第41話 ドラゴン部隊を追え

 敵揚陸艦からドラゴンが発艦して数分で、共和国艦隊のレイド級1隻が撃沈した。

 その様子は遠望魔法で見ていたが、ひどいものだったな。

 防御壁はなんの役にも立たず、30匹近いドラゴンが船体にへばりつく。

 そしてヤツらは直接炎を吹きかけ、装甲を溶かし、レイド級1隻の機能を停止させた。

 艦橋に至っては、内側にドラゴンが入り込み、乗組員が焼かれていた。

 それだけは、さすがに見ていられなかったな。

 完全に食い散らかされたレイド級は、魔界艦隊の熱魔法攻撃を受け爆発。

 ドラゴンたちは別のレイド級に向かって飛びはじめる。

 これ以上の犠牲はマズい。


 だが同時に、この数分でダルヴァノとモルヴァノが魔界艦隊の射程範囲に到達した。

 輸送艦2隻じゃ魔界艦隊相手に長くは持たない。

 それでも、注意をひきつけることぐらいはできる。


《防御魔法を展開》

《魔界艦隊め、あたいに注目しな!》


 冷静なダリオと、血気盛んなモニカ。

 2人合わせてちょうどいい感じだ。

 さすがは夫婦だね。


「ダリオ艦長とモニカ艦長、危険と判断したらすぐに逃げてください」

《了解》

《分かってるよ》


 よし、2人は大丈夫そうだ。

 魔界艦隊はどうだ?

 背後から突然現れた2隻の輸送艦に、魔界艦隊は食いつくだろうか?


 前方の共和国艦隊に気を取られていた魔界艦隊。

 そこにモルヴァノが熱魔法攻撃を1発お見舞いすると、数隻のドラゴン型が大きく動いた。

 いきなりの大きな動きに、ぶつかりそうになる船までいるぞ。

 ありゃかなり焦っているな。


 数秒して、魔界艦隊の3隻の軍艦がダルヴァノとモルヴァノに攻撃を開始した。

 他の船もそれに呼応し、艦隊の列を変えている。

 前方に集中させていた戦闘艦数隻を、後方に移動させたようだ。

 おかげで、共和国艦隊への弾幕が少しだけ薄くなっている。

 こりゃ完全に、釣れたな。

 作戦の第1段階成功だ。


 俺はガルーダをマッハ1程度まで加速させ、その速度を維持。

 防御壁も、ガルーダ全体を覆うように展開させる。

 魔術師たちは砲への魔力装填を完了させ、いつでも発射可能な状態だ。

 準備は整った。


「超高速移動開始!」


 メインエンジンに用意した魔力を一気に送り込む。

 景色がいつも通り、大きく歪んだ。

 だが今回は、わずか数百キロの移動だ。

 放射状の景色が現れる前に、目的地に到着してしまう。


 目の前に共和国艦隊が現れた瞬間、防御壁が大量の熱魔法攻撃と光魔法攻撃を吸収した。

 後ろからも前からも、全方向からのビームを吸収している。

 そりゃそうだ。

 両艦隊の激しい弾幕の真ん中に来たんだからな。

 防御壁の修復は怠れない。

 ダルヴァノとモルヴァノのおかげで、魔界艦隊からのビームが少なめなのは助かる。


 ガルーダはマッハ1のまま、共和国艦隊の中に突入していく。

 標的は当然、魔界艦隊のドラゴン部隊だ。

 ドラゴンの群れから、1隻でも多くの共和国艦隊を救わないとならん。

 まずはドラゴンの群れを探さないとな。

 無数のビームで前が見えにくいから、探すのは大変そうだ。


 遠望魔法で辺りを見渡す。

 ドラゴンの群れにやられたレイド級を中心に、その周りから探そう。

 えっと、右上には2隻のレイド級、左下に1隻のレイド級、正面に3隻のレイド級……。

 改めて思うが、レイド級だらけだな。

 というか、そいつらが放つ熱魔法攻撃のビームで、よく見えない。

 後ろから飛んでくる魔界艦隊のビームも混ざって滅茶苦茶だ。


《おい、相坂か! てめぇ、一体何しにきた!》


 うん? このちょっとチャラい感じの声は覚えている。

 村上だな。

 相変わらずで何よりだが、今は邪魔されたくない。


「こちらガルーダの相坂。俺たちに攻撃するな。ドラゴンの群れの居場所を知ってるなら、すぐに教えてくれ」


 面倒なので要点だけを伝えた。

 するとどうだろう。

 村上は不機嫌そうな声で、こちらを怒鳴りつけてくる。


《てめぇ、いきなり偉そうにすんなよ! 裏切り者は邪魔すんな!》


 裏切り者とは心外だ。

 まったく、コイツを相手しても意味がなさそうだな。

 自分の仕事に集中しよう。


 ドラゴンの群れはどこだろうか。

 レイド級やビームの隙間をくまなく探すが、なかなか見つからん。

 防御壁の修復も同時にやって疲れるから、早く見つけちまいたいのに。

 そろそろ共和国艦隊の中に入っちまうぞ。

 ここまで見つからないのは、いくらなんでもおかしい。

 もしや探している場所が悪いのか?


 ドラゴンの群れが向かいそうな場所を予測してみよう。

 レイド級を襲うなら、最初に襲ったのに一番近いレイド級を狙うはず。

 だがそれなら、とっくに見つかってるはずだ。

 わざわざ遠いところのレイド級を攻撃しに行くこともないから、狙いは別の軍艦なんだろう。

 ……だとすると、フェニックス以外にあり得ない。


 よく考えたら、魔界艦隊が苦戦する理由はフェニックスの存在じゃないか。

 フェニックスさえ潰せば、魔界艦隊にも勝機がある。

 なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう、俺。


 遠望魔法でズーム。

 ドラゴンに食い尽されたレイド級の残骸と、フェニックスの中間に注目する。

 すると俺の予想通り、いた。

 30匹程度のドラゴンの群れが、一直線にフェニックスへと向かっている。

 しかも発見が遅れたせいで、だいぶ近づいてるじゃないか。

 これは急がないと。


「敵ドラゴン部隊はフェニックスに接近中! おい村上、ドラゴンが近づいてる。気をつけろよ」

《てめぇに指示される覚えはねえ!》


 なんかさっきからケンカ腰だな。

 元老院にどんなこと擦り込まれたんだよ、コイツ。

 まあ、今はどうでもいい。


 俺はメインエンジンを全開にし、敵ドラゴン部隊の方向へと針路を変えた。

 ここから標的までの最短ルートは、真っ直ぐで行ける。

 撃破されたレイド級の破片や、その他のレイド級ぎりぎりをかすめる必要があるが、行ける。

 もう迷ってる時間はない。


 一気に加速し、共和国艦隊の中へと入るガルーダ。

 其処彼処を飛び交うビームが防御壁に当たるが、気にしていられない。

 そもそもここまでくれば、魔界艦隊の攻撃も届きにくくなる。

 共和国艦隊は一応、俺たちに攻撃が当たらないようにしてくれているし、大丈夫だ。


 速度はマッハ2に達した。

 このままレイド級の残骸が浮かぶ場所に突っ込む。

 この速度で残骸が当たれば、結構な傷ができるだろう。

 ちょっと心配だが、やむを得ない。


 残骸は大小さまざまだ。

 拳ほどの小さなものから、車ほどの大きなものまで。

 それがマッハ2で飛ぶガルーダにぶつかってくる。

 そこら中から、まるで解体工事のような音が響き渡ってるぞ。

 艦橋の窓ガラスにも破片が衝突しているし、これは不安だ。

 少なくとも無傷じゃ済まない。


 残骸の浮かぶ場所をなんとか突破し、ガルーダの損傷具合を確認。

 艦首や翼のそこら中がへこんだ感じかな?

 マグレーディのドームにぶつけてできたへこみが、あまり目立たなくなってる。

 でも前方スラスターには、運良く損傷なし。

 艦橋のガラスも耐えきった。

 強いな、ガルーダは。


 残骸さえ突破すれば、あとは真っ直ぐ飛ぶだけだ。

 共和国艦隊の中央まで到着したもんだから、魔界艦隊の攻撃もほぼない。

 だが心配することがなくなったわけでもない。

 今度は、密集する共和国艦隊の隙間を飛ぶなきゃならんのだ。


 速度はマッハ3付近まで達している。

 こうなると、軍艦とのすれ違いは一瞬だ。

 一瞬ということは、衝突すればどちらも粉々になる。

 事前に決めたルートにレイド級は存在しないからいいが、ぎりぎりですれ違うヤツもいる。

 やっぱり怖い。


 すれ違いはホントに一瞬だ。

 小さな点でしかない軍艦が、次にはすぐ側にあり、気づけば後方にいる。

 こんなのを4度もやった。

 3度目なんか、お互いの間が数十メートルの距離しかなかった。

 マグレーディへの突撃作戦でもやったことだが、数が多い分、今回の方が緊張したぞ。


 残骸を突破し、すれ違いを終えると、俺たちの前にはフェニックスしかいない。

 いや、そんなことはない。

 ドラゴンの群れがすぐそこまで迫ってきている。

 ついに本命、標的の撃破の段階まで到達したんだ。


《こちらダルヴァノ、そちらの援護に向かいたいのですが》

《あたいもだ!》


 ここで意外な台詞が俺の耳に飛び込んできた。

 あいつらまだ耐えたんだな、さすがだぞ。

 にしても、援護か……。

 ないよりはある方が良いかな?


「頼んだ。無理はするなよ」

《了解》

《待ってなよ!》


 ここまできちんと来られるだろうか。

 いや、今は仲間を信じ、俺は俺の仕事に集中しよう。

 本番はここからなんだ。

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