第42話 対ドラゴン部隊戦

 前方20キロ地点にドラゴンの群れを発見。

 俺はすぐさま遠望魔法でそれを確認する。

 敵の数は33匹だ。

 1度の攻撃じゃ壊滅させられないかもしれないな。


 できる限り1度の攻撃で敵を減らすことを考え、マーキング。

 33匹全てを標的とし、攻撃優先度を設定した。

 一応、マーキング情報はダルヴァノとモルヴァノにも伝えておくか。


「可能な限りマーキングに従って敵を攻撃」


 そう指示を出し、俺はスピードを緩めながらドラゴン部隊にガルーダを近づける。

 ドラゴンはせいぜい数百キロの速度が限界だからな。

 追いつくのは簡単だ。


 敵までの距離は約10キロ。

 すぐにでも追い越してしまいそうだが、もっとスピードを緩めよう。

 逆噴射装置は全開、前方スラスターも噴射だ。

 これで速度は一気に落ち、マッハ2が590キロまで落ちている。

 準備は整ったな。


「攻撃開始!」


 俺の指示と同時に、ガルーダの全砲がビームを撃ち出した。

 もちろん熱魔法攻撃だ。

 ドラゴンがどれだけの固さを持つかは知らないが、鉄を破壊できる熱魔法なら問題はなかろう。


 長距離砲を除く24の砲から放たれるビーム。

 その真っ赤なビームは、暗闇の宇宙空間を迷いなく、確実に、ドラゴンへと向かっていく。

 人間界惑星の明かりに照らされ、ほんのりとシルエットを浮かび上がらせるドラゴンは、 まだこちらの攻撃に気づいていない。

 防具も付けず、生身の肌を晒した黒き魔物たちに、刻一刻と死が近づいている。


 ビームの発射から1秒足らず、1匹のドラゴンにガルーダの攻撃が命中した。

 ドラゴンは熱魔法に焼かれ、体に大穴を開けて動かなくなる。

 それが2匹目、3匹目と続き、ついには11匹のドラゴンを撃破。

 ただ、13ものビームが標的を外した。

 咄嗟に回避行動をとったドラゴンにかわされてしまったのだ。

 魔物といえでも状況判断はできるんだな。


 とはいえ、こちらが攻撃を緩めることはない。

 すぐさま第2射、第3射と攻撃を加え、ドラゴン部隊にビームが集中する。

 ここでは13匹のドラゴンを撃破し、残りは9匹のみだ。


 問題はこの9匹だった。

 ヤツら、小回りの利くその体で、ひらりひらりと動き回る。

 まるで風に吹かれる木の葉みたいだ。

 これじゃ照準が定められない。

 おまけにドラゴン部隊は一気に上昇し、俺たちは群れを通り超してしまう。


 ドラゴン部隊がどこにいようと、射程内なら砲のいずれかが必ず撃てる。

 それだけ砲の射角は自由だ。

 だが、ただでさえ敵は激しく動き回るようなヤツら。

 あんまり距離を取られると狙いにくいだろう。

 上昇するドラゴン部隊は徐々に俺たちから離れていくが、これはマズい。

 なんとかして追わないと。


 現在ドラゴン部隊は、ガルーダの上だ。

 ならばこちらも上昇するまで。

 俺は推力偏向板と艦首下部スラスターを動かす。

 果たしてあんな小型で小回りの利くドラゴンに、ガルーダは勝てるのか。


 時速約600キロでの急上昇。

 眼下に広がっていた人間界惑星は、瞬く間にガルーダの背後だ。

 ドラゴン部隊はこちらに尻尾を向け、必死で逃げようとしている。

 しかし逃がすわけにはいかない。

 距離を一気に詰めてやる。


 相手との距離はわずか200メートル弱。

 ここまで近いと魔術師たちも狙いやすいようで、2匹のドラゴンを撃ち落とした。

 残りは7匹。


 さすがにドラゴン部隊の動きも激しくなってきた。

 ヤツらは突如として(人間界惑星の地上に対して)水平飛行へ移行、ガルーダはまたも群れを通り越してしまう。

 急いで俺は、ガルーダを水平飛行に戻しドラゴンを追う。

 しかしその頃には、ドラゴン部隊は右旋回してしまっている。

 だからこちらも右旋回すると、向こうは左旋回。

 俺は相手が動くたび、推力偏向板と各種補助エンジンを駆使して同じ方向にガルーダを向けさせた。

 完全にドックファイト状態だな。


 ガルーダは相手に合わせて激しい動きをしている。

 なのに、艦内重力安定装置のおかげで艦内はなんともなく、揺れすらしない。

 もし艦内重力装置がなかったら、どうなってたことやら。

 失神確定かもな。

 窓の外の景色があちらこちらに振り回されているんだから。

 これ、一体どのくらいのGがかかってるんだろうか。


 ドラゴン対大型の軍艦。

 やっぱりドラゴンの方が機動性は高く、旋回半径が小さい。

 だから、こっちはちょっと大回りで追わなきゃいけない。

 距離を縮めすぎると、逆に取り逃がしかねないな。

 難しい。

 まあでも、大型の軍艦がドラゴンの機動性に付いていけるだけすごいんだけどさ。

 広い空間で動き回る自転車を、8tトラックで追い回すようなもんだ。


 しばらくガルーダとドラゴンは追いかけっこを続けた。

 ただ、この間に4匹のドラゴンを撃ち落としている。

 残りのドラゴンは3匹だけだから、これは勝ったと思っていいだろう。


 相手もついに諦めたか、それとも疲れたのか。

 旋回を止めて真っ直ぐ飛びはじめている。

 今こそチャンス。

 俺はガルーダをドラゴンの真後ろに動かした。


「おいアイサカ司令! 急旋回しろ!」


 何を思ったかフォーベックがそんなことを叫ぶ。

 すでに1匹を倒し、残り2匹というところで旋回など、意味が分からない。

 俺は彼の言葉に従い損ねた。


 これがマズかった。

 今の状態が俺たちにとってチャンスなのは確かである。

 でも、フォーベックは気づいていたんだ。

 これは敵にとってのチャンスでもあったことを。


 目の前を飛ぶドラゴンが翼を広げて急停止した。

 ガルーダは時速約600キロで飛んでいる。

 当然のごとく、ドラゴンがガルーダの艦首にぶつかってきた。

 防御壁を通り抜け船体に張り付いたわけだ。

 これは、かなり危険な状況である。


「クソッ! やっぱりあいつら、標的を俺たちに変えてきたみてえだぞ!」


 俺もさすがに状況を理解する。

 フォーベックの言葉の通り、ドラゴンの標的は俺らガルーダに変わった。

 だからこそ、ヤツらはガルーダに張り付いてきた。

 そして、船体に張り付いたドラゴンを撃ち落とす術が、ガルーダにはない。

 かなり危機的な状況だ。


「ドラゴンによる攻撃で、艦首の装甲が溶けています!」

「1匹のドラゴンが艦橋に接近中!」


 乗組員たちの、悲鳴にも似た報告。

 外を見てみると、確かに1匹のドラゴンがこちらに近づいてきていた。

 ファンタジーものの映画で何度も見たことある、あの生き物。

 まるで鎧のような漆黒の肌に、薄く巨大な翼、長い首と尻尾、こちらを睨みつける鋭い目。

 実際に見てみると、こんなに怖いんだな。

 ヤバい。


 あれ? なんか体が思うように動かない。

 つうか、音が聞こえない。

 フォーベックが俺に何か叫んでるが、何を言っているのか分からない。

 もしや、これが死の恐怖なのか?


 ちょっと待って。

 ホントに体が言うこと聞かない。

 すまないフォーベック。

 必死に叫んでくれているが、どうしようもないんだ。

 死の恐怖なんてはじめてで、対処の仕方が分からないんだ。


「ニャー!」


 うわ! ミードンがいきなり俺の頭を殴ってきた。

 ネコパンチって思ったより痛いんだな。


「アイサカ様、大丈夫ですか?」


 心配そうな顔で俺を覗き込むロミリア。

 というか、声が聞こえてるぞ。


「えっと、すまない。大丈夫」

「よかった……」


 ロミリアの肩の力が一気に抜ける。

 そんなに心配してくれてたのか。

 そういや、ロミリアは魔力を伝って俺の強い感情を察知できる。

 きっと、俺の強い恐怖も伝わったんだろう。

 無駄に心配させちゃって、なんか悪いことしたな。

 

 にしても、ミードンには感謝だ。

 ドラゴンにちびった俺に、喝を入れてくれた。


「すみません艦長、どうかしました?」

「お、正気に戻ったか。アイサカ司令が動かねえ間に、船をモルヴァノに向かわせた」

「モルヴァノに?」

「ガルーダに張り付いたドラゴン野郎を、モニカに撃ち落とさせる」


 なるほど、そうだった。

 俺たちは艦隊なんだ。

 困ったら僚艦に頼れば良いんだよ。

 まったく、司令なのにそんなことにも気づかないなんて。


 とはいえ、艦橋のすぐ側までドラゴンが迫ってる。

 急がないとマズいな。


「装甲が限界です! このままでは穴をあけられます!」


 そっちも危ないのか。

 クソ! 早くモニカの援護を受けないと!

 距離的には、そろそろ射程内のはずだ。


 おっとヤバい。

 艦橋にドラゴンが辿り着きやがった。

 窓ガラス1枚挟んでのドラゴンとの対峙。

 今にも口から炎を吐き出そうとしているじゃないか。

 ヤツの顔、すげえ怖いよ。


《こちらモルヴァノ! あたいらの射程内にガルーダが入ったよ!》


 よし! 急いでドラゴンを撃ち落としてくれ!

 ちゃんとドラゴンを撃ってくれよ。

 間違っても艦橋を撃つなよ。


「アイサカ司令、防御壁を消せ!」


 そうだった。

 ドラゴンは防御壁の内側だ。

 このままじゃモルヴァノの攻撃を吸収しちまう。

 俺はすぐに防御壁を消す。

 ついでにモルヴァノが狙いやすいよう、速度も落としておいた。


 マズい! ドラゴンが炎を吐き出してきやがった!

 灼熱の炎に、艦橋全体が照らし出されてる。

 それにちょっと暑くなってきた。

 窓全体が炎に包まれ、外は何も見えない。

 このままだと艦橋の窓が溶けちまう。

 モルヴァノ、急いでくれ!


 艦橋の窓が歪みはじめ、液体となって床に落ちはじめている。

 だが次の瞬間、炎が消えて外の様子が見えるようになった。

 見ると、そこには腹に大きな穴をあけたドラゴンが1匹。

 そいつは力なく倒れ、宇宙の彼方に放り出される。

 

 モルヴァノの攻撃が間に合ったみたいだ。

 さらに1発の赤いビームが、モルヴァノから放たれる。

 そのビームは、ガルーダの艦首に張り付いたドラゴンを見事に撃ち抜く。

 これで、ドラゴン部隊は全滅だ。


《どうだい、あたいらの活躍!》

「さすがです。助かりました……」


 モニカの言葉に俺は素直に答えた。

 2匹とも外すことなく、1発で仕留めてくれたんだからな。

 褒める以外に何をすれば良いんだ。


《ダリオ、あたい異世界者様に褒められちまったよ!》

《おめでとう》


 なんか、モニカとダリオは仲が良いな。

 今回はこいつら仲間がいないと危なかった。

 艦隊司令として、誇れる仲間を持ったもんだよ、俺は。

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