第3話
森の中を歩いていると、さわやかで心地よい風が流れてきた。どうしてだろう、このセカイ、ユグドラシアといったか、に着いてから心の中の欝々とした感情がかなり軽減された気がする。それにチコと一緒にいた時のような懐かしさすら感じる。不思議だな。もうチコはいないはずなのに。
「このセカイには自動車とかが無いので、空気が綺麗でしょう?」
暫く黙ってたと思ったらラミナが口を開いた。
「そうだね。気持ちがいいよ。」
私は素直に思ったことを答えた。私は森を見渡しながら、そういえば森だというのに蚊やハエのようなまとわりついてくるうっとうしい虫を見かけないなぁなどと益体もなく考えていた。そうこうしていると、足元が土から石畳に変わっていて、目の前には絵本やRPGで見るような可愛らしい石造りの街並みが見えてきた。
「ほら、あれが私たちが住んでいる町ですよ!」
ラミナが嬉しそうに私に言う。私は、
「あんな町を現実で見るとは思えなかったよ。とてもきれいな町だね。」
と答えた。ラミナはますます嬉しそうになり、蛇の尻尾を小刻みに揺らし、舌を細かく出し入れしていた。仕草やなんかは蛇に近いんだな。そう思った。
町に到着した。本当に人間はいないんだな。いや、ラミナはいないわけじゃないと言っていたが。ただ種族として繁栄するほどの人数は確実にいないのだろう。周りを見渡すとファンタジーでよく出てくる狼男のような男性がこちらを物珍しそうに見ていた。それもそうだろう。私が現実世界で彼らのような存在を見かけても同じ反応をする。もっとも、現実世界ではよくて警察に連行されるか、最悪サーカスとかヤクザの裏取引として使われるのがオチだろうが。狼男の男性のほかにもそういう趣味だったら喜びそうな猫耳の少女なんかもいた。犬人や猫人にも細かい種類があるようで、耳、しっぽ、ひげ以外は人間と変わらないように見える者から単に動物が服を着て二足歩行しているように見える者、その中間など、様々だった。もっとも、蛇人はラミナのような上半身が人間で下半身が蛇という姿がほとんどみたいだが。私がそうやって興味深そうに当たりを観察していると、
「ツヨシさん、私の行きつけのケーキ屋さんがありますので、そこでお話をしましょう!」
とラミナが言って私の手をつかんで引っ張り、
「ちょっと力意外と強っ!」
久しぶりに私は感情的に声を上げた。するとラミナは
「ツヨシさん、そんな声も出せるんですね。ちょっと安心しました。でも女の子に対して力が強いとか、失礼です!」
と笑いながら言った。私もまだ人間的な感情が残っていることに気づいて、ラミナに笑みを返した。そしてラミナに手を引かれるがままに連れていかれて行った。
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