第68話 ガルーダ復活

 操作室に到着した俺たちを待っていたのは、まさかの言葉であった。

 

「司令さんも艦長も、来るの遅い。ずっと待ってたんだけど」


 開口一番で俺とフォーベックを唖然とさせた少女。

 今回のガルーダ改造の設計をわずか3日で終わらせた、メルテムだ。

 彼女はすぐさま歩き出し、改造内容の説明をはじめる。


「ったく……あのペースには困ったもんだ」


 珍しくフォーベックが愚痴った。

 彼はこの2ヶ月間、ずっとメルテムと一緒に働いていたんだもんな。

 お疲れさまです。


「じゃじゃーん! どう?」


 いきなり、謎のドヤ顔をこちらに向けるメルテム。

 操作室を見渡してみると、明らかに今までとはレイアウトが違っている。

 魔術師が座り魔術を込める場所が減り、代わりに魔力カプセルを装着する箇所が増えたようだ。

 これを設計したのがメルテム。

 彼女のドヤ顔に、俺はどう答えれば良いんだ。


「解説を頼む」


 まずはこれだ。

 解説してくれないと分からん。

 メルテムは徐々に興奮しながら、解説をはじめた。


「3万MPを溜められる魔力カプセルが、ここには50個装着できるの。つまり、それだけで150万MP! 超高速移動50回分! 光魔法3947発分! 防御壁16時間展開分! すごいでしょ! ねえ、すごいでしょ!」

「……すげえ」


 素直に驚くしかない。

 こりゃもう最強じゃないか。

 弱点がない。


「ただし、きちんと聞いてね。これだけの魔力を一気に使うと、魔力を通す管が耐えられなくて、しばらく冷却しなきゃいけなくなるの。しかも複雑だった管をまとめて、簡素化したから、管1本1本にかかる負担が増えちゃった。だから気をつけてよ」


 いわゆるオーバーヒートってやつか。

 それなら大きな疑問点がある。

 問いたださないと。


「管への負担は分かってて、なんで負担を余計に増やした?」

「それ、私の設計への文句?」

「そういう訳じゃ――」

「今までの管はバカみたいに複雑で、魔術を込めてから発動までにタイムラグがあったの! だからそれを簡素化して、タイムラグを減らしたわけ! 戦闘は1秒の遅れも許されないんでしょ? だから文句を言われる筋合いはない!」

「……じゃあ、どのくらいの負担を管にかけちゃいけないかぐらい教えてくれ」

「防御壁を展開しながら超高速移動を連続でやるとか、そういうことしなきゃ大丈夫。つまり、普通に戦ってれば問題なし! 私の設計を舐めるな!」


 なぜだか機嫌が悪くなり、そのくせ笑顔のメルテム。

 もうコイツの情緒不安定さに付いていけない。

 

 まあともかく、これで2つの大きな改造点が判明した。

 1つは魔力カプセルの大量搭載による、魔力量の増強。

 そしてもう1つが、魔力を通す管の簡素化。

 オーバーヒートといった弱点はあるが、これは確実に戦闘能力の向上と言えるだろう。

 冗談じゃなく、ガルーダは人間界惑星で最も強い軍艦になったのかもしれない。

 下手すると魔界惑星の船よりも強そうだ。

 

「どや?」


 相変わらずドヤ顔のメルテム。

 おそらく俺が褒めるまで、このドヤ顔は続くだろう。

 面倒だしムカつくので、テキトーに褒めておくか。


「完璧な設計、スゴイネー」

「でしょ! やっぱり司令は分かってくれる!」


 俺の心のこもっていない言葉に、メルテムは無邪気に喜びはじめた。

 なんだろう、悪いことをした気がする。

 次はきちんと褒めておこう。


「じゃ、次は艦橋だな」


 操作室の改造はこれでおしまいなのか、フォーベックは艦橋に俺たちを連れて行った。

 もちろんメルテムも一緒にだ。

 道中、彼女は超高速移動に関しての研究結果を、勝手に話しはじめる。


「前にさ、秒速32万7765・13キロを超えると、位置情報解析機が不思議な動きをするって言ったよね。あれって光の速度より早いんだ。つまり、光の速度を超えると、超高速移動中の船は不思議な動きをする」


 なんかそんな話をしていたようないなかったような。

 それでも、超高速移動が光の速度を超えているのは、何も驚くことじゃない。

 魔界惑星はかなり離れた距離にあるが、そこに到着するまで数十秒だったからな。

 むしろ光速の何倍もの早さで飛んでいると考えるべきだろう。


「この不思議な動きってのを解析したら、興味深い結果が出たんだ。なんだかまるで、ある地点を経由して目的地に向かってる、そんな感じなんだよね。このある地点についてはまだ不明だけど」

「……それってワープ航法じゃないのか?」

「ワープ航法?」

「別次元を経由して目的地に向かうっていう方法。実現はしてないけど」

「それを早く教えてよ! ああぁぁあ! そういうことかぁぁ!」


 俺の何気ない一言が、メルテムの何かに触れてしまったようだ。

 彼女は俺たちへの改造内容の解説を放棄して、自室に向かって走り、消えてしまった。

 なんだアイツ、まるで突風じゃないか。


「……メルテムさん、どっかに行っちゃいましたね」

「ったくしょうがねえ。あとは俺が解説する」


 唖然とするロミリアと、呆れきった様子のフォーベック。

 特にフォーベックの溜め息は、様々な苦労を物語る。

 もう一度言おう、お疲れさまです。


 艦橋に到着し、俺はいつもの司令席に座る。

 久々の司令席は、なんとも落ち着くな。

 巨大な鉄のかたまりに埋もれるこの感じ、最高である。

 やっぱり慣れた椅子は良いね。


「ちょっくら魔力を使って艦内を探ってみろ。何かに気づくはずだ」


 俺は言われた通り、微弱な魔力をガルーダに通し、全体像をイメージする。

 実際にやってみると、魔力を通す管の簡素化の意味が理解できる。

 今までよりも早く魔力が対象に到着し、しかも選り分けが容易なのだ。

 そんなに気にしたことはなかったが、管の簡素化で随分と変わるもんだな。


 それでだ。

 魔力を通してみて気づいたんだが、両翼に知らない装備が追加されている。

 形は大砲っぽいんだが、レーザーを発射するものとは似つかない。

 どっちかというとランチャーか。


「両翼に新しい武装が増えました?」

「お、気づいたか」


 どうやら正解らしい。

 ならばこれはどのような武装なのか。

 フォーベックの説明に集中しよう。


「そりゃ、アイサカ司令が提案した砲弾ってヤツだ。強化した鉄を、熱魔法と炎魔法を応用した爆発魔法で撃ち出す武装だな」


 ああ、あれか。

 改造前、俺はいくつか改造内容を提案していた。

 スーパーレーザーとか波動エネルギーは却下されたが、いくつかは採用されたんだっけ。

 その内の1つが、この大砲。

 防御壁が魔法以外を防げないってところに目を付け、なら物理で攻撃しようと提案したものだ。

 両翼に2つずつの計4つが搭載されてみたいだな。


「射程は21キロあるが、熱魔法や光魔法と違って当てづらい。有効射程はせいぜい5キロ程度だと考えた方が良いだろう。それに、砲弾も1つの大砲で30発までだ。使いどころはきちんと考えるべきだろうよ」


 両翼に戦車を4台ほど乗っけた感じか。

 まあまあ悪くない装備だ。

 ただフォーベックの言う通り、使いどころは考えるべきだろう。

 有効射程5キロとなりゃ、向こうが止まってる状態じゃないと普通に当たらない。

 相手の速度が遅く、確実に当てられる時にしか、用途がなさそうだな。

 ま、防御魔法に邪魔されない装備は重要だ。

 ないよりはあった方が良いだろう。

 

 それにしても、大砲以外に新しい装備は見当たらない。

 ミサイルとVLSとか、レールガンとか、プロトン魚雷とか、いろいろと提案したはずなんだがな。


「フォーベック艦長、他に新しい装備は?」

「ない」

「……え?」


 ガルーダの改造って、これだけ?

 魔力カプセル搭載による魔力量増強と、管の簡素化と、大砲の搭載だけ?

 なんだか、もうちょっと魔改造してもらっても良かったんだけど。


「メルテムによると、ガルーダは元から性能が高いそうだ。変に改造するより、魔力を増やして、元の性能を強化した方が効果的だったんだとよ」


 なるほどね、結構な説得力だ。

 でもやっぱり、せっかくの改造なんだから、もう少し様変わりしてほしかった。


「細かい部分での改造は多い。ま、あとはアイサカ司令本人が探してみろ」


 解説する程じゃない改造点が多いってことなのだろうか。

 フォーベックはそれだけ言って、いつも通りの艦長席に座り、そのまま解説は終わってしまった。

 ガルーダでの予定がない俺は、仕方がないのでロミリアを連れて艦内探索だ。

 細かい改造点を全て見つけてやる。


 艦橋を出てすぐ、俺は気づいた。

 なんと艦橋近くにトイレが設置されたのだ。

 今までは随分と歩かないと行けなかったトイレが、こんなに近くに。

 これはわりと嬉しい。

 

 その後もガルーダを練り歩いたが、改造点はホントに地味だった。

 部屋の広さが違うとか、貨物室の扉の位置が違うとか、そんなんばっかりだ。

 意地になって探してみても、電球の数が違うとかそれぐらい。

 まあ、2ヶ月で修理と改造を終わらせたんだから、こんなもんなんだろうかね。


「アイサカ様……もう十分じゃないですか?」

「ニャー……」


 俺の意地に付き合わされ、マラソンでもしたかのように疲れ果てるロミリアとミードン。

 今回の改造はあれだ、魔力を使って組み立てたから、ある意味で魔改造だ。

 そういうことにして俺は自分を納得させ、探索を打ち切った。

 これ以上にロミリアたちを疲れさせるのは、ちょっと可哀想だしね。


 見た目的には微妙だったガルーダの改造。

 しかし魔力が150万MPにまで増えたのは頼もしい。

 これで事実上の異世界最強の軍艦になったからな。

 

 いよいよ講和派勢力は本格的に動き出している。

 これから俺はどのような任務を遂行しなければならないのか。

 先のことは分からないが、ガルーダの準備は万全だ。

 講和のため、決意のため、俺はこれからも戦い続ける。

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