第67話 改造完了
ヤンがピサワンから帰ってきたのは、12月になってからだった。
彼によると、ピサワンで会談したパーシングとトメキア両リーダーは、講和派勢力の今後の方針を固めたようである。
今後の展望はこうだ。
魔界惑星ではジェルンの死によって、戦争に慎重な勢力が増えているとのこと。
加えて、最近の魔王は戦争にあまり興味がないそうだ。
そうしたことから、魔界軍が人間界惑星に攻撃を仕掛けることは、しばらくの間あり得ないとトメキアは考えている。
よって、講和派勢力魔界側は、これから味方を増やす方針に決まった。
講和への大きな前進と言えるだろう。
一方の人間界惑星は、パーシング曰く少々面倒なことになっているそうで。
というのも、魔界の殲滅を目指すリシャールは、そのために強大な力が必要であると考えているようだ。
その力を得るため、邪魔になるであろう者たちを懐柔、傀儡化、もしくは潰そうとするだろう。
リシャールには、それをやり、成し遂げる能力がある、とパーシングは見ている。
あれだけ太鼓持ちをしていれば、そのくらいは見抜けるらしい。
そこで講和派勢力人間界側は、リシャールの権力拡大阻止という方針に決まった。
今思うとマグレーディや島嶼連合の傀儡化は、権力拡大のための布石だったんだな。
そういやリシャールは、俺に対してたまに味方するようなことを言っていた。
もしかすると、俺たち異世界者のことも懐柔しようとしているのかもしれない。
だとすると、村上はまんまと懐柔されたな。
魔界が落ち着いたと思えば、今度は人間界が騒ぎだす。
あ~面倒くさい。
講和派勢力の今後の方針からは、俺たち艦隊にどんな任務が与えられるのか見当がつかない。
リシャールの権力拡大阻止なんて、どう考えても艦隊の出る幕はない。
共和国艦隊と戦争するなら話は別だが、そんなことはないだろうし。
まあでも、準備は必要だろう。
そろそろガルーダの改造も終わるようだしな。
12月19日、ロミリア先生に歴史の授業をしてもらっていた俺のところに、突如フォーベックがやってきた。
彼は俺の部屋に入るなり、単刀直入な言葉を放つ。
「ガルーダの改造が終わったぜ。完成品をアイサカ司令と嬢ちゃんに見せてやる」
遂にこの日が来たようだ。
ジェルンとの戦闘でガラクタになりかけたガルーダが、完全復活するこの日が。
あれから約2ヶ月、思ったより早い復活だな。
「もう修理が終わったんですか? すごく早いですね」
驚き顔でそんなことを口にするロミリア。
彼女も俺と同じことを思っていたようだ。
これに対するフォーベックの回答、気になる。
「それに関しちゃ俺も驚いた。船の建造・改造っつうのは、魔力が使えりゃ基本的に組み立てはすぐに終わる。時間が掛かるのは設計だ。その設計を、メルテムさんが3日で終わらせちまってよ」
「3日でですか!?」
さらに驚くロミリア。
俺だってある意味で驚いた。
設計がわずか3日って……それ大丈夫なのか?
欠陥とかないだろうな。
しかしまあ、天才マッドサイエンティスト少女なら、きっとうまくやってくれる。
ここはメルテムを信じよう。
俺たちはフォーベックに連れられ、ガルーダのもとに向かった。
ガルーダが改造されていたドックは、今までと違い静けさに包まれている。
どうやら本当に修理・改造は終わったようだ。
ドックを一望、つまりガルーダの全貌を見渡すことのできる1室。
俺とロミリアは、ここではじめて生まれ変わったガルーダを目にする。
さてさて、どんな風に生まれ変わったのかな?
穴だらけ、歪んだ鉄まみれの、ほぼガラクタ状態だったガルーダは、新品のような輝きを取り戻していた。
艦首、前方スラスター、武装、エンジンなど、吹き飛んでいた箇所は全て元通りである。
塗装も再度されているようで、ひしひしと感じた鉄感が薄まった。
特徴である緑の一本線も濃くなり、右翼は修理された箇所だけ真緑に塗られている。
まるで片翼のなんちゃらだ。
ただ、見た目は今までとほぼ変わらず、ちょっと拍子抜けしてしまう。
これじゃ改造感は皆無で、普通に修理をしただけにしか見えない。
「なんだか、はじめてガルーダを見た時よりも綺麗ですね」
ロミリアには俺も同意する。
この世界に召還され、はじめて目にしたガルーダは、もう少し塗装がはげていた。
それが軍艦らしさを醸し出していたが、修理されたガルーダは新品そのもの。
頼りがいが減ったような気もする。
あれだ、歴史的建造物を修復したら、途端にちゃっちくなったようなもんだ。
「嬢ちゃんの感想は無理もねえ。俺がガルーダの艦長になった時よりも綺麗だからなあ」
まさかの発言。
確かフォーベックが艦長になったのは6年前だ。
つうことはなんだ、少なくとも6年以上は塗り替え作業をしてないってことか。
こっちの世界って点検作業とかしないのかよ、おい。
「じゃ、艦内を案内してやる」
見た目に変化はないため、フォーベックはさっさと次の行動に出た。
今のところ俺は拍子抜けだが、艦内は違うことを願う。
艦内が、改造という文字がそのまま連想できるような状態であることを願う。
「フォーベック艦長にガルーダを案内してもらうなんて、アイサカ様とはじめて出会った日を思い出します」
ガルーダの昇降口前で、ロミリアが昔を懐かしんでいた。
言われてみれば、確かに今の状況はあの時と似ている。
あれから約半年か。
ロミリアやフォーベックと出会って約半年。
意外と長い月日が経ってるんだな。
「あの時は、アイサカ様から溢れ出る愚痴に困惑していました。今は慣れましたけど」
「え? 俺、そんなに愚痴ばっか言ってた?」
「いえ、口にはしていません。ただ、魔力を通して愚痴が流れ出ていまして……」
「ああ、そういうことか。うん? 今は慣れたってことは……」
「今も流れ出てます」
「マジかよ……」
「ニャー?」
はじめて会ったその日から、彼女は俺の心で踊り狂う愚痴を、自然と聞かされてたのか。
どうもロミリアが俺を愚痴っぽいと言い続けるわけだよ。
にしても、ミードンは話についていけてない様子だ。
そういえばコイツは、あの時にはまだいなかったもんな。
艦内をしばらく歩いていると、ロミリアがある場所で歩みを止めた。
どうしたのかと見てみると、彼女は、ガルーダの建造と改造に携わった人間の名が刻まれたプレート、その前に立っていた。
そう、彼女のお父さんの名が刻まれたプレートだ。
「そういや、ジェフが関わった重力装置の防護壁は、まったくの無傷だった。修理も改造も必要ない、完璧な状態だったぜ」
フォーベックがロミリアのお父さんの偉業を讃える。
するとロミリアは、目を丸くしながら、しかし小さく微笑む。
この微笑みはたぶん、お父さんを自慢する微笑みだろう。
俺にはそう見えた。
なんともロミリアは嬉しそうである。
ところで、プレートに刻まれた名前がかなり増えているな。
マグレーディの職人たちの名前が刻まれた結果だろう。
メルテムの名前もある。
刻む場所が少なかったのか、最後のほうなんか字が小さくなっているぐらいだ。
いやはや、いろんな人たちのおかげでガルーダの今があるってことを、改めて認識させてくれる、良いプレートだよ。
「ニャーム!」
おや? ミードンがロミリアのお父さんの名前を見て、元気よく鳴き出した。
どうしたんだろうか……。
「ミードン、もしかして、お父さんのこと知ってるの?」
「ニャーム! ニャニャニャ、ニャー!」
「へ~、ぬいぐるみの頃の記憶もあるんだ」
「ニャー、ニャニャ」
「え!? そ、そのことは忘れてよミードン!」
なんだなんだ、ロミリアが恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてる。
ミードンは何を言ったんだ?
もしやロミリアの黒歴史だろうか。
何とも興味深い話だ。
「アイサカ様、私は日々の思いをミードンに言ったりしてませんからね!」
随分と必死な様子のロミリア。
そうか、日々の思いをミードンに話していたのか。
うむ、そこまで分かればこれ以上は気にすまい。
「ヘッヘッヘ、嬢ちゃんも女の子だなあ」
「う、うるさいです!」
なんともオヤジ臭いフォーベックの言葉。
これに余計に顔を赤くし、恥ずかしがるロミリア。
彼女の仕草がなんとも可愛い。
こりゃ良いもの見たな。
「じゃ、案内を再開するぜ」
おっと、危うく忘れるところだった。
今は生まれ変わったガルーダの案内をされているところだったな。
今の所変わった様子はないが、楽しみだ。
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