第2話 雨乃音の過去 その2
一週間後。
無事に中間テストが終わって、ついに紅葉との勝負に決着がつこうとしていた。
「ふっふふーんふんふん。やあ紅葉君!ついにこの時が来たね」
「ん?誰?ああ雨乃君か。おはよう」
朝考えてきた謎のキャラで先制のジャブを打とうとしたら、逆にストレートを打ち込まれた。
相変わらず隙のない女だな。でもそこがいい。俺のパートナー候補はこうでないとな。
「紅葉!この後の一時間目!国語の授業でテストが返ってくる!楽しみだな」
「そうだね。まあ楽しみにしといてよ」
「ん?えらく余裕そうじゃないか」
「それはねえ。きっと後でわかるよ」
そうこうしているうちに国語の古西先生が来たので、各自の席に戻った。
「そんじゃテスト返していくぞー。今回の平均は八十二点なー」
高っ!!このクラスは俺が思ってたよりできるやつが多いようだな。
「ちなみに、全七クラス中このクラスが一番平均点低かったぞ」
えっちょっと!!!今最下位って言った!?さ、最下位だと!?八十二点で最下位って・・・
確かに一学期の中間テストは比較的簡単ではあると思うが、それにしてもだ、これは異常だろ・・・
ええーーっとクラスメイトから不満そうな声やため息が聞こえてきた。気持ちはわかる。
平均点は驚いたが今回は紅葉との勝負なので気にしないでおこう。
ここで紅葉の顔をちらっと見た。
のだが、机に向かってニヤニヤしながら問題用紙に何かを書いていた。
何なんだあいつは。もうわかんねーな。
そうこうしているうちに古西先生が各自の机に答案用紙を配っていった。
取りに行くスタイルじゃないのは好きだ。
などと思っているとついに俺のとこに来た。
緊張の瞬間。裏向きに置かれた答案用紙をぺらっとめくると、百という数字が書いていた。
やったぜ。もっと喜ぼうと思ったけど、案外百点取れちゃうんじゃないかと思っていたせいでそんなに喜べなかった。さてと、これであとは紅葉の点数を聞くだけだな。
もっとも、この勝負は俺が文系であることを証明するだけのものだからな。
百点を取った時点で証明されたわけだが、あいつも自信があると言ってたしな。
一応聞いてみるか。俺は紅葉の席に向かっていった。
「何点だった?」
「ん?おお雨乃君。私の点数見る?」
そういって紅葉は自分の答案用紙を俺にスッと見せた。
二十二。二十二点だった。
「なあ紅葉。前に全部の教科得意だったって言ってなかったっけ?」
「あれは嘘だよ!ハッタリだよ!ハハッ!」
急に一人で笑い出した。ちょっと引いた。
「まんまと騙されたねー雨乃君。さすが私。こういうことに関しては長けてるんだよ。私ね、長い文章見るともうやる気なくしちゃって。だからこの二十二点は、全部漢字の読み書きだけの点数。漢字検定一級を中学の時に取得したんだ。まあなんにせよ、雨乃君おめでとう!百点ってすごいじゃん!もう君の事を疑ったりしないし、信用する。逆にこれからいろいろ頼っちゃうよ」
「お、おおう。いっぱい頼ってくれよな」
急にいっぱいしゃべりだすので圧倒されてしまった。でも頼っちゃうって言ってたな。俺は何より人に頼られる事が好きだ。自分が必要とされるというのは、とても幸せに感じる。この世に生まれてきて良かったと思える。決して大袈裟なんかじゃない。百点取って良かった。
「そこで、早速なんだけど雨乃君。相談があるから、昼休みに入ったら午後からの授業サボって街に行こうよ。お互い点数が悪いのを見てから急に腹痛が起こったからって言って帰ろう」
「何だその理由。早速サボりって。まあいいんだけどさ、ここで相談できないの?」
「うーーん。できないことはないけど、念のためってやつかな」
「わかったよ」
クラスのマドンナと二人で授業サボって街に遊びに行く。青春だな。
そして昼休み。先生に理由を言うと何とも言えない顔をされたが、無事に了承を得た。
「よしっ、雨乃君行こっか」
「おう、まずはどこ行くん?」
「今回は遊びじゃなくて『相談』がメインだからね。喫茶店に行くよ」
「わかった」
若干遊べないのはショックだったけど、二人で出かけられているだけでもいいか。
喫茶店に行くと言っていた紅葉は、あらかじめ相談する場所を決めていたようで、すぐに目的地の喫茶店についた。喫茶こだわりという名前で、昔からあるような店ではなくて、まだ新しい感じの店だった。
とりあえず中に入ると、若い女性が一人だけいた。この人が一人でやっている店なのか。
席に案内されるとメニューを見る前に紅葉は、ブラックをお願い、と女性に言った。
この店の常連なのかなと思いつつ、俺もメニューを見て注文した。
「ミルクセーキでお願いします」
「雨乃君、顔に似合わず可愛いの飲むんだね」
余計なお世話だとツッコミを入れて他愛のない話をしていると注文したものが来た。
「さてと。それじゃ、私の相談を聞いてね」
紅葉の顔の表情が引き締まった。どんな相談なんだろう。
すると、重々しく口を開いてこう告げた。
「私ね、嫌がらせを受けているの」
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