第153話 最終決戦へ
時間は午前9時50分。
そろそろ出撃する頃合いだ。
「ローン・フリート全艦、出撃準備は整ってますか?」
「エンジン4基、重力装置、全兵装の調子は良好。魔力カプセルも装填完了。あとはアイサカ司令の指示だけだな」
《こちらダルヴァノ。本艦の出撃準備は完了しています。いつでもご指示を》
《あたいらはいつでも準備万全! すぐにだって出撃できるよ!》
艦長たちの、威勢の良い報告。
彼らが頼もしいと思ったのは、これで何度目だ?
訓練もまともにやっていない素人司令の俺が、ここまで生き延びたのも、この3人のおかげだ。
今回の戦いも、よろしく頼みますよ。
「全艦準備完了ですね。ガルーダの操舵はお任せします」
「了解しました」
魔王との戦いを控えて、俺が魔力を消費することは許されない。
俺は魔力を蓄えておかないとならない。
そのためガルーダの操舵は、全て部下に任せた。
ガルーダ、ダルヴァノ、モルヴァノは、準備万全。
ロミリアやフォーベック、ダリオ、モニカ、スチア、リュシエンヌも、やる気は満々。
そして俺も、覚悟は決めた。
異世界者として、やらねばならぬことへの覚悟。
久保田と戦うための覚悟を。
「ローン・フリート、出撃!」
俺の指示が艦橋に響くと、次には、エンジン音が俺たちを震わせた。
椅子から伝わる轟音と振動は、慣れたのもあってか、もはや心地よい。
一方で重力装置は音もなく、ガルーダを空へと浮かばせた。
艦橋の窓の向こうに広がる光景は、大海原から大空へと、すぐに変わっていく。
上昇する速度と高度。
薄い雲を抜け、宇宙へと向かうガルーダ。
それにも関わらず、艦内重力装置の調整が利いているため、Gなどは感じない。
魔力レーダーを使えば、すぐ後ろにダルヴァノとモルヴァノが付いてきているのが分かる。
第1艦隊との合流地点はまだ先だ。
青い空は濃紺の空へと変わり、そして青は後方に、目の前には暗闇が広がる。
人間界惑星から宇宙へと向かう際の、徐々に変わるこの景色がなんとも美しい。
ローン・フリートが全艦揃ってこの景色を見るのははじめてだ。
いつもはマグレーディからの出撃であるため、月から宇宙へ、であった。
つまり景色は最初から宇宙であり、月を出たところで、宇宙から宇宙に行っただけにしか感じないのだ。
惑星を離れるには、やっぱりこういう景色が似合うな。
「第1艦隊を確認、合流します」
宇宙に到着し、人間界惑星の光に照らされる頃、乗組員の1人がそう言った。
確かに、11時の方向には豆粒のような第1艦隊の姿が見える。
フェニックスを筆頭とした、5隻の軍艦。
《遅えぜ相坂! さっさとこっち来い!》
超ビッグで最強の人生勝ち組勇者の、イラッとする言葉。
あんな風に言われると、是が非でも合流なんかしてやるかと思ってしまう。
まあ、久保田を魔王から解放するためだ。
耐えろ。
村上の横暴に耐えろ。
「こちらローン・フリート司令の相坂。これより第1艦隊と合流する」
《早くしろ! エリノルさんから作戦聞くぞ!》
「……作戦を聞くだけなら、急ぐ必要ない気がするが?」
《はあ!? さっさと作戦聞いて、さっさとクボタ解放すんだろうがよ!》
おや、村上が久保田の解放を第一に考えてくれるとは。
さすがに友達とか絆とかいう話になると、アイツもまともになるんだな。
《エリノルさん、合流したぞ》
《報告ありがとう。マモルちゃん、聞こえてる?》
「聞こえてます」
《じゃあ作戦を伝えるわ》
俺は魔王――久保田と戦う。
そして久保田を救い出す。
どんな作戦だろうと、それだけは曲げられない。
《まずは作戦の前に、ひとつだけ情報を。ジョエルさんによると、魔王の魂は魔王の体の意思より優越するらしいわ。ナオトちゃんの魔力自体が、魔王になっちゃてるからね。それがどういう意味か、分かる?》
久保田はすでに、魔王に支配されてしまったということだろうか。
もしそうだとしたら、久保田を救うことは不可能かもしれない。
絶望的だ。
しかしエリノルの次の言葉は、俺に希望を与えた。
《ナオトちゃんの魔力は魔王でも、体自体はナオトちゃんってことよ。つまり、ナオトちゃんの魔力が減れば減るほど、支配率が変わって、魔力がなくなれば魔王も消える。そしてナオトちゃんは帰ってくる》
ともかく魔力を使い切らせば良いってことか。
ええと、確か魔王の魔力は60万MP。
だけど佐々木は不完全な状態だったから、久保田も不完全な40万MPのはず。
40万MPを使い切らせるって、かなりきついぞ。
超高速移動13回、防御壁展開約4時間、光魔法約1000発……。
いや、どんなに難しかろうと、やらなきゃならない。
《その上で、共和国艦隊参謀部は以下の作戦を決定したわ。最初にマモルちゃんがナオトちゃんを説得。それがダメなら、第1艦隊の援護でローン・フリートが突撃、スザクだけに集中攻撃を行ってもらう。ともかくナオトちゃんに魔力を使わせるのよ》
作戦としてはめちゃくちゃだが、それ以外に方法はないな。
だいだい、どうやって久保田に魔力を使わせる?
超高速移動を強要するのは無理だろうから、防御壁と光魔法を使わせるしかない。
フェニックスも加われば良いが、たぶんスザク以外の敵艦で手一杯になるだろうし。
「フォーベック艦長、ダリオ艦長、モニカ艦長、魔力カプセルの数は?」
「14個の42万MPだ」
《ダルヴァノは10個、30万MPです》
《あたいらは11個33万MPだよ》
魔力カプセルは現在品薄。
それでも合計すれば、魔力量はこっちが圧倒的。
それならば、やっぱり防御壁と光魔法を使わせるしかないな。
ところで、ひとつ疑問が。
リュシエンヌの件といい、援護の件といい、村上が裏方に徹してるのが気になる。
「なあ村上、お前は援護だけで良いのか? 勇者様なんだから俺が魔王を倒す、とか言わないのか?」
《何言ってんだてめえ。俺は魔王と交渉して戦争を終わらせた、超ビッグな最強の人生勝ち組の勇者様だ。勇者様が倒すのは魔王で、久保田じゃねえ》
《実はマサトちゃん、マモルちゃんの援護をするって自分から名乗り出たのよ。友達との喧嘩は、マモルちゃん自身で片をつけるべきだって言ってね》
《お、おい、エリノルさん! 余計なこと言うな! 勘違いすんなよ相坂。俺はてめえ1人じゃ何にもできねえだろうから、手伝ってやるって言ってるだけだ!》
ほお、そういうことだったか。
おそらく村上は、久保田との喧嘩は自分で片をつけろ、ただお前は何もできないから俺が手伝ってやる、と言いたいのだろう。
ムカつくことに変わりはないが、これは許せる。
アイツは俺と久保田の関係を考慮して、裏方に徹してくれたんだ。
まさか単純バカの村上に感謝する日が来るとはね。
《作戦は以上よ。相手は17隻、こっちは8隻。戦力の差は大きい。だけど、マサトちゃんとマモルちゃんならできると、私は信じる。同じ異世界者、いいえ、同じ地球人として、苦しむナオトちゃんを救ってあげて。では、幸運を祈るわ》
エリノルの言葉は、参謀総長としての言葉だけには聞こえない。
今の彼女は、ただ俺たちを信頼し、ただ俺たちの無事を祈る、1人の人間として語っているのだろう。
無論、エリノルが無事を祈るのは、俺と村上、そして久保田である。
そんな参謀総長を、俺たちが裏切るわけにはいかない。
「アイサカ様、クボタさんを助け出しましょう」
「ああ」
こっちにはロミリアもいるんだ。
村上やリュシエンヌ、フォーベック、スチアもいる。
不安なんかない。
《よし! 行くぞ! 第1艦隊、超高速移動!》
「ローン・フリート全艦、超高速移動!」
待ってろよ魔王。
俺たちがお前を倒し、久保田を救ってやる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます