第7話
中学を卒業した私は家から遠く離れた県立高校に通うことになった。高校に入学が決まり新しい生活が始まると言うのに私は不安でいっぱいだった。小学生の頃からソフトボールを始め中学でも野球部だった私の幼いころの夢はプロ野球の選手だった。だから当然の様に高校でも野球部に入部した。が一つだけ問題があったそれは自宅が遠かったため寮に入らなければならない事だった。私は寮での他人との共同生活に強い不安を感じ上手くやっていく自信が持てなかった。入部してから三日後私は野球部の部長に退部を申し出た。部長は突然のことに驚いていた。夢であったはずのプロ野球の選手になる道を私は挑戦する前から自分で閉ざし諦めてしまった。私に残ったのは言いようのない後ろめたさだけだった。その後私は中学からの親友と一緒に弓道部に入った弓道場と野球場は道路を隔てすぐ隣でいつも部員の声や打球音が響いてた。私は夢に向かって懸命に練習している彼らに引け目を感じずにはいられなかった。他の部と違い弓道部は男子と女子が一緒の道場で練習し先輩後輩の上下関係がそれほど厳しくなく和気あいあいとした雰囲気だった。二年になり6月の高校総体が終わると引退する先輩に替わり私は弓道部のキャプテンになった。その年の夏小丸川の川原キャンプ場で三年生や大勢のOBも参加して弓道部のキャンプがあった。杉の木の林の中にテントを張り昼間は川で泳ぎ夜は遅くまでキャンプファイアーの火を囲んだ。楽しいキャンプのはずなのに私はうかなかった。それは親友のある行動が原因だった。親友には中学時代から交際している彼女がいた。彼女と私は小学校の同級生で私の初恋の人だった。中学一年の時私は彼女に手紙で告白し振られたがそれでも彼女のことが好きだった。中学二年の修学旅行の際彼女と親友が付き合い始めた時私は彼女のことを諦めようと思い他の女子と付き合った。しかし彼女は親友のことが好きだったらしく付き合い始めて暫らくして彼女のほうから別れたいと言ってきた。その親友がいつも一人の女子部員の傍にいて親しげに話をし彼女に好意を持っているように見えた。付き合っている彼女がいるのに女子部員と親しくしている親友に私は怒りを覚えた。私は彼と女子部員を遠ざけようと何かにかこつけて彼女に近づき話しかけた。キャンプファイヤーの火も消えテントに戻り親友と話すと親友は女子部員のことが好きかもしれないと言った。私が付き合ってる彼女はどうする気だと問い詰めると親友はそれはと言いかけ口をつぐんだ。私は初恋の人だった親友の彼女のためを思い女子部員に近づいた。決して親友のためではなかった。キャンプから二か月ほど経ったある日私は別の女子部員に体育館の用具室に呼び出されその女子部員が私と付き合いたいと言ってると告げられた。私は生まれて初めて好きだと告白され驚いた。その女子部員のことはそれまで特別に意識した事は無かったが嫌いではなかった。私は断る理由もなく彼女と交際することにした。付き合い始めたと言っても弓道の練習で毎日顔を合わせそれまでと何も変わらなかった。変ったことと言えば駅までの道を一緒に帰るようになったことぐらいだった。私はそれで満足していた。別に休みの日に二人だけで会ったりしようとは思わなかった。年が明け暫らくして彼女から部室に呼び出された。そして突然別れてほしいと告げられた。私が好きな人が出来たのかと尋ねるとそうじゃないと言って目に涙を一杯貯めていた。私にはその涙の訳が分からず、もう何を言っても無駄だと思った。私は黙って扉を開け彼女を一人残し部室を出た。いくら考えても私には何故彼女が別れたいと言い出したのか理解できなかった。私は彼女と顔を会わせるのが辛く翌日から練習に出なくなった。そして一週間後キャプテンでありながら弓道部を辞め陸上部に入りやり投げを始めた。三年に進級する直前の事だった。何の相談もなく弓道部を辞め陸上部に入った私に親友はそれから暫らく口を効かなくなった。私は彼女のことを忘れるためやり投げに打ち込んだ。がむしゃらに何かやっていなければ頭がおかしくなりそうだった。私は彼女のことを忘れるためただ我武者羅にやり投げの練習に打ち込んだ。今思えば彼女の気持ちは何も考えず自分のことしか考えていなかった。それでも練習に没頭したことでやり投げを始めて1年も経たずその年の県の十傑に入る成績を残す事が出来た。九州の大学や企業から推薦の話がきていると顧問の先生から言われたが東京の大学に行きたいと思っていた私は迷っていた。ちょうどそんな二学期の終業式の日、練習の無理がたたったのか私は激しい腹痛に襲われた。早退して学校の近くの病院で見てもらうと急性肝炎で直ぐに入院が必要だという事だった。私はすぐに母親に連絡し家の近くの病院に入院した。推薦の話は立ち消えとなり卒業までの約二カ月私は病院のベッドにいた。かろうじて東京の有名私立大学一校を受験したが初めから結果は分かっていた。
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