第2話日本にて

 海外の場合、「SFってなんだ?」という質問に答えるのに一番簡単な方法は「メアリー・シェリーと、ジュール・ヴェルヌと、H. G. ウェルズの系譜にあるもの」というものだと思います。メアリー・シェリーは「フランケンシュタイン; あるいは現代のプロメテウス」だけですが。これがゴシック小説とSFに橋を渡す作品としてとても重要です。


 では、日本の場合はどうなのか。おそらく「海野十三」が始祖だという答えが多いのではないかと思います。ですが、そこでちょと待ってください。海野十三は、すでにある程度SFや探偵小説というジャンルが日本で形をとって来た時代の人ではないでしょうか。そのほんの10年ほど前を見てみると、そこには江戸川乱歩や夢野久作がいます。

 江戸川乱歩も夢野久作も、探偵小説や猟奇小説で有名かと思います。で、個人的には夢野久作のほうが好きですので、ちょっとそちらに寄った話を。

 夢野久作は次に挙げるようなエッセイ(?)を書いています。

* 探偵小説の正体

* 探偵小説の真使命

* 探偵小説漫想

* 書けない探偵小説

(いずれも青空文庫にて読めます。)


 これらから、夢野久作は「探偵小説ってなんなんだろう?」と悶々としていたらしいということが分かります。(もちろん、そういう演出なのかもしれません。)

 あ、ついでにこれも面白いです。

* 江戸川乱歩氏に対する私の感想


 それで何が問題なのかというと、夢野久作も江戸川乱歩も「逃避文学」といういわばジャンルを確立しようと格闘していたということです。ゴシック小説からSFへの格闘があったように、日本でも似たような格闘があったのだと思います。(だいたい、メアリー・シェリーだって、フランケンシュタインをSFとして書いていたわけがありません。)

 「いやいや、夢野久作も江戸川乱歩もSFじゃないよ」という声も聞こえてきます。うん。まぁ、そこはお手本にしていた作品が、やっぱりね。と答えるしかありません。ですが私はそこを問題にしているわけではありません。「逃避文学」といういわば「異端の文学」を確立しようとしていたというところに注目しています。それに「ドグラ・マグラ」は、結構SF風味があると思うんですよ。SFであるとともに、ドグラ・マグラは日本の「不思議の国のアリス」、「鏡の国のアリス」って言ってもいいんじゃないかとも思っています。

 ですが、日本でSFが開花するのは、御存知の通りかなり時間がたってからのことでした。開花してからも「SFってなんなんだろう?」と作家が問い続けています。

 定義できない異端の文学。SFってそういうものなのかもしれません。

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