第43話 任務完了

 ドラゴン部隊を壊滅させた俺たち。

 だが任務自体は終わっていない。

 共和国艦隊と魔界艦隊の戦いはまだ続いている。


 俺たちが悪戦苦闘している間、魔界艦隊の戦闘艦は2隻撃破されていた。

 対して共和国艦隊は1隻の損失のみ。

 これで19対17、戦闘艦のみだと17対12だ。

 船の数は拮抗しているが、戦闘艦の数に差が出てきているな。

 ドラゴン部隊も壊滅した今、魔界艦隊に勝ち目はない。


 こうなると魔界艦隊も撤退をはじめるかと思ったが、そうでもないみたいだ。

 あくまで戦闘を続けている。

 そういや敵の指揮官のテンペフ将軍、ここで負けると将軍の座を追われるんだっけ。

 それなら必死になるか。

 一般兵からすりゃ、たまったもんじゃないがな。


 そういや、俺たちの任務は人間界と魔界の戦力均衡の維持もしなきゃならない。

 このままだと、なんか魔界艦隊が壊滅しそうだな。

 それは避けるべきだろう。

 なんとかして、魔界艦隊を撤退させないと。


「フォーベック艦長、魔界艦隊を撤退させるのはどうすれば良いですかね?」

「そうだなあ、あいつらの狙いは人間界惑星への上陸だ。もしかすると、敵揚陸艦を沈めりゃ撤退するかもしれねえ」


 なるほどね。

 そうなりゃ次の行動は決定だ。


「じゃあ、敵揚陸艦を潰します」

「相変わらず決断が早いなあ。分かった」

「ダルヴァノとモルヴァノも手伝ってくださいよ」

《もちろんです》

《もっと活躍してやるさ!》


 俺たちの艦隊の次の行動は、敵揚陸艦の撃破。

 だが俺たちだけだとちょっと辛いな。

 共和国艦隊にも手伝ってもらおう。


「村上、ちょっと手伝ってほしいことがある」

《ああ? なんで俺がてめぇを手伝わきゃいけねえんだ!》


 ……ここは怒りを抑えよう。

 機械的に、一方的にこっちの考えを伝えりゃ良い。


「俺たちが敵揚陸艦の防御壁を破るから、お前らが敵揚陸艦を撃破してくれ。そうすりゃ魔界艦隊も撤退すると思う」

《勝手に話を進めんなよ! なんでてめぇみたいな――》

「魔界艦隊が撤退すれば、共和国艦隊もこれ以上の損害を出さないで済む。だから協力してくれ」

《うるせえ! 誰がてめぇみたいな裏切り者の言うこと聞くと思ってんだ!》


 ああ! なんだコイツ!

 今は個人の感情なんかどうでもいいだよ!

 艦隊司令なんだから、自分の艦隊の損害は最小限に留めるべきだろ!


「おい、ライナー、お前も聞こえてんだろ。お前ならアイサカ司令の作戦の評価、そのくらい正しくできるはずだろ?」


 フォーベックは村上ではなく、シュリンツ艦長に同意を求めたか。

 確かにその方が賢いな。

 司令とはいえ、村上は調子に乗った新兵。

 対してシュリンツは、フォーベックと同じ経験豊富な軍人。

 どっちが正しい判断をする可能性が高いかなんて、目に見えている。


「どうなんだ? ライナー」

《……アイサカ司令の作戦は、これからムラカミ司令に具申しようとしていたことだ》


 おっと、そうだったか。

 何も俺から提案しなくても、敵揚陸艦を潰して魔界艦隊を撤退させるつもりだったと。

 さすがはフォーベックの親友、シュリンツだな。

 つうか、なんか俺が余計なことした感じだぞ。


《ムラカミ司令、敵揚陸艦を撃破し、魔界艦隊を撤退させよう》

《は? 艦長まで相坂に従うのか?》


 まったく、往生際の悪い村上を説得できるヤツはいないのか?

 と思ったら、ここにいるぞ! 的な人が現れた。

 リュシエンヌだ。


《ムラカミ殿、艦長殿はアイサカ殿に従ったわけではない。艦長殿自身の考えに基づき、作戦を具申しているのだ。ならば、作戦を受け入れぬという選択肢はないはず》


 さすがだな。

 この作戦は俺の意見じゃなく、シュリンツの意見ということだ。

 実際にそれで間違っていない。

 ただ偶然、俺とシュリンツが同じような作戦を考えたに過ぎない。


《……分かったよ。相坂の意見じゃなく、艦長の意見に従う》


 余計な一言が引っかかるが、無事に村上も納得してくれたか。

 まあ、〝俺の言った〟作戦は、自分で言うのもなんだが悪くないと思う。

 共和国艦隊の被害を最小限に食い止められるからな。

 村上はただ、〝俺が言った〟ってだけで反対してたようだし。

 だから納得しない方がおかしい。


 なんか、村上って自分の感情を優先するところがあるな。

 それが良い方向に行けば問題ないが、戦場じゃマズいだろ。

 アイツ、司令向いてないんじゃないの?


 でも、シュリンツとリュシエンヌの言うことは素直に聞くようだ。

 そいつらは信用してるからかな?

 村上みたいな人間っぽく言えば、絆ってやつだ。

 反面、絆の最大の問題点も浮き出ている。

 自分たちの絆に参加しないヤツを、徹底的に排除するって問題が。

 友達のいない俺からすれば、絆ってすごい排他的な側面を感じることの方が多いんだよ。

 

 俺の絆論なんかどうでもいい。

 なんやかんや、敵揚陸艦への攻撃は決まったんだ。

 ダルヴァノとモルヴァノを連れて、俺はガルーダを敵揚陸艦に向かわせる。


 魔界艦隊はもう限界なんだろう。

 さっきよりも攻撃が少なくなっている。

 光魔法はほとんど撃ってこないし、おかげでこっちの防御壁はピンピンしてる。

 とはいえ、実はダルヴァノとモルヴァノの防御壁は長くは持たないらしい。

 だから、その2隻がガルーダの陰に隠れて移動している状態だ。

 まあ問題ない。


 魔界艦隊の側面を飛ぶ俺たち。

 共和国艦隊の援護もあって、ここまで順調だ。

 敵揚陸艦は俺たちの射程圏内にいる。

 ともかく、今は2隻だけを撃沈させよう。


「敵揚陸艦2隻に攻撃開始!」


 そんな俺の指示に従い、俺たち孤独な艦隊の攻撃が敵揚陸艦を襲う。

 ダルヴァノとモルヴァノは、魔力残量の影響もあって熱魔法攻撃による牽制。

 本命はやはり、ガルーダによる光魔法だ。

 俺も魔術師たちも魔力残量は十分にあるからな。

 ほとんど反撃らしい反撃もできない敵揚陸艦なんて、ほぼ的だ。


 ガルーダの光魔法集中攻撃に敵揚陸艦の防御壁は大きく歪む。

 そして数分もしないうちに防御壁に大きなひびが入り、ガラスが割れるように消滅していった。

 なんて簡単なんだ。

 動き回る小さなドラゴンとは大違いだな。


 2隻の敵揚陸艦の防御壁が消えると、すぐにフェニックスの熱魔法攻撃がやってきた。

 明らかに太いビームだから分かりやすい。

 この太いビームは、2隻の敵揚陸艦をいとも容易く撃ち抜き、貫通した。

 当たりどころが悪かったのか、1隻の敵揚陸艦はエンジンが大爆発している。

 もう1隻も、艦橋が吹き飛んだのでこれ以上動くことはない。

 どちらもこのまま人間界惑星に墜落し、大気圏でバラバラになるんだろうな。


 さて、これで魔界艦隊が撤退するかどうか。

 少し離れた場所から魔界艦隊を眺めていると、ヤツらに動きがあった。

 イカ型が共和国艦隊の中に突っ込みはじめたのだ。

 驚いた共和国艦隊がそちらに気を取られているうちに、魔界艦隊の船が宙間転移魔法を使って戦線を離脱する。

 そう、ヤツらはイカ型を殿として撤退したのだ。


 突っ込んだイカ型は、共和国艦隊の集中攻撃にされされた。

 元々弱っていた防御壁は、光魔法攻撃に蝕まれ完全に破壊されてしまう。

 そこに大量の熱魔法攻撃を受け、イカ型は崩壊していく。

 小さな破片に解体されていくイカ型は、遠くから見ていると哀れみすら感じるな。

 それほど、一方的にやられているのだ。


 とはいえ、イカ型に乗っていた魔族は決して無駄死にしたわけではない。

 14隻もの魔界艦隊の軍艦が、無事に戦線離脱に成功している。

 ヤツらは自分の命を使って、味方を救ったのだ。

 今は敵である魔界軍だが、イカ型に乗っている魔族たちのその決断には、敬意を表すべきだろう。


 今回の戦闘は、共和国艦隊の勝利である。

 魔界艦隊はイカ型と2隻の揚陸艦、7隻の戦闘艦を失った。

 しかし壊滅はせず、14隻が撤退している。

 対して共和国艦隊の損失は3隻のレイド級のみ。

 これなら、人間界と魔界の戦力の均衡を崩したとは言えないだろう。

 つまり、講和派勢力の望んだ通りの結果。

 俺たちは無事、任務を成功させたのだ。


 戦闘が終わると、俺たちはさっさとマグレーディに戻った。

 村上への挨拶はなしだ。

 どうせ面倒なことになるからな。


 マグレーディの港に到着し、ガルーダを降りると、そこにはヤンが待っていた。

 疲れ切って喋りもしない俺たちとは対照的に、彼は満足げな笑みを浮かべて、俺に歩み寄ってくる。


「ガルーダ、随分とボコボコになりましたねぇ」

「え? ああ、そうだな」


 きちんと見直すと、確かにヒドい。

 ガルーダの艦首は大きなへこみだらけで、ドラゴンに溶かされ真っ黒に焦げた部分まである。

 艦橋の窓ガラスなんて、一部がグニャグニャだ。

 なんだか一気にポンコツ感が出てきたな。

 歴戦の軍艦って思えばかっこいいけど。


「でもおかげで、任務は大成功ですねぇ。アイサカさん、これで講和派勢力からの信用も勝ち取りました。これから仕事が増えますよ」


 ニタリとした笑みのヤン。

 仕事が増えるのは正直なとこ面倒だが、これで講和派の計画が進むんだろう。

 講和派勢力の1人であるヤンが嬉しがるのは、当然だな。


 ともかく、今は喜ぼう。

 俺たちの艦隊は1人の死者も出さず任務を成功させ、帰ってきた。

 あれほどの大規模な艦隊戦を生き抜いた。

 そして講和派勢力にとって有利な状況を作り出し、戦争の終結がまた一歩近づいた。

 ついでに講和派勢力からの信用も得られた。

 喜ぶことだらけじゃないか。

 これからは忙しくなるだろうが、この調子でいけばなんとかなるだろう。

 頼れる仲間たちがいるからな。

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