第3話 雨乃音の過去 その3

嫌がらせを受けている。

それが紅葉の相談内容だった。

「嫌がらせって・・・・・・そんな雰囲気に見えなかったが」

「見える訳ないでしょ。見えたら問題だし、それにさっきのテスト結果でもそう。雨乃君、私にまんまと騙されてるじゃない、ほんと馬鹿だね~」

「そりゃそうだ。ってこら。出会ってからわかったけど、会話の中に時々暴言を吐くんじゃないよ」

「ごめんごめん、とりあえずそういう事」

「つまり、その嫌がらせをしているやつを突き止めてやめさせるってとこか」

「そう。でもおおよそ誰がやっているのかは分かってる」

「分かっているのか?ならそいつの名前を教えてくれ」

「たぶんだけど、同じクラスの森君だと私は思ってる」

森?森。ああ、いたなあ。もり 木林もくりんとかいう変な名前のやつ。

あんまり目立つタイプじゃなかったと思うけど。ボッチ系かな。

あまり友達を作ろうとしてなかったようにも見えたし、よくわからんやつなのは確かだ。

「それにしても、何で森が犯人だって思うんだ?」

「私が雨乃君と友達になる前なんだけどね、森君が私のところに来て、僕と友達になってくれませんかーって話しかけてきたの。勿論いいよって言ったんだけどね。友達になってくださいって言ってきた割には全然話しかけてきてくれなくて、あっても朝と帰りの挨拶ぐらいだったの」

「ますますよくわからんやつだな。でも、その話を聞いてる限りだと別に森は嫌がらせをするような感じじゃないけど」

「うん。そうなんだけど。嫌がらせを受け始めたのはいつ頃だと思う?」

「いつ頃って、まだ四月の後半だしなー。そりゃ四月の前半ぐらいなんだろうけど」

「嫌がらせを受け始めたのは、雨乃君。君が、初めて私に話しかけた日なんだ」

「何・・・・・・?」

それを聞いて、俺は考えた。が、答えはすぐに思いついた。簡単だった。

「それって、俺の好きな人を横取りしやがってーってことだよな、多分。森はお前に一目ぼれしたから、お前に話しかけた。勇気をもって話しかけて友達になってもらえた、だけど何を話しかけたらいいかわからない。そうこうしてるうちに、俺がお前に友達になってくれと頼んだら、あっさりオッケーをしてくれた。僕の方が先に友達になったのに、なんであいつは気安く僕の五十嵐さんに話しかけているんだ、嫌がらせをしてやる。こんな感じだろう。彼女とか好きになった人がいなかったやつは、けっこう女の子に理想を持ってる気持ち悪いくらいピュアなやつがいるからな。ほんと気持ち悪い」

「私もその解釈とほとんど一緒だよ。だから森君じゃないかなと思って」

「なるほどな。でも、普通に考えたら俺に嫌がらせをしないか?仮に自分が好きな人にいいよる男がいたら、その男の方に何かすると思わないか?」

「多分、したくても出来ないんだよ。雨乃君ってほら、見た目だけみるとけっこう怖いし、それに体格も良くて筋肉質だし。どうみたっても、森君が勝てるわけないじゃない。だから、私に嫌がらせをするしかないんだと思うよ」気付いてなかったの?と紅葉に不思議がられた。

周りから見ると、俺ってちょっと怖がられてるのか。お世辞にも可愛いとか言われる顔ではないけど、それでも近所のおばちゃんとかに可愛いって言われたことあるんだぞ。

それにしても、森って嫌なやつだな。いいやつそうだとは思ってなかったけど、自分の好きな人に嫌がらせするやつの神経がわからない。もっと真正面からアタックすればいいことなのに。

「要件はわかった。けど、森が犯人だって証拠がないとなー。問い詰めるに問い詰められないし。聞いてなかったけど、具体的にどんな嫌がらせを受けたんだ?」

「上靴に画鋲を入れられたり、机の中にゴミが入ってたりしてたよ」

くだらない嫌がらせをするんだなと、俺はイライラしていた。こういう陰湿な事をするやつは俺は大嫌いだ。卑怯。その二文字がとても似合う最低な野郎だ。なんて思っていると紅葉が続けざまにこう切り出した。「あ、あと脅迫文みたいなのが家に送られてきたよ。『僕はあなたの事が好きなのに、どうしてあなたは分かってくれないの?僕だけを見てよ。これ以上他の男としゃべるなら、僕はあなたを許さない』っていう内容だった。これは親には見せてないんだけど、一応捨てずに持ってる。この件があって、森君が犯人だとほぼわかったの」

「そっか。でも、どれも森が犯人だって確証が得られない。もうちょっといい方法はないか?」

「うーん。写真とか動画があったら確実だよね。森君が私に接触しているところを、雨乃君が撮影する。そうしたら完璧じゃないかな?」

「確かに。けど、こんな陰湿な嫌がらせをしてくるようなやつがお前に接触してくるのか?」

「私の推測だけど、雨乃君と私って最近ずっとくっついてるでしょ?わざと距離を置いて、私が一人になる場面を多くするの。そうしたら接触してくるんじゃないかな?」

なかなか見事な推測だったけど、そんな事より、最初のくっついてるでしょという単語が嬉しかった。恋人関係でもないのにくっついてるのは、周りから見ると、それはもうカップルに見えるんじゃないか?こうなったら告白してしまおうか。いや待て俺!焦ってはダメだ。慎重に慎重に。今は紅葉の相談の解決が先だという事を忘れてはいけない。

「わかった。早速明日にでも実行してみるか。写真だけでは単なるツーショットの写真を撮るだけになるから、携帯で動画を撮る作戦でいく」

「了解。よし、作戦も決まった事だし今日は帰ろっか」

外を見るとまだ暗くはなかったが、時刻は五時を過ぎていた。

あれ、変だな。昼の授業をサボってここに来たのは一時過ぎだったはずだけど、そんなに話し込んでいたのか。まあどっちでもいいか。俺は残っていたミルクセーキを一気飲みして会計しようとすると、

「あ、ここは私が出しておくよ。相談にも乗ってもらったことだし」

いやいやそんなお構いなくと言おうとしたが、出すと言ってくれた人にあまりしつこく遠慮しとくと言うと、言ってくれた人は機嫌を損ねる可能性が出てくるので俺は「ごちそうさま」とだけ言って、今回は紅葉に甘えておくことにした。喫茶こだわりを出た後、携帯の番号とアドレスを交換して、紅葉はちょっと買い物があるからと言ってその場で別れた。明日の作戦が上手くいく事を願って、俺は家に帰ってさっさと寝てしまおうと思い小走りで家に帰った。



翌日、いつも通り同じ時間に登校する。

いつもと違うのは、今日は紅葉と一切接触しないという事だけだった。

昨日の夜メールで、明日は朝からくっつかないようにしようとメールが来たので、その作戦を実行しているところだ。今日一日しゃべれないかと思うと悲しくなった。頑張ろ。

作戦を決行してから四時間後、昼休みに入った。今回の作戦で一番大事なのは、森が紅葉に接触してくることだ。そのため、今日の昼休みと放課後は、紅葉を一人きりにして教室の外に出て行ってもらう必要があった。教室だと絶対に森が行動を起こす事はないので、強制的に行動を起こさせようという訳だ。

予定通り紅葉は教室を出ていき、校内で人気のない場所に行った。エスカリエ高校で校内では人気のない場所はいろいろあったが、その中でも自習室という部屋が都合が良かった。

この部屋は昼休みと放課後に開放されるのだが、全くといっていいほど人が来ない。

本来、教室ではうるさくて勉強に集中したくても出来ない生徒のために用意された部屋なのだが、国語の古西先生曰く、驚くほど誰も来ないらしい。という事で紅葉にはこの教室に行ってもらう事にした。

昼休みに入り、紅葉が席を立って自習室に向かった。ここで俺は森が座っている机の方を見た。

すると、紅葉が席を立つのをチラッと横目で確認した後、森は席を立った。

早速来た!思い、俺も少しずらして教室を出た。廊下で話している生徒も多かったので、俺の尾行が森にばれる心配はなかったが、一応念のため用心して尾行を続けた。

驚いたことに俺たちの読み通り、森は紅葉の後をつけていった。そして自習室に入った紅葉も確認した森は自習室に入っていくのかと思っていたが、何故かそのままトイレに行き教室に帰って行った。

何らかの行動を起こすには昼休みの時間では足りなかったって事なのか?

とりあえず成果は得られたのは大きかった。この調子だと放課後も紅葉の後をつける事間違いなしだと思った俺は紅葉に、放課後も同様に頼むとだけメールを送った。

了解と返事が来たのを確認した俺は、そのまま教室に帰った。

午後の授業が終わり、ホームルームを終えてついに放課後になった。

放課後が待ちきれなくて授業を何も聞かずに寝ていたので、体調はすこぶる元気だ。

クラスメートが教室から次々と出ていき、この波に乗って紅葉も教室を出て自習室に向かった。

すると予想通り、森も少しずらして教室を出た。

ここまで予想通りに事が運ぶと、なんだか少し笑えてきた。いや笑ってる場合じゃない。

俺も慎重に森を尾行していった。紅葉が自習室に入るのを確認した森は、すうっと深呼吸をしてから意を決したように自習室に入っていった。あいつ、告白でもするのかな。ま、したところでお断りされるのが目に見えているけどな。そんな事を思いつつ、俺はかなり急ぎつつも静かに自習室のドアの前まできて、携帯電話の動画撮影機能を起動した。撮影できないんじゃないかという心配は無用、あらかじめ紅葉に自習室の窓を一つだけ開けておくように言ったので、俺はその空いている窓に携帯電話をひっそり置いた。

準備は整った。俺は窓の下で座っている。この光景を先生や生徒に見られたら俺がヤバいだろうというのは察しが付いたが、この際仕方がない。

すると、ついに森が言葉を発した。

「あの、五十嵐さん。話があるんだけど」

「森君じゃない。どうしたの?勉強を教えてほしいとか?」

「いや、そうじゃないんだけど・・・・・・」

森は何かをとても言いたげだったが、その一言を言ったきり黙ってしまった。

おい黙ってんじゃねーぞ早くしゃべれ。

と、思ってると三十秒後ぐらいが経ったあと森が口を開いた。

「五十嵐さんて、その・・・・・・俺の事が本当に好きなの?」

「えっ?えっどういうことなの?」

紅葉が動揺しているのが語調で分かった。ていうかどういう事なんだ?

何を言ってるんだこの男は。お前が五十嵐を好きなんじゃないのか。

「好きって別に、私たちまだ全然しゃべってないじゃん!ていうか森君って私の事が好きなの?」

「好きに決まってるじゃないか!!」

森がいきなり大声で叫んだので、滅茶苦茶ビックリした。意味不明だよ。

「五十嵐さん、僕が友達になってくださいって言ったらいいよって言ったじゃないですか!いいって事は僕の事が好きって事なんですよね!?なのに、最近雨乃とかいう男とばっかり話しているし、話が違いますよ!あれは嘘だったんですか!?」

「い、いやいや森君?ちょっと落ち着いて。友達になるのをオッケーしたからといって、あなたの事が好きですよって事にはならないと思うよ?そりゃ嫌いではないけど、恋人になろうとかそんなことにはならないよ!それと、森君に聞きたかったんだけど、私に嫌がらせをしていたのは森君だよね?」

「そうに決まってるじゃないですか」

森は間髪入れずに答えた。そうに決まってるじゃないですかって、こいつすんなり認めたけど。

普通ちょっと戸惑ったりするだろ。普通は。

「そうに決まってるって・・何で脅迫文を送ったり、靴に画鋲を入れたりするの?私何も悪い事なんかしていないのに」

「何もしてない?よくそんな事言えますね。僕はあなたが話しかけてきてれるのを待ってたのに!普通好きな相手には話しかけますよね?なのにあなたは、ずっと話しかけてきてくれなかった。そればかりか、他の男と話し出した。これは制裁がいるのは当然ですよね?」

「いや、だから好きとかじゃないんだって!友達になってほしいって言ってきたから友達になっただけだって!それに、そんなに話したかったら森君からもっと話しかけてくれたらいいじゃない!」

「それだと不公平でしょ。好きな人はお互い自分から話し合うもんですよ」

な、なんだこいつ。ヤバい、異常すぎる。モテナイ男がストーカーみたいになるっていう感じか?

ストーカーは好きな相手が振り向かないと、相手を殺してしまう事件なんかもあったし。

いや待て、このタイプだと非常にヤバい。紅葉の身が危ない。

けどここで出ていくわけにもいかないし、どうする。

「どうしても嫌がらせをやめてほしいなら、あの雨乃っていう男と今後一切話さないと約束してください。いや、いっそ学校中の男子と友達になる事も禁止にしよう。うん、それがいい。そして、僕と付き合ったら嫌がらせはやめてあげますよ」

「そんなことできるはずないでしょ!頭おかしいの!?」

「おかしくないですよ。おかしいのはあなたですよ。あなたは雨乃君の事どう思ってるんですか?

「どうって、普通に友達だよ。それがどうしたの?」

「五十嵐さん、男女間の友情は成立しないんですよ。つまり、雨乃とずっといるって事は、あなたもしかして、雨乃の事が好きなんじゃないですか?」

「それは・・・・・・」

とんでもない事をいきなり言い出した森からの質問に、紅葉が言葉につまった。

これは気になるけど、どう答えるんだ。

「それは・・・・・・ってそんな事今はどうでもいいでしょ!とりあえず嫌がらせはもうやめて!」

聞けなかった。気になって夜も眠れなくなりそうだった。

「わかりました。もういいです。僕の気持ちに答えてくれないなら、もうこうするしかないです」

「ちょ、包丁!?な、何する気!?てか何でそんなもの持ってきてるの!?」

「僕に振り向いてくれない五十嵐さんなんて、もうこの世にいらない。死んでください」

おいおいおいおいヤバいって!言葉しか聞こえてこないけど確実にヤバいって!

もうこの作戦を中止して俺が止めに入るしかねーか。いや、でもせっかく証拠の動画が撮れたのにここで俺が登場すると、それこそ水の泡だ。ああどうしようどうしよう。考えろ俺・・・考えろ考えろ考え

「おい!自習室の前で何一人でもぞもぞ動いてんだ!!」

廊下の向こうから聞き覚えのない怒鳴り声が聞こえた。あの先生は誰だったっけ。

はっ!思い出した!あれは鬼畜で理不尽な生徒指導と恐れられる先生、下衆堕げすだじゃないか!

こんな普段誰もいないような所に都合よく来やがって。しかし、ピンチはチャンス!

この逆境を利用してみせよう!

俺はすかさず動画撮影していた携帯を持って、急いでその場から走り去って逃げた。

さらに、自習室の窓が開いていたので、下衆堕の怒鳴り声は中にいた二人にも聞こえていた。

俺の予想では、中にいた森は焦って自習室から出てくるんじゃないかと予想する。

この予想が外れたら最悪だったが、案の定森は教室から飛び出して逃げてきた。

ここで鉢合わせにならないように、俺は下駄箱の横にある掃除用具入れのロッカーに隠れて外の様子を観察する。

そのまま下駄箱に来た森は、とても焦った様子でそこらじゅうにぶつかりながら自分の靴を履いて急いで帰っていった。あっぶねー。ギリギリ助かった。いや俺だけ助かっても意味はない。

紅葉はたぶん無事だと思うけど、急いで行かないと。

下衆堕がどこかに消えたのを確認、俺は自習室に向かった。

「紅葉!大丈夫か!?」

紅葉は床に座り込んでいて、声をかけたが返事はなかった。

「紅葉・・・怪我とかない?何もされてないか?」

「ん?ああ雨乃君か。私は大丈夫だよ」

なんども名前を呼ぶとようやく返事があって少し安堵した。本当に何もなくてよかった。

「それより、ちゃんと動画の方は撮れた?」

「ああ、ばっちりだ。これで証拠は撮れた。後は先生に言うか、もしくは警察に言うか任せるわ」

「とりあえず、無事作戦も終了したわけだし一緒に帰ろっか」

おう、そう返事して帰ろうとした瞬間、紅葉は気を失った。

「あぶねっ!」俺はすかさず床に倒れそうになった紅葉を抱きかかえた。

突然のお姫様だっこに成功してひそかに喜んでいたのはこの際措いておいて、気を失った紅葉をどうしようか悩んでいた。きっと緊張しすぎて気を張っていたのが安心して気を失ったんだな。

学校から家までの距離が近かったら送り届けられるんだけど、かといって俺が可憐な女子高生をおんぶしてる姿を見て通報とかされたら嫌だし。

だから、俺はたまたま通りかかった自習室で倒れているクラスメイトがいたという事にして、誰でもいいから職員室にいる先生に報告して、紅葉のご家族に迎えに来てもらうようにしてもらった。

一番の最善策はこうだろう。

役割を終えた俺は疲れ切った心身を癒すために、購買にミルクセーキを買いに行くことにした。

全部百円で買える生徒の財布に優しい自動販売機。ありがとう業者さん。

座り心地の良いベンチに座って、大きく深呼吸をして心を落ち着かせた。

それにしても、思っていたよりヤバそうな事態になっていたな。

あいつ、常に包丁を持ち歩いていたのか。紅葉が一人になるのをずっと待っていやがった。

紅葉には怖い思いをさせてしまったから、後で詫びをしよう。

もう金輪際、森を紅葉に近づけるわけにはいかない。

あの様子だと本当に事件を起こしかねないので、俺は明日にでも先生に報告する事にした。

必要とあれば警察にだって通報してやる。

紅葉にどうするか任せるとは言ったけど、あいつの身が危なくなるのは絶対に防がねば。

結論が出たので、俺は飲みかけのミルクセーキを持って帰って家に帰った。

携帯片手に熱い風呂にゆっくり浸かって、紅葉にメールを打とうとしていた。

何て打つか悩んでいたら、頭がクラクラしてのぼせてしまいそうになったので、シンプルに、ゆっくり休めよとだけメールして、布団をかぶった。



午前六時。

思い出したくもない過去の事が夢に出てきて、目が覚めてしまった。

体が重い。もう動きたくなくなってきた。

無理やり体を起こして、俺は家を出た。

足に枷を付けられてるみたいに足が重い。夢を見ただけでこうも影響を受けるとは思わなかった。

紅葉からのメールの返信もないし、今日はあまり気が乗らないな。

だらだら歩いていたせいで学校に遅刻しそうになったけど、ギリギリ間に合った。

教室のドアを開けると、クラスメイトが一斉にこっちを見た。

なんだよこっち見んなよ。俺がみんなの方を見ると全員が一斉に目をそらした。

苛つきながら自分の席に着こうとすると、紅葉が来ていないことに気付いた。

今日は休みか。昨日の事が尾を引いてるんだろうか。

残念なことに、森は来ていた。何食わぬ顔をして座っていた。

ま、後で先生に昨日の事を言うから、もうあいつも終わりだ。

そんな事を思っていると担任の柴門さいもん先生が入ってきて、朝のホームルームが始まった。

が、突然事態は急変した。

「昨日俺のクラス用のメールアドレスに匿名でこんなメールが届いた。『五十嵐紅葉は嫌がらせを受けている』と。これを送ってきたのは、たぶんお前らの誰かなんだろうけど、正直に先生に名乗り出てほしい。もちろん今とは言わない。話を聞かせてほしい」

なんだと?このタイミングで?俺以外に、紅葉が嫌がらせを受けている事を知ってるやつがいるのか?クラス中がざわざわし始めた。

「とりあえず落ち着けお前ら!この話は一旦終わりだ。また帰りのホームルームで話す」

そういって柴門先生は無理やり話を終わらせて、教室から出て行った。

一体誰が・・・・・・

疑問が晴れないまま一時間目の授業が始まろうとしていた。

まだクラス中が騒がしい。色々な会話が飛び交う中、みんな誰が犯人なのかを話し始めた。

そのとき、誰かが少し大きめの声でしゃべった。

「もしかして、雨乃が犯人なんじゃね?」

その言葉は、騒がしい中でもはっきりと聞こえた。

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