下で書く文明のレベルのIIかIIIに到達していれば、マルチバースの中からこの宇宙と同じ物理法則、あるいは物理定数の宇宙を見つけたり、作ったり、引越せるかもしれません。


 さて、兆年という単位の話なわけですが。そこで、「そんな未来の話は関係ないよ」と考えるのであれば、それは「それまでには人類は滅んでいる」という前提が存在することになります。これは後に書く太陽系の範囲での50億年でも同じ。「そんな未来の話は関係ないよ」と考えるのであれば、それは「それまでには人類は滅んでいる」という前提が存在することになります。

 それを受け入れるなら、ただそれだけの話です。

 ですが、私は受け入れたくありません。人間は、あるいは少なくとも一部の人間だけが持っている知性は、そういう前提を覆すと信じているからです。


 まぁ、このあたりは想像しにくいかもしれません。

 なので、もっともっともっともっと近い時代を考えます。

 そうやって遡ってくると、地球人がまずぶつかるのは、恒星間の移動の問題です。「宮沢弘の科学エッセイ」の「太陽系は狭く、宇宙は広い」[*1]に書いておきましたが、ともかく遠い。隣りまで4光年とか言うけど、それがともかく遠い。

 地球人は太陽系から出られないんじゃないかってくらい遠い。ともかく遠い。


 ちなみに文明のレベル(あるいはタイプ)は、3つ言われてます。

レベルI: 惑星上で利用できるエネルギーを全て利用する、あるいは制御する

レベルII: 恒星のエネルギーを全て利用する、あるいは制御する

レベルIII: 銀河のエネルギーを全て利用する、あるいは制御する


 現在地球はレベルIにも到達していません。恒星間を航行するのには、おそらくレベルII程度は必要と思われます。

 この文明のレベルの違いは、現代と中世とかとはもう桁が違います。レベルがひとつ違うと、もう神と人くらいの違いがあると思ったほうがいいものです。

 ハリウッド映画とか一部の軍事顧問的な人は「なんとかなる」とか、とくに一部の軍事顧問的な人は「地上で粘れば他のところに行ってくれるかもしれない」とか言ったりしてます。とっても楽観的です。

 今の地球にレベルIIの文明を持ったものが来たら、話になるわけがありません。「他のところに行く」にしても「じゃ、いいや」的に何かされたら、地球がバラバラになるくらいなら運がいいくらいの技術を持っているでしょう。


 話を戻して。じゃぁ、太陽系内でやっていこうとなるかもしれません。

 だとしても、それでも広い。ともかく広い。

 実用的には化学ロケットでもイオンエンジンでも無理。もう広くて。

 探査機ニュー・ホライズンが冥王星を通りすぎてますけど[*2,*3]、これ、通りすぎるだけ。だって止める推進剤持ってけないんだもん。あ、*2の方に書いてあるけど。以前写真を見たときに、「カロンって冥王星の衛星なのか? むしろ互いに回ってんじゃね?」って思いましたけど、やっぱりそうみたいですね。

 んで、探査機のニュー・ホライズン、地球から2006年に打ち上げられて、冥王星まで9年ほどかかってます。

 仮に化学ロケットでもイオンエンジンでも、使えたとして、そして使ったとして、そう違わない時間がかかるはずです。往復18年とか、20年とか。

 冥王星のあたりには、微惑星とかあって資源の宝庫かもしれませんけど。持ってくるのは無理っぽい。てか、少なくとも簡単じゃない。

 ついでに言うと太陽の寿命はあと50億年くらい。膨張して地球の軌道とかまる飲み。それまでにどうにか、できれば太陽系を離れてないとどうにもなりません。地球より外側の惑星か衛星に移住しればと思われるかもしれません。まぁ、少しの間はそれでかまいません。でも太陽が崩壊したら、太陽系内のどこにいても無駄。放射線もそうですけど、太陽の質量がかなり四散します。つまり、太陽系そのものを維持できません。


 もう少し近くの木星までを考えましょうか。

 ニュー・ホライズンは2007年に木星を通過してます。おお1年くらいだ。ま、木星に行くならね。それとタイミングが合えば。

 この範囲を探査というか行き来するとしましょう。その場合、どっちかというと距離より面積が問題になります。というのも、いつ地球を出発しても木星に行きたいとか、その範囲の資源を持って来たとかということになるので

 太陽-地球間が1AU。面積はπr^2で、π。太陽-木星間が5.2AU。πr^2のrに5.2を入れるので、27πです。面積で27倍です。

 27倍というと簡単に聞こえるかもしれませんが。

 日本の面積が377,900 km^2くらいということなので、この1/27は13,996.3km^2くらい。北海道でも8,3424km^2ほど。それでも日本の面積の1/27に届かない。次に広いのが岩手で1,5275km^2くらい。足しても1/27に届かないというか、むしろ北海道2つの方が1/27に近い。まぁ北海道2つよりいくらか小さいくらいのの27倍が日本の国土の面積です。27倍の違いというのは、そんな感じ。簡単にあちこち出かけられるわけじゃないです。

 というか、北海道だって好き勝手に縦横無尽に走り周るのは大変。

 昔の人は根性があって歩いたり馬だったりしたわけですが、今どきなら北海道から東京に来るのだって飛行機を使うでしょう。

 つまり、この違いにしても、なにか別の方法が必要なんです。んで、人類はその方法を持っていません。まぁ、楽観的には「まだ」ですけど。

 ついでに言えば、「ちょっと地球の公転軌道を一周してくる」なんてことを気軽に言える技術すら人類は持っていないわけです。


 すると、もっと範囲を狭めるしかありません。

 火星への移住ができたとしても、活動は惑星の上しか無理なんです。地球で言えば、よくて月軌道まで。まぁ片道3日かかりますけど。軌道エレベータができれば、まぁ何とか。火星ポートとかも作られるだろうから、いずれは地球と火星の系で考えられるかもしれないけど。

 そしたら、まぁまず燃やすものですね。燃料。石油とか。まぁ、言うまでもなく有限。

 「宮沢弘の科学エッセイ」の「なぜ自然はこんなにも人間に便利なのか?」[*4]で、「化石燃料は、単純に考えても地球の体積は有限ですから、化石燃料の量も当然有限です」と書いときました。まぁ、これはかなり単純な話。実際はもっと厳しい。それらが存在できるのは、地殻の範囲だけ。ちょい気楽に厚さを30kmとしましょう。地球の半径は6,371kmくらい。体積は、(4πr^3)/3で、344,800,000,000πkm^3くらい。えーと、3桁の3乗だから、たぶんいいのかな。あ、πを残してるので気をつけてください。

 んで、まぁ地殻を引いた半径は(6,371-30)kmで6,340kmとしましょう。こちらの体積はrを6,340として、339,800,000,000πkm^3です。

 そこで344,800,000,000πから、339,800,000,000πを引くと、5,000,000,000πkm^3で、πをくずすと15,700,000,000km^3となります。

 15,700,000,000km^3ってそりゃ大きいですけど。344,800,000,000πkm^3に対して5,000,000,000πkm^3の割合は、1.45%かな。

 まぁ燃料に限らず、地球の体積の1.45%しか使えないわけです。

 燃料について言えば、無機合成だともっと内側から湧き出してる可能性もありますけど。

 あと他の資源にしても、まぁ億年単位くらいで考えると次々と湧き出してきますけど。

 で、1.45%というのも実はかなり楽観的。何よし、その1.45%をひっぺがして使うわけにはいきません。そうでなくとも、掘るのが難しいところ、コストがかかりすぎるところなどなどがあるわけです。


 そうすると、地上にはびこった人類は燃料も含めた資源をうまくやりくりするしかないんです。

 燃料は原子力や太陽光とかを使ったとしても、他の資源がねぇ。基盤資源を鉄と石から別のものに変えられれば、あるいはそういうものも導入できれば、何か可能性があるかもしれないけど。

 貧富の差だってまだまだあるし。これをどうにかしようとするとエネルギーも資源も何倍とか、もっとかかるわけです。

 じゃぁ、どうするかというと、資源の配分の最適化を行なうしかないわけです。この場合の「最適化」というのは、「みんなハッピー」とうい意味ではないという点が重要です。どっちかというと「ハッピーの総量が最大」という感じ。もともと一定以上にハッピーだった人は、そのハッピーさが減るんだと思ってくれればいいです。現実にはもっといろいろ面倒でしょうけど。日本でも、だいたいの人はハッピーさが減る対象になります。


 では、最適化されている世界を回すにはどうしたらいいでしょうか。人間が知性を持っていない以上[*5]、外部化されたプログラムよって回すしかありません。


 というように、人類の未来には絶望しかないわけです。

 ですから、現実を、現実をこそ見るSFが、希望を描く時代はとっくに終っています。

 どれほどの絶望を描くかが、今のSFです。これは最近という話ではありません。もう何十年かの歴史のある話です。


 ところで、「最近は宇宙を股にかける的なSFは少なくなった」と言われています。ま、実際にそうです。もちろん、そういうのもありますけど、割合でも絶対数でも一時期に比べてむちゃくちゃ減ってます。

 個々の作品、個々の作家によって、どうしてそうなっているのかの理由は違うかもしれません。ですが、その根底にあるものは、上に挙げた絶望のどれかであろうと私は思っています。

 単純に「ワープ」と書けば済んでしまうはずなのに、そうしない。その点が、風刺小説を除く全ての文学と、SFとの違いでしょう。

 人間などは、あるいは人間関係などはもはや問題ではない。ただただ絶望のみがある。

 それがSFなのだと思います。


   * * * *


*1: http://ncode.syosetu.com/n9931cp/1/

*2: http://gigazine.net/news/20150715-pluto-new-horizons/

*3: http://gigazine.net/news/20150716-pluto-charon-hydra/

*4: http://ncode.syosetu.com/n9931cp/6/

*5: 「SFってなんなんだろう? ――ヒトとSF――」 http://ncode.syosetu.com/n3956co/


2015-Jul-19 T 01:19くらい

+ 気付いた誤字や表現を訂正しました。

+ 1つめの話題(宇宙)について、「鉄だけとかになるのは何兆年とか10兆年とからしいですけど」のあたりを加筆。

+ 2つめの話題(大銀河)について、「2兆年とか先の話」のあたりを加筆。

+ 「兆年という単位の話なわけですが」のあたりを加筆。

+ 3つめの話題(太陽系)について、「太陽の寿命はあと50億年くらい」のあたりを加筆。


2015-Jul-19 T 18:35 くらい

+ *5を加えました。

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