第7話ミステリとSF
注:読みなおしたところ、どうしても付け足して置かなければならないことがあるのに気が付きました。最後に付け足してあります。
先の「SFってなんなんだろう? ――ファンタジーとSF――」では、舞台となる世界や、そこで何が起こるのかについては触れませんでした。正直な所、SFにおいては他の文学ジャンルのなんであってもたぶん書けるからです。今回の副題も「ミステリとSF」としてありますが、細かい話にはなりません。
まぁ誰の作品でも構わないのですが、アシモフの「鋼鉄都市」、「宇宙の小石」(どっちが先だっけ?)なんてのはSFの中でミステリをやってます。アシモフを例に出したのは、アシモフはミステリもSFもエッセイも論文も書いていて、とくにミステリとSFについては「私が書いた他のジャンルの作品を読んでくれる読者は少ない」というようなことを言っていたのを思い出したからです。(タイトルとか忘れましたが、たぶん、アシモフが200冊を刊行したあたりで出した自伝でだったと思います。)
そのあたりからもやもやと考えて思うのが、ミステリとSFだと、話の構成、考え方、あるいは姿勢がまったく逆なのかもしれないという点です。絶対にというわけではありませんが。
「プロット製作の参考資料になればいいなと思い」の最初に書いたことですが。三角形を使って、どういうことを想像しているのかの説明を試してみたいと思います。ミステリはどっちかというと△の感じ(コロンボあたりは例外になりますが)。SFは▽の感じなのではないかと思います。
これではわからないと思うので、説明をやってみようと思います。
ミステリの場合、事件が起きて、その内容がだんだんわかってきて、結末になるというのが普通ではないかと思います。「教えてあげないよ」という姿勢が最初にあるように思います。別の言い方をすれば、「展開にそって描いていくよ」という姿勢でしょう。それに対してSFは、「この世界はこうだよ。さてなにが起こるかな?」という感じではじまるのではないかと思います。うーん、言葉にしようとすると難しいですね。
SFだと、これまた誰の作品でも構わないのですが、ホーガンの「造物主ライフメーカーの掟」を見てみましょう。この作品は、土星の衛星であるタイタンにおいて機械生命が発達というか進化というか、まぁ文明を持つまでの過程の簡単な説明から始まります。この時点で、そういう存在がいるということ、人間とどう関わるのかが描かれるということ、そしておそらく人間も機械生命もくだらないことを考えるやつがいるであろうことが予想できます。
あるいはソウヤーのHトリロジーではどうか。一作目の「ホミニッド」では、出だしで量子コンピュータが稼働し、どういう理屈かはともかく多世界的な量子のもつれ(なのかな?)によって、ホモ・ネアンデルターレンシスが繁栄している世界と繋がってしまいます。もうこれだけで、ネアンデルターレンシスと一悶着あるなということと、それぞれの思惑がいろいろあるなということと、ホモ属同士だから恋愛もあるかもしれないということが予想できます。
言ってしまえば、最初からネタばらししてしまうわけです。そうやって、ネタばらしした上で「じゃ、この世界を楽しんでちょうだい」というわけです。そのあとが尻すぼみではいただけませんが。
SFの「じゃ、この世界を楽しんでちょうだい」という姿勢の場合、どうしたって最初には読者に情報をぶち込もうというような状態になるでしょう。実際、私の経験からだと、SFのそこが苦手という人がやはりいます。さらにハードSFだと、科学の基本的なところとか、あるいは先端のところとかについて、「知ってるよね?」という感じになってしまうことがあります。そこまで説明していたらいつまでたっても中身に入れなかったりという可能性もありますし。で、やはりそういうところも苦手という人がいます。
さて、ではなぜSFではそういうことが起こってしまうのか。それは簡単な話で、読者の頭の中に作品の中の世界を作らないことにははじまらないからです。基本的には現実を舞台としているミステリの場合、その過程は不要になります(とは言え、たとえば1万年前にミステリが書かれていたとしましょう。その場合、その社会の予備知識がなければ話を理解するのは難しいと思います。すると、「社会とかについては自分で勉強してね」ということになると思いますが)。あるいは、突然ですが、ファンタジーの場合だとホビットと指輪物語という強力な世界をいくらかでも読者が知っていれば、あとは幾らかの修正を加えればいいということになります(これは言い過ぎの面もありますが)。SFの場合でもそういうことがないわけではありませんが、そうでない場合も多い。さらに言うなら、SFではそうでない場合が強く許されている。そりゃぁ、「まず頭の中に世界を作ってから」というのに馴染みがない人には受け入れ難いかもなと思います。
で、そういうイメージがあるからなのか、私の場合、世界がだんだん明らかになるという感じのSFは少し苦手だったりします。大雑把に言えば、「言ってねーじゃん。後出しじゃん」という感じでしょうか。とは言え、「世界の『何が』だんだん明らかになるのか」にもよるように思います。
なんだか「異質との邂逅」とも似た感じになってしまいましたが。一SF読みとして、ぼんやりと思ったことでした。
さて、追加分です。
一時期のSFでは、「こんなこともあろうかと」とか「実は」とか「新元素」とか「突然の発見や発明」というのが溢れていました。ですが著名な編集者であったヒューゴーもキャンベルも、「それってどうなの?」と言ってしまった。そう言ってしまったことによって、現在のSFの繁栄(あるいは衰退)への道が拓かれたのでした。(言っておかなければいけないというのは、これだけです。)
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