第154話 6隻の艦影
超高速移動を終えた先。
俺たちの目の前は、禍々しさを感じずにはいられない、赤黒く輝く魔界惑星に覆われた。
地上からは約400キロのこの地点。
久保田の艦隊はどこだろうか?
魔界からの情報によると、久保田の艦隊は魔界首都上空に集結しているらしい。
だから俺たちが超高速移動をしたその場所は、魔界首都上空近辺だ。
見渡せば、久保田の艦隊は見つかるはず。
「いました! 10時の方向です!」
誰よりも早く久保田の艦隊を見つけたのは、やはりロミリアだ。
彼女の魔力レーダーは、やけに質が高いからな。
なんでロミリアは俺の魔力使ってるのに、俺は早く見つけられないのだろう。
受け取る側の問題?
俺も敵を早く見つけられるよう、いつかロミリアにコツを教えてもらおう。
さて、10時の方向に目を向け、遠望魔法を使ってみる。
すると確かに、とある艦隊がそこには浮かんでいた。
もはや見慣れてしまった、ドラゴンのような形をする軍艦が多数。
幾度か苦戦させられた、イカのような形をした軍艦も数隻。
そして中心には、魔界の軍艦とは似ても似つかない、ガルーダやフェニックスに似た軍艦が1隻。
スザクを中心とした、久保田率いる艦隊だ。
こっちとあっちの距離は、おそらく300キロ程度。
戦闘がはじまるような距離じゃない。
今のうちに、部下に敵の詳細を聞いておくべきか。
「敵の詳細は?」
「敵艦隊の編制は、スザク1隻、旗艦級の大型艦が3隻、戦闘艦は13隻、合計で17隻です。揚陸艦やドラゴンの姿はありません」
第1艦隊とローン・フリートは、合計で8隻だ。
向こうは倍の数の軍艦を集めている。
戦力差は歴然。
厳しい戦いになるだろう。
にしても、魔界首都の上空で集結する久保田の艦隊は、まるで俺たちを待っていたかのようである。
これは、久保田に呼ばれているという意味なのだろうか……。
それとも魔王が、〝勇者〟の到着を待ち構えているという意味なのか……。
「あ! 2時の方向にも、魔界艦隊がいます!」
そんなロミリアの言葉に、俺は驚く。
おそるおそる2時の方向に目を向けると、いた。
数は多くないが、ドラゴン型とイカ型の魔界艦隊が。
「あっちの艦隊の詳細は?」
「少々お待ちください。……どうやら旗艦級が1隻、戦闘艦が5隻のようです。合計6隻の艦隊です」
おいおい、マジかよ。
そりゃキツい。
「じゃあ、俺たちは23隻を相手にするのか? 面倒どころの話じゃないぞ!」
「ここは一度出直して、エリノルさんたちと相談した方が良いのでは?」
「そうだな……」
まったくロミリアの言う通り。
しかし、そんな余裕はあるのだろうか。
もし出直し最中に久保田が人間界惑星を攻撃すれば、戦争再開は必至。
アイツを止めるのは、今しかないのも事実。
「あの6隻の艦隊、こっちに向かってきてやがるなあ。あと数キロで交戦距離だ」
フォーベックの言葉通りなら、決断は急ぐべきだ。
戦うべきか、退くべきか。
直前になって悩みだした俺だが、村上は違う。
《さっさと攻めちまおうぜ。最強の俺様が、この程度で負けるわけねえだろ》
根拠不明の自信と、やる気に満ちあふれた村上の言葉。
司令としての責任感は一切感じられぬ言葉に、俺は手厳しく反論しようとする。
反論しようとしたのだが、ある魔力通信によって、その必要はなくなった。
《共和国艦隊、ローン・フリート、俺たちは君たちの側だ》
《我が艦も、異世界者を手伝おう》
《せっかくの終戦を、台無しにはしたくない。一緒に戦おう》
《我々もだ》
《あのローン・フリートと第1艦隊が味方とは、光栄だよ》
次々と寄せられる、俺たちとの共闘宣言。
どうやら、こちらに向かってくる6隻の艦隊からの通信のようだ。
少し前なら敵同士であったかもしれぬ、5人の魔族艦長たち。
彼らの言葉に続いたのは、6隻の艦隊の司令である。
《こちらエルフ族族長のトメキアだ。異世界者たち、微力ながら、我々が君たちを補佐し、共に戦わせてもらう》
さすがはトメキア。
まさか援軍の艦隊を引き連れて現れるとはね。
嬉しい登場をしてくれるじゃないか。
6隻の艦隊は敵ではなく、トメキア率いる俺たちの援軍であった。
ということは、こちらの戦闘艦は合計で14隻。
未だに久保田率いる艦隊よりは、戦闘艦の数で負けている。
だが戦力の差は、だいぶ解消したはず。
おかげで戦争再発は遠のき、久保田解放が近づく。
《村上だ! 助けてくれてありがとよ!》
「こちらローン・フリート司令相坂。トメキアさん、援軍、ありがとうございます」
《いや、感謝される程のことではない。むしろ、厳しい言葉を浴びせられても良いぐらいなのだ》
「え? どういうことです?」
《クボタが先代魔王の正体、つまりササキに関する情報を暴露したのだ。結果、多くの魔族は戦争終結に賛成しながらも、クボタが新魔王になるのを黙認、クボタとの戦いを拒否したのだ。今こそ魔界と人間界の団結力を示すときだというのに……!》
「それって、ほとんどの魔族が日和見したってことですか?」
《その通りだ。本来ならば魔界艦隊を総動員し、異世界者率いる艦隊に味方したかったのだが、援軍はわずか6隻となってしまった。すまぬ》
なんてこったい。
魔族も一筋縄じゃいかないようだ。
こりゃ戦争終結後の人間界と魔界の関係に響きそうだな。
ま、政治についてはヤンたちに押し付けよう。
そもそも俺は、久保田との戦いは異世界者が終わらせるべきだと思っている。
だから魔界が俺たちに助太刀するかしないかは、考えていなかった。
魔界艦隊の援軍など、最初から計算に入れていない。
そんな俺にとって援軍は、トメキアは〝わずか〟6隻と言うが、俺にとっては6隻〝も〟なのである。
はっきり言って、トメキアが謝る必要はないし、俺は本気で感謝しているのだ。
《おいトメキアさん、難しいことはどうでもいい! トメキアさんが俺たちの援軍に来たってだけで良いじゃねえか! それに、最強の勇者様には6隻の援軍で十分だしな!》
単純バカの言葉も、今回は素晴らしい言葉に聞こえる。
たぶん村上は、何も考えずにそう言ったのだろう。
しかしこの状況で、その言葉は、受け取る側にとって最高の言葉である。
《ムラカミ司令殿……! 今、目が覚めた。細かいことはもはやどうでもよい。我々はできる限りのことをするまでだ。さあ、共に戦おう!》
トメキアは村上の言葉に感銘を受けてしまったようだ。
魔力通信だけでも、彼女の表情が想像できる。
彼女はきっと、はっとした顔をしながらも、晴れ晴れとした笑みを浮かべているはず。
やれやれ、単純バカも侮れない。
「不思議です」
小さな笑みを浮かべたロミリアの呟き。
どこか可笑しそうにするその表情。
「不思議って、何が?」
「あ、いえ、ムラカミさんのことです」
「ああ、なるほど」
ロミリアの言いたいことは分かる。
村上は不思議なヤツだ。
どう見たってアホだし、バカなのに、なぜか物事がうまくいく。
おそらくだが、地球でもそういう生活を送ってきたのだろう。
アイツ、根っからの勇者肌なのかもしれん。
対して俺と久保田は、勇者にはなれなかった。
単純に素質がなかったのだろう。
だからこそ俺と久保田は、友達になれた。
でも、魔王になって人間界惑星を支配しようなんて、俺は認められない。
部外者が恩恵を施すことはあっても、損害を与えることは許されない。
勇者になれなかった異世界者の暴走は、勇者になれなかった俺が止めないとならない。
恵まれたことに、俺には第1艦隊とトメキア艦隊が味方している。
これなら、魔王を倒すことはできる。
久保田を救うことができる。
「トメキアさん、作戦を伝えます」
戦いは目前だ。
この戦い、目を背けることも、逃げることもできない。
いくら駄々をこねようと、めんどくさがろうと、関係ない。
やるべきは、勝つことだけだ。
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